フォーラム随想「大地の公園」ジオパークを大切に

2018年05月15日グローバルネット2018年5月号

自然環境研究センター理事長・元国立環境研究所理事長
大塚 柳太郎

日本には現在、43のジオパークがある。「大地の公園」とも呼ばれるジオパークは、地層、岩石、地形、火山、断層などの地質遺産を保全し、自然と人間との関わりを理解する研究や教育の場、あるいは観光資源として地域振興に活用することを目的としている。

ジオパークの活動は1990年代にドイツで始まり、日本では2008年に7地域が初めて日本ジオパークに認定された。一方、世界ジオパークは2015年にユネスコの正式事業になり、ユネスコ世界ジオパークになった。

43の日本ジオパークのうち、「洞爺湖有珠山」「アポイ岳」「糸魚川」「隠岐」「山陰海岸」「室戸」「島原半島」「阿蘇」の八つと、今年4月に認定されたばかりの「伊豆半島」が、ユネスコ世界ジオパークにも認定されている。

私が最初に訪れたジオパークは、2008年に認定された北海道の襟裳岬に近いアポイ岳である。私は当時、国立環境研究所におり、地球温暖化の植物への影響の研究がアポイ岳で行われたことを知ったのがきっかけだった。

約1300万年前、ユーラシアプレートと北アメリカプレートの衝突により日高山脈が形成された際、通常は地下深くのマントル上部に存在するかんらん岩がアポイ岳周辺で地表に表出し、大半が蛇紋岩に変化し現在に至ったのである。かんらん岩も蛇紋岩も超塩基性で樹木の生育に適さないため、アポイ岳は標高が810mにもかかわらず、固有種のヒダカソウなどの高山植物が蛇紋岩周辺の草地に生育している。

アポイ岳の高山植物に着目した北海道の環境研究者が、ヒダカソウの開花日と地表面温度を4年間にわたりモニターし、開花日が過去100年間に7・6日早期化したと推測したのである。

 私が最近訪れた日本海に浮かぶ島根県の隠岐は、2015年にユネスコ世界ジオパークに認定された。隠岐の陸地と沿岸に広がる変化に富む景観と、固有の生物種を含む独特の生態系は、「大陸の時代」「日本海形成の時代」「火山島の時代」「島根半島から孤島化した時代」という複雑な歴史を反映している。さらに、隠岐は日本に6ヵ所の良質な黒曜石の産地の一つで、3万年前の縄文時代から隠岐産の黒曜石が遠方まで運ばれていたことにも興味をそそられた。

一昨年4月に熊本地震、10月に中岳の大噴火に見舞われた阿蘇山一帯も、ユネスコ世界ジオパークである。私は阿蘇の雄大な景観に引かれ幾度も訪れており、今回の噴火後も昨年3月に再訪した。立ち入りが可能だった草千里ヶ浜周辺で、ジオパークガイドの含蓄に富む説明を聞き、阿蘇の魅力を改めて実感したのである。

ところが昨年9月、阿蘇ジオパークの見どころの一つである立野峡谷の柱状節理(マグマが冷却固結する際などに、岩体に垂直に発達する規則性のある割れ目)が、地震からの復興工事中に壊されたことが報道された。原因は工事主体の国土交通省の事務所の理解不足だったようであるが、2018年に予定されている阿蘇ジオパークの再認定を危惧する報道もみられた。日本ジオパークもユネスコ世界ジオパークも、4年ごとに再認定されることが必須だからである。

実は、ジオパークの認定取り消しには前例がある。日本ジオパークの「茨城県北ジオパーク」は、茨城県北部を中心とする10地方自治体のエリアから成り、地方自治体、企業、学生組織などが活動していたものの、活動主体間の連携が不十分などと判断され、昨年、認定取り消しになったのである。

私が危惧するのは、各地域におけるジオパークの認定までの盛り上がりに比べると、認定後の地道な活動が停滞しがちなことである。かけがえのない財産であるジオパークへの関心が、対象地域はもちろん全国的に高まることを願っている。

最後に付記すると、茨城県北ジオパーク推進協議会は、本年開いた運営委員会で再認定を目指すことを確認し、新たな方針の下で活動を活発化させている。

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