環境条約シリーズ 324日本各地の「来訪神」が無形文化遺産に登録~無形文化遺産条約~
2019年03月15日グローバルネット2019年3月号
前・上智大学教授
磯崎 博司
2011年11月にインドネシア・バリにおいて、無形文化遺産条約(本誌2009年12月)の第6回政府間委員会が開かれた。そこでは、日本の第2回提案に含まれていた「男鹿のナマハゲ」について、「甑島のトシドン」(既登録:2009年)との類似性が指摘され、基準2(無形文化遺産についての認知およびその重要性の認識を確保し、対話を誘発することを通じて、世界的な文化の多様性の反映および人類の創造性の証明に貢献すること)との関係で「情報照会」の扱い(詳細な追加説明が必要)とされた。
そのため、2016年6月に、「甑島のトシドン」の拡張案として、以下の10件から構成される「来訪神:仮面・仮装の神々」が改めて提出された。それらは、男鹿のナマハゲ(秋田県男鹿市)、吉浜のスネカ(岩手県大船渡市)、米川の水かぶり(宮城県登米市)、遊佐の小正月行事(山形県遊佐町)、能登のアマメハギ(石川県輪島市・能登町)、見島のカセドリ(佐賀市)、甑島のトシドン(鹿児島県薩摩川内市:既登録)、薩摩硫黄島のメンドン(同県・三島村)、悪石島のボゼ(同県・十島村)、宮古島のパーントゥ(沖縄県宮古島市)であり、いずれも、仮面・仮装の異形の姿をした者が「来訪神」として家々を訪れ、怠け者を戒めたり人びとに幸福をもたらしたりする行事である。
しかし、同年には審査の上限(50件)を超える提案(56件)が寄せられたので、登録遺産のない国を優先するという手続規則に基づき、登録件数が多い日本の提案の審査は先送りされた。そのため、2017年に再提案され、審査が始められ、2018年11月にモーリシャス・ポートルイスで開かれた第13回政府間委員会において、「来訪神:仮面・仮装の神々」を登録簿へ記載することが決定された。
各地の来訪神は、人口減少や生活様式の変化に伴い、担い手不足や招き入れる家の減少などの課題を抱えている。今回の登録により、来訪神の役割は世界的に評価され、関心も高まった。そのことが、上記の課題の解決の一助となることを期待したい。