NSCニュースNo. 114 2018年7月定例勉強会 報告 「気候変動適応法制化と民間企業の気候変動リスクへの取り組み」

2018年07月13日グローバルネット2018年7月号

NSC幹事、横浜国立大学教授
八木 裕之

パリ協定では、気候変動の緩和と同時に、気候変動の影響に対処し、被害を回避・軽減する気候変動適応の長期目標の設定、実施計画、行動、報告書の提出、定期的更新などが求められているが、日本でも気候変動の影響への適応計画が閣議決定され、本年6月には気候変動適応法が制定された。

NSCでは同法の成立に先立ち、気候変動適応に関する勉強会を開催してきたが、4月には東京都内で環境省、環境経営学会、企業2社から講演者を招き、標記テーマで勉強会を開催した。

■気候変動適応計画と気候変動適応法

環境省気候変動適応室室長補佐の秋山氏からは、適応計画の概要とこれを実現するための気候変動適応法(当時は法案)について講演があった。基本戦略として、政策への取り込み、科学的知見の充実、情報共有による理解と協力、地域での推進、国際協力・貢献の推進などが示され、そのためには気候変動影響評価に基づく情報基盤の構築が不可欠であり、企業はこれを活用し、気候リスク管理と適応ビジネスを推進する重要性が提示された。

気候変動適応法では、これらの政策の法的位置付け、国、地方公共団体、事業者、国民の役割が明確にされ、それぞれが連携・協力して適応策を推進するための法的仕組みが整備されたことから、今後、企業の取り組みが本格化することが期待される。

■企業の取り組みと課題

環境経営学会の前川氏からは、日本企業を中心に気候変動リスク対策の現状と課題についての講演があった。CDPの調査に基づきながら、日本企業の気候変動リスクと機会についての認識と先進事例が紹介された。

ただし、経営計画と統合した形で適応計画を策定している企業はまだ少なく、適応計画のコストやパフォーマンスを評価するツールや策定に必要な情報などが不十分であることが指摘された。今後は、幅広い視点から情報収集を行い、気候変動と事業の関連性を捉え、これを経営戦略や経営計画に組み込むことの重要性が提唱された。

大和ハウス工業株式会社環境部長小山氏からは、同社の脱炭素社会に向けた取り組みについての講演があった。同社は気候変動をめぐる世界の潮流を脱炭素として捉え、2016年に策定された環境長期ビジョン「Challenge ZERO 2055」の最重要課題として地球温暖化防止を掲げ、2055年に2015年度比70%削減を目指している。

自社活動では、EP100、RE100にダブル加盟し、省エネ、再エネ、蓄エネによる脱炭素を目指すと同時に、その成果を本業の競争力強化に生かしている。これらの戦略的環境活動は、同社の長期成長戦略を構成する三つの柱であるコア事業の競争力強化、事業領域の拡大、事業エリアの拡大を支える活動として位置付けられており、温室効果ガスの削減活動から省エネ、創エネ、蓄エネなどを軸とする温暖化社会に適応した社会課題型事業への着実な進化の見取り図が示された。

川崎汽船株式会社環境推進グループグループ長の岩佐氏からは、気候変動への取り組みとSBTについて講演があった。同社は、2015年に策定した 「“K”LINE 環境ビジョン2050」において、マテリアリティ分析に基づいて、海洋汚染・生態系、エネルギー資源、地球温暖化、大気汚染の四つの重要課題の特定とこれらに関わるリスク分析、リスクを機会へと転換するための施策およびその実現のための2050年目標を提示している。

CO2排出量については、2011年比で、2030年に25%削減、2050年に50%削減することを目標として掲げているが、前者の目標は、世界的にも最も早い段階でSBT認証を取得している。同社の長期目標では、達成可能性ではなく、あるべき理想の姿を想定するアプローチが採用され、世界的レベルで取り組みが進む海運業界でも先進的な事例として位置付けられている。その実現のためには、燃料転換などのハードと運行管理システムなどのソフトの両面から取り組みが進められている。

会場からは、気候変動対応を経営戦略に組み込むための実践的なプロセスなどについて質問が寄せられた。気候変動適応は企業活動に大きなリスクと機会をもたらすが、その取り組みは緒に就いたばかりである。NSCでは、今後も企業の皆さんと気候変動適応に関する情報を共有できる勉強会を開催していく予定である。

NSCのWEBサイトでの当勉強会の案内

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