特集/海洋ごみからプラごみ問題を考える~日本のリサイクル事情と脱プラスチックの動きプラスチックごみから海を守ろう

2018年10月16日グローバルネット2018年10月号

一般社団法人JEAN
小島あずさ(こじまあずさ)

海洋ごみは、「古くて新しい問題」と言われている。昔から、ごみは人の生活や産業に伴って発生し、その一部は海にも漂着していた。しかし、昔のごみは現在と比べると数量がずっと少なく、天然素材のものが主体だったので、年に1~2度回収すれば、きれいな景観を維持することができていたのだ。だが、今海岸に漂着しているごみのほとんどはプラスチック製品とその破片であり、数量も多く、誰かが回収しない限りずっと環境中に残り続ける。プラスチック製品の使い捨てによって、海はプラスチックごみがあふれる場所になってしまった。

化学繊維製の漁網やロープがアザラシやウミガメなどに絡まり被害を起こすことがあるが、分解しないために自然には外れない。魚や海鳥が餌と間違えて飲み込んでも消化されない。プラスチックは軽いので風や波に乗って、はるか遠く、地域や国を超えて移動する。このように、プラスチックの特徴が、ごみになったときに問題を深刻なものにしてしまうのである(写真)。

プラスチックごみを誤飲していた海鳥の死骸。北西ハワイのレイサン島にて。

海辺のごみというと、レジャー客の置き捨てごみや、釣りや漁業や港湾作業で発生するものが多いと思われがちだ。しかし、実際に回収したごみを細かく分類して個数で記録を取り、海辺のごみの実態を把握する市民調査であるInternational Coastal Cleanup(ICC、国際海岸クリーンアップ)の結果では、70%以上は陸域で使用される生活ごみであることがわかっている。

ごみはどこから?

飲食容器のように、海辺での利用後にごみになるものもあるだろうが、洗剤やシャンプーや漂白剤の容器、歯ブラシや化粧品、文房具、子供のおもちゃ、ハイヒールやビジネス用等の革靴、注射器や点滴のセット等々、海とは関係のない場所で使用したものが海岸に漂着・散乱しているのである。

日本では、市町村ごとにごみの分別や回収のルールが細かく定められ、住民の多くはそれを守っているはずだ。きちんと分けたものを、決められた日に決められた場所に出し、自治体が回収する。町はきれいに見え、ポイ捨て行為を直接目撃することはめったにない。しかし、なぜ陸域で出た生活ごみが海にまで行くのか。容器包装類の回収率は高く、例えばペットボトルのリサイクル率は83.9%(2016年PETボトルリサイクル推進協議会)と、業界も胸を張る高率であるというのに。

私は、ほぼ毎朝、犬の散歩のついでにごみ拾いをしている。30年以上続けているが、当初は、1週間もすれば拾うごみが激減するだろうと思っていた。しかしいくら拾っても、ごみはいっこうに減らない。毎朝大きめのレジ袋サイズで2~3袋分のごみが見つかる。たばこ、飲料容器、菓子袋等からは、歩きながら飲んだり食べたりした後にポイ捨てされる光景が見えるようだ。だが時々、納豆、豆腐、マヨネーズなど、どう考えても歩きながら食べることはない食品の容器が落ちている。不可解に思っていたあるとき、頭上から納豆パックが落ちてきて見上げると、家庭からのごみ袋を集積場所から持ち出したカラスが、樹上で散らかしていた。カラスのいたずらばかりではなく、強風や大雨など荒天による散乱もよく見る光景だ。たばこの吸い殻は、排水溝に捨てられていることが多いが、その先はどこに行くのか、捨てる人は想像すらしていないのだろう。

町のごみ拾いから見えてくるのは次のようなことだ。ルールを守ってごみを出したつもりでも、収集までのわずかな時間帯に散乱してしまうものは相当量になるのではないか。路上でも人が立ち止まる交差点などにはごみが多いし、駐車場やコンビニの店舗周辺などには日常的にごみが散らかっている。

こうした市街地や道路の散乱ごみのうちの、ごく一部は、風や雨に運ばれて側溝から川へと流れ込む。そして、さらにそのうちの一部は海へと流れていく。海に出たごみは、波、海流、風で運ばれて移動するので、強い海流や季節風の影響を受ける海岸には、ごみがくり返し漂着し、やがて高密度にたまっていくのだ。

新たな海洋汚染 マイクロプラスチック

さらに近年、世界中から注目されているのがマイクロプラスチックの問題で、専門的な調査や研究が急速に進められている。マイクロプラスチックは、5mm以下のサイズになったプラスチックのことで、単位のマイクロメーターとは異なるものだ。洗顔料や工業用の研磨剤などに使われるプラスチックマイクロビーズなど、初めからごく小さなサイズで作られたものを一次的マイクロプラスチックという。これについては、欧米をはじめ世界各国で使用や販売を禁じる法的措置が取られているが、日本では業界の自主規制に頼っている状況である。

対して、二次的マイクロプラスチックは、プラスチック製品がごみとなって環境中に出た後に、劣化して微細な破片になったものを指す。過去数十年にわたって、私たちが使い捨ててきたプラスチックのごみが、今は無数の破片となって大問題になっているというわけだ。丈夫で長持ち、と思われているプラスチック製品だが、屋外で使う洗濯バサミやポリバケツなどがいつの間にかボロボロになっていることに気付くことがある。海のごみになったプラスチックは、漂流中も、漂着後も、波浪の衝撃や高い気温や紫外線にさらされて、劣化し、やがて細かい破片になっていくが、目に見えないほど小さくなっても分解はしない。崩壊はするが、分解はしないのである。

マイクロプラスチックには、いくつもの問題点が指摘されている。小さくなると、小さな生物が摂取してしまう。プラスチックごみは、漂流中に、海水中の微量な有害化学物質を吸着することがあり、製品にもともと添加されている化学物質には有害なものもある。それらの有害化学物質は、ごみを摂取した生物の体に移行したり、食物連鎖を通じてより上位の生物に移行したり、高濃度に蓄積される可能性がある。そして何よりも、もはや回収は不可能なのだ。

マイクロプラスチックが新たな海洋汚染として認識されたことで、プラスチックによる海洋汚染問題への社会的注目が急激に高まった。2015年にドイツで開催されたG7エルマウサミットで、首脳宣言にこの問題が明記され、行動計画が採択され、以来、主要7ヵ国では毎年この問題に取り組むことを確認してきた。世界経済フォーラムにおいても、プラスチックによる海洋汚染問題は議題として取り上げられて、多数のグローバル企業が次々と対策に乗り出している。

日本は、シャルルボアサミットで提案された海洋プラスチック憲章に署名しなかったことへの批判を受けて、具体策の策定はG20までに、先送りしているように見える。3R推進を唱えながらも、最も肝心なReduce(発生抑制)の実行が遅れている日本。

私たちは、日本発のごみがハワイや北米大陸の太平洋沿岸でたくさん見つかっていることを認識しなくてはならない。そして、海にプラスチックごみを出さない国になるために、プラスチックによる海洋汚染についての当事者意識を持ち、消費から廃棄までの自分の行動を変える責任があると思う。

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