環境条約シリーズ 3262022年11月までに発効する可能性の高い2010年HNS条約
2019年05月15日グローバルネット2019年5月号
前・上智大学教授
磯崎 博司
ヨーロッパ連合(EU)理事会は、2017年4月25日に、危険物質および有毒物質(HNS)の海上輸送に伴う損害についての責任および補償に関する条約(HNS条約)の下の2010年議定書の早期批准に関する決定を採択し、できる限り21年5月6日までに批准するよう加盟国に要請した。その背景には、一方で、EUにおいて民事分野の法制度協力に関する事柄については、各加盟国ではなく組織としてのEUが排他的権限を有していること、他方で、多くの条約がEUに締約当事者適格を明認している(ただし、発効要件数には加算しない)のに対して、HNS条約はそれを明記していないことがある。
ところで、HNS条約は、梱包形態のHNS貨物の輸入量の把握およびその報告が困難とされ批准が進まなかった。そのため、発効前に条約を改正する2010年議定書が採択され、梱包形態のHNS貨物をHNS基金への拠出対象から除外し、その輸入者は拠出責任を負わないこととされた(本誌1997年4月、2009年5月)。なお、HNS基金の運営規則を含めて主要事項は、発効から30日以内に開かれる基金総会において審議され、決定される。その決定過程に参加することは、輸入量から見てHNS基金への主要拠出国となる日本にとっても重要である。
EU主要国は早期批准を表明しているため、上記目標日までに発効要件(12ヵ国、特定の船舶保有量および拠出対象HNS貨物量)が達成され、2010年議定書(2010年HNS条約)は、その18ヵ月後(22年11月6日まで)に発効する可能性が高い。
発効要件の達成後に締結した国については、締結の3ヵ月後に発効するので、上記の想定でも8月6日までに締結手続きをとれば間に合いそうである。しかし、その手続きに併せてその前年(21年)の拠出対象HNS貨物の受取量報告書も提出しなければならない。そのため、行政対応と関連企業の準備にかかる期間を考慮すると、遅くても締結の前々年(20年)には関連国内法令が整備されている必要がある。