フロント/話題と人藤村 武宏さん
(三菱商事株式会社 サステナビリティ推進部長)
2018年06月15日グローバルネット2018年6月号
TCFDメンバーとして
気候関連の財務リスクと機会の情報開示の流れの一線に
昨年から急速に話題に上ることの多くなった「ESG投資」。環境、社会、ガバナンスの三つの物差しを投融資の判断に入れるという世界の動きを加速させているのが、金融安定理事会(FSB)のTCFD=気候関連財務情報開示タスクフォースだ。藤村さんは日本からの唯一のメンバーとして今年1月から参加している。
世界の金融市場の番人であるFSBは、2015年にTCFDを立ち上げ、金融セクターが気候関連課題についてどのように考慮すべきか、適切な投資判断を促すための金融機関および投融資先(企業)による情報開示の在り方への提言策定を求めた。そのリクエストに応える形で、2017年6月にTCFD最終提言が発表されている。
「提言では、企業の財務状況に長期的に影響を与える気候変動関連情報の開示、そして気候変動に対応するために自社の将来のあるべき姿を見据え、それに向かって今、何をすべきかを示すことを求めている」と、藤村さんは提言の主なメッセ―ジを二つ挙げた。バックキャスティングなど、提言の中には日本企業には不得手な項目も含まれているのではと水を向けると、「単にもうけのため、投資家のため、ではなく、社会のために企業が存在するという考え方は昔から広く日本企業に浸透している。そういった日本企業の良さを、欧米発のTCFDなどを活用して積極的に発信していくべき。自分も積極的に発信したい」と日本企業の果たすべき役割を語った。
TCFDが求めている情報開示の分野では、日本企業は欧米企業に遅れをとっているが、日本の3メガバンクがTCFDに準拠した情報開示を行うとも報道されており、TCFD提言発表後の初の決算期を経た6月の株主総会に向け、日本の金融機関の取り組みに注目が集まっている。
藤村さんは27年前に三菱商事に入社してから長く法務畑を歩んできたが、2011年に経営企画部に身を転じた。「サステナビリティの分野は、法務と違って解答がなく、さまざまな価値観が入り乱れている。でも、そこがチャレンジングで面白い」と笑顔を見せる。9月にTCFDフォローアップレポートが発行される予定。日本企業の取り組みや発信がどれくらい紹介されるのか期待したい。(希)