環境ジャーナリストの会のページ住宅太陽光に「環境価値」、今後5年で670万kWを創出
2019年04月15日グローバルネット2019年4月号
フリーランス
廣町 公則(ひろまち きみのり)
太陽光発電が、新たなフェーズに移行する。今年11月より、住宅用太陽光の「卒FIT」案件が大量に出現するのだ。そこで生まれる電力には、新たに「環境価値」が付与されることになる。それは、もはや再エネ賦課金(国民が電気料金の一部として負担しているFITの原資)を必要としない、自立した再生可能エネルギーだ。
「卒FIT」53万件
2009年11月にスタートした太陽光発電「余剰電力買取制度」の初年度認定案件が、今年11月より、10年間の買い取り期間満了を迎える。同制度は2012年に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」に移行し、認定案件は増大し続けた。買い取り期間を満了したものは総称して「卒FIT」と呼ばれ、その周辺には大きなビジネスチャンスも期待されている。
太陽光発電設備は、国の買い取り保証期間である10年を過ぎても、まだまだ発電し続ける。そこで卒FITユーザーは、改めて「①自由契約によって余剰電力を売電する」か、あるいは「②家庭用蓄電池などを導入して、発電した電力を可能なかぎり自宅で使う(自家消費)」ことを考えるようになる。
こうしたニーズを取り込むべく、「①卒FIT電力の買い取りサービス」や、「②自家消費のための蓄電システム」に商機を得ようとする動きが広がっているのだ。経済産業省によると、卒FIT案件は2019年だけでも53万件。2023年には累計165万件、発電設備容量では合計670万kWにも達するという。最初の5年間だけで、実に原発7基分相当のボリュームだ。
RE100企業に訴求
ここでは、卒FIT電力の持つ意味について考えてみたい。まず、冒頭で触れたように、卒FIT電力には「環境価値」が認められる。再エネに環境価値があるのは当たり前のようだが、制度上、FITで買い取られた電力に環境価値は付与されてこなかった。「FIT電力の環境価値は、再エネ賦課金を支払っているすべての国民に帰属する」ので、再エネの価値をうたってはいけないというルールなのだ。
このルールの是非はともかく、FIT期間を満了した発電設備でつくった電力は、晴れて環境価値のある再エネとして扱われることになる。そして今、この卒FIT電力を求める機運が、RE100(事業運営を100%再エネで行うことを目標に掲げる企業の国際イニシアチブ)加盟企業など大口需要家の間で高まっている。
前述のとおり、FIT電力は再エネとは認められないので、再エネ調達比率を高めたいRE100加盟企業は、実際の電力とは別に「グリーン電力証書」や「J-クレジット」「非化石証書」などを購入する必要があった。しかし、卒FIT電力であれば、こうした証書を購入することなく、そのままで再エネとして認定されるのだ。
家庭から卒FIT電力を買い取り、再エネ志向の需要家に供給するサービスは、大手電力、新電力をはじめ既にいくつかの企業から表明されている。中部電力と提携するイオンなど、RE100加盟企業が自ら参画するケースも見受けられる。さらに、国内建築業界で初めてRE100への加盟が認められた積水ハウスのように、顧客の卒FIT電力を直接買い取り、再エネ導入目標の実現に向けた自社事業用電力として使っていこうという動きもある。
再エネのベネフィット
卒FITの出現は、再エネのベネフィットを改めて教えてくれる。日本では、国民負担(再エネ賦課金)ばかりが強調されるが、FIT期間が終われば、それは最安値の電源となる。地球温暖化対策に貢献することや、エネルギーセキュリティを高めてくれることは言うまでもない。再エネなら“3.11”も起こり得ない。再エネ賦課金は、コストではなく、将来世代への投資なのだ。
フランスでのCOP21以降、世界の潮流は完全に再エネにシフトした。ところが、わが国は「再エネの主力電源化」を掲げる一方で、いまだ「原発」に固執する。しかし、本来その二つは両立するものではないはずだ。私たちは、明日を、選ばなければならない。