INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情 第49回 青空保護勝利戦 3年行動計画
2018年08月20日グローバルネット2018年8月号
地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)
大気汚染防止行動計画の成果
話は5年前にさかのぼる。2013年1月、年明けとともに深刻な大気汚染が中国全土を襲った。ちょうどこの年の1月から全国の主要74都市で大気汚染物質6項目のリアルタイムモニタリングと即時公表を始めていて、汚染の原因物質はPM2.5と判明した。中国のPM2.5の環境基準値は日平均で75μg/m3(日本は35μg/m3)であったが、ほとんどの日が基準値を大きく超えた。事態を重視した国務院(日本の内閣に相当)は、この年の6月かつて例のない大気汚染防止行動計画の制定を決定し、9月に策定通知した。計画期間を2013年から17年までの5年間として以下のような目標を設定し、全国の地方政府に徹底した措置を講じるよう求めた。
「2017年に全国の地区級以上の都市の粒子状物質濃度を2012年比10%以上低減し、優良天気日数を年ごとに増やす。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタなどの地域の微小粒子状物質濃度をそれぞれ25%、20%、15%程度低減し、そのうち北京市の微小粒子状物質の年間平均濃度については60μg/m3程度にする」。
計画最終年の2017年夏には目標達成を確保するため「青空を守る戦い」(北京天津河北省および周辺地域の2017~18年秋冬季大気汚染総合対策攻略行動計画)を宣戦布告し、これらの地域や目標達成が遅れている地方に対して、さらに徹底した対策を講じるよう求めた。その結果、北京市では目標値60μg/m3を達成し2017年の年平均値は58μg/m3まで下がった。全国平均と三つの重点地域はいずれも図に示すように目標を上回って達成した。しかし、個別に見ると山西省の晋城市や河北省の邯鄲市など一部の都市では割り当てられた目標を達成できず、責任者に対して公開喚問や問責処分が行われた。
青空保護勝利戦3年行動計画の策定
上述のように大気汚染防止行動計画は当初の目標を上回る成果を上げたが、目標を達成したといえどもPM2.5濃度は環境基準レベル(年平均値で35μg/m3)にはなお程遠く、オゾンについては5年前よりも大きく悪化するなどの様相を呈した(主要74都市の年平均濃度139→167μg/m3に上昇)。このため、国務院は引き続き対策を強化していくこととし、今年6月27日に大気汚染防止行動計画の後継となる青空保護勝利戦3年行動計画(以下、「3年行動計画」)を策定通知し、7月3日に公表した。2018年から20年までの3年計画で目標年は2020年とした。これは現在制定されている生態環境保護第13次5ヵ年計画が2020年までの計画になっているのと整合を取ったものだ。3年行動計画では5ヵ年計画の目標と整合を取って同じ目標とした。具体的には次のような目標である。
- 2020年までに二酸化硫黄および窒素酸化物の排出総量を2015年比でそれぞれ15%以上低減させる。
- 2020年までにPM2.5環境基準未達成の地区級以上の都市の濃度を2015年比で18%以上低減させる。
- 地区級以上の都市の大気質の優良日数比率を80%に達成させる。
- 重度以上の汚染の日数比率を2015年比で25%以上低減させる。
以上のほか、⑤第13次5ヵ年計画の目標を前倒しで達成した省は改善の成果を維持し、より強固なものにしなければならない⑥達成できていない省は削減義務の全面的達成を確保しなければならない⑦北京市は大気環境質改善目標を、第13次5ヵ年計画目標をベースにしてさらに引き上げなければならない―を加えた。
また、新たに注目すべき点としては、目標に「3年間の努力を経て、主要大気汚染物質の排出総量を大幅に削減し、そのコベネフィット効果として温室効果ガスの排出量を削減する」という文言を加えたことである。今年3月の中央政府の機構再編により新たに誕生した生態環境部が気候変動対策を全面的に所管することになったこと、中国政府がようやく温室効果ガス削減に本腰になってきたこととも関係しよう。
3年行動計画の目標が強化されていないという声もあったが、計画策定に参加した専門家の話によれば、各地域に新たな目標を与え直すことはすでに進めている5ヵ年計画達成のロードマップを一から見直すことになり、現場に混乱を与えることから整合を取ったという。しかし、具体的に見ると重点地域の達成期限の前倒しなど実質強化された部分が少なくない。
その他、3年行動計画では重点地域とその範囲も一部変わった。従来の北京天津河北省地域は、同地域とその周辺地域に拡大し、山西省、山東省および河南省のそれぞれ一部の地域(都市)が新たに加わった。また、従来重点地域であった珠江デルタ地域に替わって「汾渭平原」(山西省、河南省および陝西省のそれぞれ一部の地域)が重点地域に加わった。
青空保護勝利戦3年行動計画の概要
3年行動計画はそれまでの大気汚染防止行動計画の経験と反省の上に立ってより深化した内容になっているといえる。ボリュームだけを見ても従来の計画が約1万字であったのに対し、1万5千字強に増加した。また、市民生活に影響を与える措置の実施については市民の不満を回避する慎重な書き方になっている。
要約すると六つの方面の任務と措置からなり、かつ定量的な指標と完成期限を明確にしている。
第1番目の任務は、産業構造の調整・最適化と産業のグリーン発展の推進で、産業配置の最適化、高汚染物質排出・高エネルギー消費の産業の生産能力の厳格な抑制などである。第2番目はエネルギー構造調整の加速とクリーンで低炭素・高効率なエネルギー体系の構築で、北方地域のクリーン暖房措置の効果的推進、重点地域の石炭消費総量規制の継続実施、石炭ボイラーの総合改善措置の実施、エネルギー利用効率の向上、クリーンエネルギーと新エネルギーの発展加速などである。第3番目は輸送構造の積極的調整とグリーン交通体系の発展で、貨物輸送構造調整の最適化と鉄道輸送比率の大幅引き上げ、自動車・船の構造のグレードアップ加速、燃料油品質のグレードアップ加速などである。第4番目は用地構造の最適化調整と面源汚染対策の推進で、防風・砂丘固定のための緑化プロジェクトの実施、露天掘り鉱山の総合整備対策の推進、粉じん飛散総合対策の強化などである。第5番目は重大特別行動の実施と汚染物質排出の大幅低下で、重点地域の秋冬季大気攻略行動の実施、ディーゼルトラック汚染対策攻略戦の勝利、工業窯炉汚染対策特別行動の実施、VOC特別整備対策の実施などである。第6番目は地域間合同予防コントロールの強化と重汚染天気に対する効果的な対応で、地域間大気汚染防止協力メカニズムの構築、重汚染天気への緊急対応連携強化、緊急時削減措置の実施などである。
その他、法律法規基準体系の一層の整備などの具体的例示として、VOCsを環境保護税の徴収範囲に組み入れることの検討、汚染排出許可管理条例の制定などが挙げられている。
3年行動計画の全訳はIGESホームページに掲載したので、関心のある読者は参考にされたい。