フロント/話題と人アラン・ソーントンさん(環境調査エージェンシー(EIA)会長)
2018年11月16日グローバルネット2018年11月号
日本も象牙市場の閉鎖を 「アフリカのゾウを救いたい」と報告書を発表
「今までで一番うれしかったことは、1989年に象牙の国際取引禁止が決まってアフリカのゾウの赤ちゃんが増えたこと。まるで奇跡だった。最も悲しかったことは、1997年にワシントン条約に例外が認められて取引が再開され、ゾウがまたどんどんと殺されたこと。身が引き裂かれそうだった」と語るのは、EIA会長のアラン・ソーントンさん。EIAは、調査で集めた証拠を基に追及する手法で環境問題の解決に取り組んでいるNGO。ソーントンさんは10月に来日し、東京で「象牙のハンコ:日本の違法な象牙取引&アフリカのゾウの悲劇の元凶」という報告書を発表した。
報告書の基となったハンコ調査は今年3~5月にかけて、東京等の3大都市圏を中心にハンコ小売店に覆面調査員が接触し、「象牙製のハンコを海外に持ち出す予定だが購入は可能か」「象牙製のハンコを海外に持ち出すことが違法であることを知っているか」等を尋ねた。その結果、303店のうち半分以上の175店は販売しようとし、さらには、海外への持ち出し方法について助言を与える店もあった。日本の未加工象牙の80%は、ハンコ製造のために消費されているという。
ソーントンさんはEIAの創始者でもあるが、1988年から象牙取引を停止させようと覆面調査を開始した。当初は「実現不可能だ。自分の命を危険にさらす」と周囲から忠告されたというが、その調査報告書の発表が、1989年のワシントン条約での象牙の国際的な商業取引禁止の決議につながった。
日本にもワシントン条約に基づき、象牙を管理する制度がある。しかし、合法性を証明する登録制度は抜け穴だらけで、いまだ国内市場は合法であり、そのためにアフリカのゾウの密猟は終わらない、とEIAは指摘する。2016年、同条約の文書「決議10.10」に国内象牙市場の閉鎖を求める勧告が追加され、それと相前後して、米国、中国は国内市場を閉鎖、香港も2021年までに閉鎖を宣言している。日本にも2020年のオリンピックを迎える時までに、象牙市場を閉鎖することが求められる。
「小さいころは獣医になりたかった」というソーントンさんは、環境問題の解決という形で多くの野生動物を救うことに貢献している。 (亜)