つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す 第14回肥前鹿島干潟循環の仕組み作り~宝の海有明海の再生を目指して
2018年08月20日グローバルネット2018年8月号
鹿島市 ラムサール条約推進室 主査
江島 美央(えじま みお)
佐賀県鹿島市は、佐賀県の西南部に位置し、東には有明海が広がり、西は多良岳山系に囲まれ、森里川海干潟が一帯となった自然環境に恵まれた所です。その中でも、有明海西部の最も狭く奥まった所に位置する肥前鹿島干潟(びぜんかしまひがた)は、その豊かな生物相と、干潟を守り、干潟と共生してきた地域の人々の暮らしと生業が国際的に高い評価を受け、2015年5月に「国際的に重要な湿地」としてラムサール条約登録湿地となりました(下地図)。
肥前鹿島干潟は、鹿島市内を流れる塩田川と鹿島川の二つの河口に発達した泥質の干潟で、干潮時には水際が見えなくなるほど広大な干潟が広がります。この干満と澪筋(みおすじ、※河川の中で、水深の最も深い点を結んだ線のこと)が作り出す干潟の美しさは、“有明海の原風景”として、人々に感動と癒やしを与えてくれます。干潟には、独特な生き物が生息し、ムツゴロウ、トビハゼ、ワラスボ、ハゼグチなどの魚類や、アゲマキガイなどの貝類、シオマネキなどのカニ類を目にすることができます(写真)。また、それらを餌にするチュウシャクシギやハマシギなどのシギ・チドリ類やカモ類、絶滅危惧種のズグロカモメ、クロツラヘラサギ、ツクシガモなども数多く飛来し、国内有数の渡り鳥の中継地・越冬地となっています。
●ラムサール条約推進協議会の発足
肥前鹿島干潟のラムサール条約登録を機に、ラムサール条約の三つの目的(「ワイズユース」「交流・学習」「保全・再生」)を進めていくために、区長会や地区振興会、産業団体や環境団体など、関係者20名から成る「鹿島市ラムサール条約推進協議会」を2016年5月に発足しました。この協議会で「肥前鹿島干潟保全・利活用計画」を策定し、鹿島市の自然環境(森・里・川・海を流れる水など)を保全していくことが、湿地(干潟)を守ることにつながるという理念の下、鹿島市全体での自然環境の保全に取り組んでいます。
しかし、ラムサール条約登録湿地となったものの、市民の認知度は依然低く、2017年度に行った環境調査では、約2割の人が「肥前鹿島干潟を知らない」、約4割の人が「肥前鹿島干潟に行ったことがない」と回答しています。 また、有明海の状態も以前と比べるとあまり良いとは言えず、現在休漁中のタイラギ、年々漁獲高が減っているムツゴロウ、ワラスボ、クチゾコ、アゲマキなど、かつて宝の海と呼ばれた有明海の寂しさは増すばかりです。
●人々の関心を取り戻すための取り組み
このような状況の中、私たち鹿島市ラムサール条約推進協議会は、かつての宝の海・有明海を取り戻そうとさまざまな取り組みをしています。
私たちが一番問題視しているのは、有明海の環境問題はさることながら、有明海への市民の関心の低さです。一昔前までは、干潟で貝を、海で魚を捕り、人々の暮らしはいつも海や干潟とともにありました。しかし、生活スタイルや環境の変化に伴い、干潟には特別な機会がないと入らないようになり、徐々に有明海、干潟への関心が薄れてきています。
そこで、私たちは、干潟の価値を人々に知ってもらい、関心を取り戻すため、イベントを通じて、肥前鹿島干潟へ足を運ぶ機会を作ることから始めました。市内全域で行うクリーンアップ作戦や、エコツアーなど、回を追うごとに参加者が増え、わずかながらも手応えを感じているところです。
また、次世代を担う子供たちの教育に力を入れ、市内小学校全校で鹿島市独自の環境教育プログラムを実施、市内の小学生が必ず1回は干潟に入り、肥前鹿島干潟で野鳥観察をする機会を設けています。その他、「こどもラムサール観察隊」「干潟案内人養成講座」を開講し、こどもから大人までの人材育成も行い、将来のガイドを養成しているところです。
●肥前鹿島干潟の循環の仕組み~地域循環共生圏構築検討事業
2016年度に実証地域として採択された地域循環共生圏構築検討事業で、私たちの目指す在り方を凝縮し、図式化したものが、下の図になります。この仕組みのように、人々の関心を有明海に集め、豊かな生態系と人々が集う干潟を未来へ残すことが、私たちの使命と考えています。この事業の中で、目標に向けていろいろな取り組みを行っていますが、とくにご紹介したい事業は、「肥前鹿島干潟のこれからを考える女性のためのワークショップ」と「ヨシの堆肥化事業」です。
女性のためのワークショップは、さまざまな年齢層、職業の女性が月1回集まり、「女性の視点からワイズユースを考える」ということをテーマに、肥前鹿島干潟・有明海を使って何ができるか、楽しいことはないか、と自由に意見を出し合っています。昨年は、「まえうみもん(有明海でとれた魚介類)」の給食メニュー化、エコツアー「干潟でヨガ」などユニークな企画を実現させています。
もう一つのヨシの堆肥化事業は、循環型社会・低炭素社会の構築を目指して行っているもので、肥前鹿島干潟付近の清掃活動などで刈り取られたヨシと生ゴミ堆肥を使って堆肥を作りました。堆肥作りには、多くの課題はありましたが、それを使って栽培された「肥前鹿島干潟ラムサール米」やタマネギは、イベントや給食に提供されることが決まっており、注目を集めています。今後の地域活性化に期待される事業です。
今年6月、私たちの悲願であった有明海特産の二枚貝「アゲマキガイ」の漁が、期間限定で22年ぶりに復活しました。「おたすけ貝」と呼ばれ、昔はどこの食卓にも上がっていた「アゲマキガイ」。この貝が大量に採れる豊かな海の復活を目指し、これからも多方面からアプローチをしていきたいと思います。
2018年11月11日はラムサール登録地付近の海岸道路でリレーマラソンを行います。有明海再生に向けて、一緒に肥前鹿島干潟を駆け抜けてみませんか?