NSCニュース No. 119 2019年5月 定例勉強会報告「環境報告ガイドライン2018年版及び環境コミュニケーション大賞受賞企業による発表」

2019年05月15日グローバルネット2019年5月号

NSC代表幹事、横浜国立大学国際社会科学研究院教授
八木 裕之(やぎ ひろゆき)

環境省から、昨年6月に「環境報告ガイドライン2018年版」、本年4月にその解説書が公表された。同ガイドラインは、国際的な報告フレームワークの進化、IIRC(国際統合報告評議会)、TCFD(気候変動財務情報開示タスクフォース)、SDGs(持続可能な開発目標)、パリ協定などの影響を踏まえて改定された。

NSCでは、定期的にこれらのサステナビリティコミュニケーションをめぐる動向について勉強会を開催している。今回は、最先端の環境報告の取り組みと今後期待される環境報告の在り方を検討した。講演者としては、環境省の環境報告ガイドライン及び解説書の担当者、2018年度環境コミュニケーション大賞受賞企業のトヨタ自動車とイオンの環境報告担当者を招いた。

トヨタ自動車の取り組み

トヨタ自動車株式会社環境部長山戸氏からは、環境報告書2018作成の取り組みについて発表があった。同社では、環境にプラスの影響を与え、持続可能な社会の実現に貢献するための「トヨタ環境チャレンジ2050」を2015年に公表している。2018年度はこれを実現するための六つの2030マイルストーンが設定され、その取り組みの進捗状況が報告されている。

2030マイルストーンについては、リスク分析やTCFDなどで提示されているシナリオ分析が行われている。後者では、電動車販売、工場での生産活動を対象として、IEA(国際エネルギー機関)のシナリオに基づいたマイルストーンのレジリエンスが検証されている。同社では、今後も、シナリオ分析に基づいた、リスク項目の選定、指標シナリオの検討、事業への影響の定量的な把握、事業計画へのフィードバックなどが進められる予定である。

イオンの取り組み

イオン株式会社環境・社会貢献部担当部長金丸氏からは、同社の環境コミュニケーション媒体物作成について発表があった。同社では、1996年から環境報告書を公表しているが、近年は、急速に変化するステークホルダーの情報ニーズに対応するために、コミュニケーション媒体の再編が継続的に行われている。2018年度は、顧客、行政、NPO、従業員向けに理念・歴史・事業と環境・社会への取り組みを紹介した「AEON2018」、投資家を対象とした「ESGブランドブック」、外部評価機関、専門家、有識者を対象とした「イオンレポート2018」を公表している。

中・長期目標については、脱炭素ビジョン2050(2030年・2050年)、食品廃棄物削減(2020年・2050年)、持続可能な調達(2020年)の詳細な説明が行われたが、同社では、SDGsとの関連性を踏まえ、中・長期目標の達成状況を継続的に公表している。

環境報告ガイドライン2018年版

環境省大臣官房環境経済課菅生氏からは、ガイドライン改定の背景と考え方、記載事項についての発表があった。同ガイドラインでは、SDGs、パリ協定などによって持続可能な社会の取り組みの国際的方向性が確立され、企業の事業環境や活動が大きく変化する中で、組織の対応力や将来の方向性を明らかにすることを求めている。そこでは、広範なステークホルダーへの直接的・間接的影響、そのコントロール状況などが、社会やステークホルダーのマテリアリティに対応して開示される。

解説書では、開示が求められている記載事項について、事例を用いて詳細に説明されており、環境報告と統合報告、サステナビリティ報告、財務報告との関係も明示されている。

会場からは、シナリオ分析の導入プロセス、経営戦略にシナリオ分析が及ぼした影響、環境報告媒体をブラッシュアップするプロセス、環境報告とステークホルダーエンゲージメントとの関係性、環境報告ガイドラインと解説書の関係性やこれらに対する企業の反応などについて質疑応答が行われた。

今回発表があった2社では、中・長期の環境目標の設定とその経営計画への統合、実施計画の作成、進捗管理などが着実に進められていた。中・長期のシナリオ分析や目標・実施計画の策定などは容易ではないが、持続可能な企業経営を実現するためには不可欠な要素である。NSCでは、今後も企業の皆さんと一緒にこれを実現するための勉強会を開催していく予定である。

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