つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す最終回 つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す」対談

2019年06月14日グローバルネット2019年6月号

東京都市大学特別教授/地域循環共生圏の構築に向けた有識者会議委員長
涌井史郎さん
環境省総合環境政策統括官
中井徳太郎さん

2014年12月に「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトがスタートして以来、持続可能な発展をめぐり、各地で考え方を大きく変える動きが同時多発的に始まった。チームリーダーとしてプロジェクトの推進に貢献してきたお二人に、この5年間を評価していただいた(2019年4月15日、東京都内にて)。

●第五次環境基本計画で地域循環共生圏の創造を目指す

中井: 「森里川海プロジェクト」は2014年12月に立ち上がりましたが、この考え方は昨年閣議決定された第五次環境基本計画(2018年4月)で打ち出された「地域循環共生圏」に帰結しました。

第五次環境基本計画の特徴は、環境・経済・社会の統合的向上を目指すことを明確にしたことです。このこと自体は東日本大震災の翌年の2012年に閣議決定された第四次環境基本計画でも掲げていました。しかし、2050年までに二酸化炭素(CO2)の80%削減という努力目標が打ち出されたことで、岩盤のような経済社会からこぼれ落ちてくる従来の環境対策のような規制的な手法だけでは対応できない、環境・経済・社会の政策領域を別々に考えている場合ではないという思いに至りました。

「地域循環共生圏」とは、それぞれの地域がその特性を生かし、地域ごとに異なる資源が循環する自立分散型の社会を形成しつつ、地域同士が補い支え合うという考え方です。

編集部: 日本人の暮らしや文化には伝統的に「循環」という思想があり、古くからの自然観には「共生」という概念がありましたね。

●グローバルな金融の流れも持続可能な発展にシフト

中井 徳太郎(なかい とくたろう)さん

中井: 省内で環境、経済、社会を統合的に達成し、脱炭素・低炭素の動きと、従来のごみまで含めた資源循環、そして自然との共生の三本の柱を融合していくにはどのようにしていくかと考え、「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」に行き着きました。

われわれの経済社会の基盤は、自然から得られる生態系サービス、その生命システムの上にあるわけです。脱炭素、資源循環、自然共生のすべてが調和している環境・経済・社会を描くとなると、森里川海といった自然が生み出す恵み、すなわちフローの循環の中で健全な経済社会、ライフスタイルというものを描くしかありません。そこで、プロジェクトではライフスタイルから変える、ということを呼び掛けてきました。

そんな中、2015年は世界にとってエポックメイキングな年になりました。2030年までの世界の共通目標として持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択されたのが9月、そして12月にパリ協定が採択され、グローバルシステムに大きな変化がありました。特に気候変動のリスクに対して金融の流れがサステナブルな方に動き、監督当局もそれを推進する指令を出したのです。

そういう流れの中で、経済の本体である企業がRE100(事業活動を100%再生可能エネルギーで調達する取り組み。ソニーなど日本の企業も多く参加)やSBT(Science Based Targets。気温上昇2℃未満に取り組む企業の集まり)に沿って活動を始めました。

●全省を挙げて取り組み、国家プロジェクトに

中井: 「森里川海プロジェクト」を進めながら、4年かけて第五次環境基本計画めがけて地域循環共生圏の議論を深め、中央環境審議会に持ち込みました。その間、世界的潮流ということで、SDGsやパリ協定の内容を、日本の各地域の皆さん、経済界や自治体の首長さんたちに、黒船じゃないけど、「世界はこんなになってますよ。日本はどうするんですか」と問い続けてきた感じがあります。

ただ、この地域循環共生圏、森里川海の発想というのは、日本という国土で先祖代々自然と向き合いながら、暮らしの知恵を培ってきた日本人の生き方の本質に根付いたものであり、ここに世界を救うヒントがあると思っています。持続可能な発展をめぐる世界の激しい動きに比べ、日本の動きは遅れているとの指摘がありますが、日本が本家本元だという思いでプロジェクトを進めてきました。そういう議論も中央環境審議会でしていただき、環境政策の基本を定める環境基本計画の中に、地域循環共生圏という考え方と、新たな文明社会としての「環境・生命文明社会」を日本で具現化するんだということを全省で合意して閣議決定にこぎ着けました。

プロジェクトを立ち上げて国民を喚起しながらやってきた中で、世界的な動きともうまく呼応した形で、かなり突っ込んだ議論を日本でもできるようになったと思います。

編集部: CO2を80%削減することが閣議決定されたとき、わが国はどのような方法でこれを実現するのか「解」が見えない不安を感じていましたが、「地域循環共生圏」が打ち出されてからは、これは日本だけでなく、他の国々にとっても手本になる道筋を示しているのではないかと期待がふくらみました。

中井: 気候変動による地球の危機に立ち至ったのは、産業革命以降、地球が何億年にわたってストックしてきた地下資源・化石燃料を大量に地上化して燃やし、大量生産、大量消費、大量廃棄した、そういう人間活動の結果としてここまで来た。

それじゃあ駄目だ、ということが明らかになったとき、地球生態系、エコシステムのポテンシャル、われわれが恩恵を被っている自然循環系のフローが回っていく形に素直に変える。そこには人類の英知であるAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの技術が使える。フロー型の生態系サービスをわれわれの暮らしの中にうまく調和させた経済・社会の仕組みができれば、今までのような化石燃料に頼る経済の仕組みではなく、化石燃料を燃やさなくていい社会になり、おのずから80%減るという道筋を描いています。

編集部: 涌井さんには連載の中で何度もご登場いただきました。「森里川海プロジェクト」を「国際的にも誇り得る国柄を再創生する取り組み」と評価されていますが、涌井さんのライフワークに近づいているのではありませんか。

涌井: 世界ではグローバル企業が持続的な未来を希求していく状況が広がっています。先日、欧州の世界的自動車会社の環境担当の副社長と会う機会があり、「なんで環境対策に熱心に取り組んでいるのか」と尋ねたら、「われわれはグローバルなマーケットを対象にしているので、グローバルなマーケットが健康であることがわれわれの商売に最も重要です」と言うので、「健康な社会とは何か?」と聞いたら、「持続的な未来に対してこぞって立ち向かっている社会が健康なので、マーケットを考えても、それを自分たちの環境問題と合一させることは当然」という明快な答えでした。

今まさに、ESG(環境、社会、カバナンス)投資、ESG経営がはっきり出てきて、企業の生産活動そのものが持続的な未来とどのように関わっているのかが大きなテーマになっています。環境省もトップランナー企業の環境対策を支援するエコファースト事業をやっていますが、グローバリズムの進展の中でローカリズムをどうするかの答えは出されていません。それが不安定な世界の大きな要因の一つだと思います。つまり、ダイバーシティ・多様性と寛容性みたいなものをどう認知していくのか、多様性の本質は一体、何なのか、というのが置きっ放しになっている状況です。

●日本の歴史と伝統の中に持続可能な発展の解決策

涌井 史郎(わくい しろう)さん

涌井: グローバルに持続的な未来を追求しても、ローカルに目を向けるとそこに乖離感が出てきている。自分のふるさとに行くと人がどんどん出て行ってしまっている。伝統的な祭りもできない。経済力も落ちて、人がストロー現象で流出していく。経済成長のパイがやがて地方にも回ってくると言われても実感がわかないし、地域が維持できるのか不安だというのが現状だと思うんです。世界的に見ても途上国と先進国の関係はこれに似たものがある。

経済が成長しても地球は成長しない。地球は一定の環境容量しかないわけだから、その制約の中で発展するしかない。その時、どういう「解」があるかというと、わが国の長い歴史と伝統の中にヒントがある。それは何かというと、いつもひんしゅくを買ってしまうのですが、私は「廃県置藩」を提唱しています。

江戸時代の藩は極めてエコロジカルなユニットで、エネルギー、産品、職業にしても、地域ごとに自立した経済圏をつくって、人びとは自分のふるさとに誇りを持って暮らしていました。

地球の資源は一定なのに地球人口はどんどん増えていくので、このままでは分け前の奪い合い、弱肉強食の世界に行き着いてしまう。それは困るので、自分の地域はこんなに素敵だという自信と、抽象的かもしれませんが、幸福感みたいなものと経済の尺度を合わせ技で地域を見ていくことが重要です。

地域循環共生圏は、模索の末に行き着いたゴールではないかと思います。日本の美しい自然、しかし自然災害をともにしているような厳しい自然の中で生き抜いてきた英知というものは、ひょっとすると国際的なモデルになるかもしれないという中で、地域循環共生圏という姿が出てきたのだと思います。

「ローカルを起点にして、グローバルを語る」。今までと逆の発想。これは非常に画期的です。

編集部: これまでの日本の国づくりは、政府が全国一律に上からかぶせていくイメージですが、地域循環共生圏という地域を主にした国づくりが第五次環境基本計画の中に取り込まれたのはすごいことですね。

●環境省の哲学が他省の計画にもシナジー効果

涌井: 環境省のこのような方向が他省庁にも大きな影響を与えて、例えば国土交通省の第四次社会資本整備重点計画ではグリーンインフラが目玉になっている。まさにシナジーですね。

編集部: 今年2月、環境省主催でESG金融ハイレベル・パネルという会合が東京で開かれました。環境・社会・ガバナンスに配慮したESG投融資を進めようと呼び掛ける集まりで、約20の金融機関のトップが集まり、財務省、経済産業省、日銀や経団連等の担当者もオブザーバーとして参加しました。持続可能な社会を築く主力メンバーとして金融界をもリードしようとする環境省の意気込みを感じました。

中井: 環境省だけで自己完結できるわけではないので、そういう先の道筋、あるべき経済、政策の在り方を喚起しながら、ありとあらゆる政策と絡んでいる世界で、われわれが主体で他の省に「本気でやろうぜ」と声掛けをする時代になったのです。昔のように経産省と対峙する環境省ではなく、「環境省が汗をかくので一緒にやった方が、世の中良くなるんだよ」ということです。

地域循環共生圏やSDGsの本当の目標達成は、パイの取り合いではなく、新しい世界にシフトするという話ですから、一人でやるよりみんなでやる方がうまくいくと言っています。

涌井: 昔から産業革命はやがて限界が来て環境革命に移行するといわれ、まさに今、レボリューションが起きています。こういう時に何が必要かというと、実は哲学なんです。持続的な未来に対するテクニックではなく、哲学が一つになれば、おのずと行政はその哲学に準じて動いていくので、まさに環境省が哲学を発信しつつあるというところに、非常に大きな意味がある。なぜかというと皆がその光の方向に向かって飛ばなきゃならないから。

編集部: 森里川海プロジェクトは、自治体からモデル事業を募り、10地域でユニークな取り組みが始まりました。地方と国がタッグマッチを組んで地域循環共生圏づくりに挑戦しましたが、自治体の中には国からの提案が渡りに船だったと、地域活性化の取り組みを加速させたところがありました。モデル自治体の中でお二人が感銘を受けた事例はありましたか。

中井: 3年間やっていただいて、素晴らしい地域の取り組みが多く、課題も含め、すごく良かったです。

滋賀県の東近江市の事例は、これから取り組む自治体のモデルになると思っています。東近江市は第二次東近江市環境基本計画(2017年4月)の中で、国の第五次環境基本計画を先取りするような環境・経済・社会を統合した「市民が豊かさを感じる循環共生型社会」の構築を目指しています。

鈴鹿山中から琵琶湖にそそぐ愛知川の流域自治体が合併(2005年2月)によって東近江市にまとまった時期と重なり、かつ、滋賀県は琵琶湖の水質を守るために住民が立ち上がって、再生エネルギーを活用する菜の花プロジェクトを成功させている地盤で、さらに非常に環境意識が高いのに近江商人の伝統があって商売にも長けているということで、森里川海プロジェクトにうまくフィットしました。

市民、事業者、行政、専門家が対等の立場で参加する環境円卓会議というプラットフォームがあり、そこで出てきた課題を経済として回す仕組みがある。「東近江三方よし基金」という市民ファンドをいち早く立ち上げ、行政や地域金融機関が関わって事業展開する道筋をつけ、それを学んでローカルファンド、森里川海ファンドを作る動きが各地に広がっています。

●大量生産ではなくその地域ならではのものづくり

涌井: 私は「祭りが地域の防災訓練になる」とかねてから考えています。祭りには地域住民、商人のほか、両替商や火消しなど多様なステークホルダーが参加します。祭りという大変な行事のときに、狭い路地に多くの人が集まる異常事態をうまく取り仕切る役割を決めたのです。それが結果として災害のときに効果的であった。だから地域の防災訓練と言っているのです。

10のモデル地域の発表を聞いて、それぞれの良さをお互いに啓発し、最終的にどこに課題があるのか学び合うことができました。地域をベースにして考えるときに何が必要かというと、「豊かさを追い求められなくても、豊かさが深まる」ということなのです。

自分たちの地域は人口が減り、自然災害に見舞われ、お金も回ってこなくて脆弱性が高い。これを打開するのに何が必要なのかというと、新たな時代が来たというところから来るヒント。これからは大量生産モデルルで物が売れるかというとそうではない。その地域ならではの物が一番魅力的になってくる。

私が今、背広の襟に付けているピンバッチは岐阜の匠の技の組子。ピンセットで作る小さな組子で、神社の扉や欄間などに、釘を使わないで木を組み付ける木工技術です。ちょっとアレンジしてカフスボタンを作ったらここでしか見られない魅力がある。こういう物にはお金を払おうと思うでしょう?

それから山形県鶴岡市のベンチャー企業が開発したクモの糸からヒントを得た人工の糸。ワイヤーよりも丈夫なものを量産している。今までは地下資源に依拠してきた文明だったけれど、これからは地上の部分、つまり、生き物から学んだ知恵を生かしていく。

人工のクモの糸を作る工場を作ろうとしたら数十haのプラントが必要になります。

地域循環共生圏とはそういうことなんですよ。今まで資源でも何でもなかったものを、改めて眺めて見ると、それが資源に変わってくる、そういう見方をしましょうよ、ということです。

編集部: 「森里川海からはじめる地域づくり 地域循環共生圏構築の手引き」ができました。例えば国連のSDGsという、世界がこぞって目指している目標がありますが、森里川海プロジェクトの手引きは国際的にも手本になるのかな、通用していくのかなと思いますが。

中井: 10地域の実証例も踏まえながら、これをどう広めるか。われわれは10地域で終わらずに、日本全体、そして世界にも、という思いで進めています。

「エコロジカルシンキング・ワークシート」という、森里川海の過去・現在を、地域の経済・社会の相互作用から把握し、それを将来の森里川海と経済・社会をどのように描いていくかを整理する仕組みを提案しました。やる気さえあれば、地域で議論しながら具体的に何をしなければいけないかが見えてくる。この手引きを使って自分の地域のことを深く考え、地域循環共生圏の実践をどんどん進めていってほしいです。

●「町残し」に必要な地域の金融機関の役割

涌井: 今まで役所というものは中央や上を見ていることが仕事だったんです。つまり、どういう指示が来るか。その指示を自分の地域にどう投影したらよいかという発想だった。だけど、今は自分の水平方向にサーチしよう、場合によると自分の等身大のまなざしで地域を見よう。そうすると行政はどうやったらいいのか、存外わからないんですよ。なぜなら、今までは指示を待っていたのですが、これからは発見。その発見の仕方というのが、「エコロジカルシンキング」の意味なんです。非常にわかりやすいし、使いやすい。

僕は今や「町おこしなんて言葉は古い」と言っているのですが、地方に行くと「そうだ! 町残しだ!」とみんな言っている。今はまさにそういう状況なのです。うちの町を残すためにはどうしたらいいかと皆、真剣に考えている。そういう時に「手引き」をわかりやすく説明したら干天の慈雨だと思います。

一番危機感があるのは地域の金融機関です。自分たちのお客さんと預金がどんどん逃げている。だから、そういったところも非常に関心があります。東近江なんか、まさに地域の金融機関をうまく組み込んだ事例です。

大事なことは地域の金融機関が敏感になっている一方、大企業はSDGsをどうするかと模索している。やがて気付くと思いますが、SDGsはゴールなんですよ。その企業がどういうゴールを探したかというのが重要で、地域循環共生圏を目指しているわが町で取り組んでいることを、自分のゴールにしようという企業が出てきたら説得力がある。SDGsのゴールが地域循環共生圏そのものだと考えてもらうことが大事なんです。

●地域循環共生圏は世界に打ち出せる概念

中井: 地域にSDGsを具体的に展開して、地域の人たちが自分のものとしてやっている多種多様な取り組みがSDGs達成の完成形なんです。だから、「Localization of SDGs」ということになり、これは世界に打ち出せる概念で、われわれはアジアやG20などSDGsの首脳会議にも持っていこうという発想なんです。

SDGsの17のゴールは、環境・経済・社会の課題がバランスよく入っているのですが、達成された社会像は描かれていない。地域循環共生圏の経済社会の姿は、ネットワークして、再生エネルギーも使われて、福祉と医療の問題も全部絡んでライフスタイルが良くなっている、地域の自然資源が活性化して…と描いてみたらこうなります、という社会像・経済像なのです。

編集部: 涌井さんは、地域の自然資本を重視するということが、環境省が新しい社会像を描くことの意味とおっしゃっていますが、地域循環共生圏づくりの主役としての環境省の役割は大きいですね。

●人間にとって必要なのは生命の共感が得られる場所

涌井: まったくその通りだと思います。もっと大胆に言いますと、平成元年に、企業の株の時価総額でいえば世界のトップ100社のうち日本の企業が34社ありましたが、今はトヨタ1社。今はみんなGAFA(グーグル、アマゾンなどのIT企業)ですね。この企業の本社はニューヨークにあるわけではない。皆、自然環境の良い所、米国ではシアトル、ポートランド、フロリダなどにある。

なぜかといったら、先ほど多様性の議論をしましたが、コンピューターの世界は絶対多数が正しいんですよ。49対51なら51が良くて49のことは忘れてしまう。その方が伝えやすいからです。そうすると多様性もへったくれもなくなり、そこに大きな課題があるんです。

Society5.0(日本政府が進めているテクノロジーを活用した社会の仕組みづくり。第五期科学技術基本計画の中で2016年から2020年までの計画として示されている)はものすごく新しい文明社会を目指しているのですが、その中ではアナログな生命体である人間が立ち遅れていく。その人間が改めてクリエーションやイノベーションを考えようとしたときに、何が必要かというと、もともとの「生命の共感が得られる場所」に行くのが一番いいし、ストレスを解消できる。

現実に今、東急電鉄が幹事役になり、多摩川沿岸の企業が一体になって、多摩川という資源をどう使おうか、という「プラチナ多摩川構想」というのがあります。去年から多摩川に大きなテントを張って、そこで仕事をする「キャンピングオフィス」というのを始めたのですが、ものすごく生産性が上がって好評だそうです。

しかし、そんなことがどんどん生まれ始めていること自体を実は地域の人は知らない。「こんなに緑があると手入れも大変でイノシシもいて…」ということしか考えない。ひょっとしたらそういったところが世界最先端の産業の拠点になる可能性が十分あるのです。

これだけ交通網が発達して、2030年までにあらゆる過疎地から東京まで最大5時間で行けるようになる。そういうアクセシビリティが確保されるようになると、「マルチハビテーション」といって、東京で3日、地方で4日生活するというという可能性だって十分ある。

だから、地方はもっと自信を持ってほしい。「手引き」に載っている曼陀羅(。地域循環共生圏で実現を目指す項目を落とし込んだ絵図を「曼陀羅」と称している。pdfファイルはこちらからダウンロードできます。)はそうやって読むということです。地域循環共生圏というのは決してエコロジーだけではなくエコノミーと合一しているのです。

地域循環共生圏(日本発の脱炭素化・SDGs 構想)(通称「曼荼羅」)

われわれは上野駅からスタートした。そうしたら品川駅からスタートしたSDGsという新幹線があって、走っているうちに線路が近づいてきた、という感じ。フロイトじゃないけれど、世界中で潜在意識の共通認識というものが今、起きているのです。

編集部: 森里川海プロジェクトは今後どのように進めていくのですか。「手引き」ができたので、地方でさらにモデルケースを増やすようなことも考えていらっしゃいますか。

●地域循環共生圏の「道場」としてのプラットフォームを作る

中井: 地域循環共生圏を各論で進めていくには、地域にプラットフォームができて、そこに人・金・技(技術)、そういうものがうまく融合して、やりたいことが動いていく。そのためには経済の仕組みづくり、人材育成も必要です。それを支援する全国的なプラットフォームを作ろうと思っています。

新たな自治体に手を上げ、曼陀羅を描いてもらいます。進んでいるところは環境省の再生エネルギー事業やファンドも入れて、具体的な事業性のあるプロジェクトに取り組んでもらいます。それぞれのステージに合わせてアドバイスができるようにしたいと思います。

私はプラットフォームは「道場」だと言っています。地域循環共生圏の形成道場という感じで、私たちも同じ目線で地域のいろいろな事例に関わりながら、一緒にプレイヤーとして学んでいきたいです。

環境省は従来、職員が少ないので自治体や企業さんに「職員を助っ人で出してください」とお願いしていました。これからはそうではなくて、「こんな面白いことをやっているんだから、みんなで学びましょう」「道場に来て、腕を磨いて、地元に戻って師範になってみませんか」と呼び掛けています(笑)。

涌井: なかなか師範代の太刀筋が厳しいと思いますが、国と自治体、民間が一体になって取り組まないと実現できない。

中井: 道場展開をやって、地域づくりに税金もしっかり投入していく。皆さんに関心を持っていただくことも大事なので、森里川海プロジェクトは新しい地域・社会をつくる運動として、普及啓発も展開していこうと思っています。

中井 徳太郎(なかい とくたろう)さん
環境省大臣官房総合環境政策統括官。大蔵省に入省後、富山県庁へ出向し、日本海学の確立・普及に携わる。2011年7月環境省に異動し、大臣官房審議官、廃棄物・リサイクル対策部長などを経て、2017年7月より現職。
涌井 史郎(わくい しろう)さん
東京都市大学環境学部特別教授、地域循環共生圏の構築に向けた有識者会議委員長。造園家、ランドスケープアーキテクト。岐阜県立森林文化アカデミー学長、なごや環境大学学長、国連生物多様性の10 年日本委員会の委員長代理なども務める。

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