環境ジャーナリストの会のページタイの廃プラ削減、求められる実効性
2019年08月16日グローバルネット2019年8月号
NNAタイ版編集長
京正 裕之(きょうしょう ひろゆき)
2017年末の中国による廃プラスチックの輸入規制に端を発した世界的な越境廃棄物問題は、東南アジアにも波及している。その中で、いち早く輸入の取り締まりを強化し始めたタイでは、使い捨てプラスチック削減に向けた機運が高まっている。政府は脱プラのロードマップ案を策定し、一部の大手企業はレジ袋の有料化を始めた。しかし、家庭などでの廃棄物の分別ルールがないなど、根本的な課題が残る。
タイの廃プラ規制の背景と現在
中国が廃プラの輸入規制を開始した直後の18年1月。ベトナムの首都ハノイで取材した日系の廃棄物処理企業の幹部は、ベトナムを含む東南アジア各国が中国へ輸出していた廃プラがだぶつくため、各国の自国の処理能力を高める必要があると指摘した。
その3ヵ月後、ベトナムからタイへ異動となった私は、着任直後にタイの廃プラ輸入量を調べた。すると、18年1~2月実績で前年同期比6.9倍、とりわけ日本からの輸入量は同16倍と全体の3割強を占めていた。
自国の処理能力引き上げもさることながら、すでに日本など先進国の廃プラがタイへ流れているのは明白だった。
そして同年5月にタイの浜に打ち上げられたクジラの死骸から大量のプラスチックが見つかり、海洋ごみ問題に注目が集まる。同時に廃プラの輸入急増も問題視されるようになり、タイ政府は間髪入れずに6月末には廃プラを輸入する企業のライセンスの厳格化を打ち出した。
その後はタイの廃プラ輸入量は減少傾向にあるものの、中国が規制する前の水準には戻っていない。また東南アジアでは、規制を強化したタイやマレーシアに対して、対策が遅れたインドネシアやカンボジアなどに廃プラが流れ、たらい回しの状況が続いている。
22年のレジ袋禁止は理想か現実か
タイではこうした廃プラ問題への国内世論の高まりを受け、政府が今年4月、廃プラ削減に向けたロードマップの草案を策定・承認した。
まず今年中にペットボトルのふたに付けるキャップシールやオキソ分解性プラスチックなどの使用を禁止する。さらに22年までに厚さ36ミクロン以下のレジ袋や食品用の発泡スチロールの容器、プラスチック製ストロー、使い捨てプラスチック製カップの使用を禁止するという内容だ。
草案とはいえ、私が知る限りでは東南アジアでここまで踏み込んだ規制案を打ち出した国はない。
タイは東南アジアの中では近代化が進むが、屋台文化が残り、揚げ物からスープまで持ち帰り用に使い捨てポリ袋などに入れる店が多い。それ故、規制案がどの程度具体化するのか注視する必要がある。
廃プラ問題から一般廃棄物処理へ
一方、タイの大手百貨店やスーパーは昨年来、毎月レジ袋を配布しない日を設定。7月からは一部の小売店が、レジ袋を1枚1バーツ(約3.4円)で販売するタイ初の試みを始めている。
中国の廃プラ規制と国際的な海洋ごみ問題という「外圧」が、タイの廃プラ政策を変えているのは間違いない。タイの石油化学最大手の幹部が「プラスチックは敵ではない。廃棄物に対する消費者の理解を広めたい」というように、これを機に足元で抱える一般廃棄物問題にも広がることを期待したい。
タイ当局によると、18年の一般廃棄物は前年比2%増の2,782万t。このうち27%は、焼却場や衛生的な埋め立て地で処理されていない、不適切に処理された廃棄物になる。
一般廃棄物の埋め立て処理が主流のタイでは、生分解性プラスチックに解決策を求めるべきとの声は強い。だがタイの中堅ビニール袋メーカーの社長は「生分解性のレジ袋の価格は通常の3~4倍と高い。有効な対策は家庭で廃棄物を分別してリサイクルし、埋め立て処理を減らしていくことだ」と語る。
ロードマップで使い捨てプラを禁止するだけでは解決できない廃棄物問題には行政のスピード感が伴っていない。当地に住まわせてもらっている身であるが故に、すべてのごみを1つ袋に入れてダストボックスに入れれば良いという生活にジレンマを感じている。