環境ジャーナリストの会のページ本当なのか? 「送電線が満杯だから、再生可能エネルギーが入らない」
2018年04月16日グローバルネット2018年4月号
エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー、元・朝日新聞編集委員
竹内 敬二
いま、風力発電所や太陽光発電所をつくろうとすれば、日本の至る所で「ダメ」となる。電力会社から「送電線がいっぱいなので、もう送電線に接続できません」と言われるからだ。
ところが昨年来、京都大学の再生可能エネルギー講座の安田陽特任教授、山家公雄特任教授のチームが「本当は日本の送電線の空き容量は大きい」との分析を発表し、大きな話題になっている。JFEJでは3月2日、山家教授を招き、「再エネ導入量の今後を決める『送電線の空き容量』問題とは何か」の勉強会を開いた。
平均利用率19.4%
京大チームは、全国の太い送電線(基幹送電線)を流れた実際の電気(実潮流)のデータを分析した。電力自由化の一環として設立された電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表しているものだ。1年間のデータを調べ、運用容量(送電できる最大量)を分母にして1年間の平均利用率を計算した。
結果は、全国の399の基幹送電線の平均利用率は19.4%に過ぎなかった。平均で8割が空いていたのである。
さらに不思議なこともあった。電力会社は399本のうち、約3分の1について、「満杯で空きがゼロ」と公表している。しかし、その「満杯送電線」の平均利用率は約23%と、基幹送電線全体の平均と大差なかったのだ。そして「1年間で実際に一度でも混雑があった路線」も少なかった。「満杯」として新たな接続を拒んでいる送電線が、実際は「大きく空いていた」のである。「なぜ満杯と言うのか」の疑問が出てきた。
瞬間最大値は70~90%
この発表の後、電力会社やOCCTOは「それほど空いているわけではない」というPRに躍起になった。電力会社などは、「混雑を見るならば、年間平均ではなく『最大値』を見るべきだ」と主張している。その後、年間を通しての瞬間的な最大値を発表し、おおむね運用容量の「70~90%」になるので、「空いているとはいえない」と言っている。
この論争は、「平均と最大値の両方で見るべき」というところに落ち着いている。年間を通して8割が空いているのは確かであり、高い瞬間だけ需要を減らすなどの対策を取れば、もっと入るということでもある。
定格出力で計算、すぐ「満杯」に
山家教授は、大きく空いている理由として「現実的ではない定格出力での計算、余裕のある設備形成」を挙げた。
送電線の混雑を考える場合、その送電線の周辺にある発電所(計画中も含め)すべてが同時に定格出力で運転(フル運転)していると仮定して考えるのである。実際にはそうした瞬間はほぼ存在しないが、机上の計算では送電線はすぐ「満杯」になる。日本独特の方法だ。さらには、送電線事故が起きても停電しないように、送電線1本分は余分にもつ設計になっている。
したがって、結果的に、大きく余裕をもたせた送電線設備があるのに、計算では「満杯」になりやすい。
負担ルールの見直しが必要
この「空き容量と再生エネ」の問題を象徴するケースとして、山家教授は、東北地方で議論になっている「募集プロセス」を説明した。
北東北では新規の発電所の枠を280万kW(新しい計算方法をとれば450万kWも可能)として、再生エネ発電所の建設者を入札で決めようとしている。落札しても、新たに増強する送電線の費用(千億円以上といわれる)を分担して負担しなければならない。
このプロセスにはもともと、再生エネ事業者からの反発があった。そこに京大チームの研究も重なって、東北電力は2月に行う予定だった入札を「4月以降に」延期してしまった。山家教授は「この地域の送電線増強は、広い範囲の系統全体に役立つのは確か。しかし、新規事業者とくに風力事業者が多くを負担するのは疑問だ。今後の展開に注目したい」と話した。
勉強会のまとめは「送電線は空いている、実潮流での計算が必要、送電線の増強のルールや負担の見直し、透明性が必要」ということだった。