フロント/話題と人平林 由希子さん(芝浦工業大学土木工学科教授)
2018年04月16日グローバルネット2018年4月号
国際社会に日本の知見を発信できる人材育成を目指して
東京大学生産技術研究所から母校である芝浦工業大学土木工学科に戻り、教壇に立つことになった平林さん。専門は地球の水循環を研究する水文学。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)の第4章Waterの執筆者に選ばれ、活躍の場も広がる。
大学入学当時は、卒業後はゼネコンに就職、と漠然と考えていたが、在学中に恩師の勧めで水文学研究の道を選んだ。東大の大学院修了後、山梨大助教、東大准教授を経て、この春母校に戻ったばかりだ。
芝浦工大は私立理工系唯一のスーパーグローバル大学として、グローバル化に力を入れている。今後、国際社会の中で日本が先進国としての地位を維持するには、国の科学的知見をきちんと継続的に国際社会に発信できる人材が必要。平林さんは、そうした人材を育成することにも力を注ぎたいと考えている。
IPCC海洋・雪氷圏に関する特別報告書の執筆者として、すでにフィジーやエクアドルでの会合に出席、精力的に世界を飛び回っている平林さん。彼女が担当する第2章High Mountainsは、山岳地域の雪氷圏の変化やその影響についての科学的知見を取りまとめている。しかし、アジアや南米などのとくに重要な地域において、英語で書かれている文献が少ない場所も多く、取りまとめに苦労しているそうだ。「日本の近年の山岳地域の積雪量やその将来変化についての文献がほとんど無いので情報を教えてほしい」と会合メンバーに聞かれることもある。しかし文献や観測記録は豊富にあっても、日本語のものしかない状況で、これでは国際的には無いも同然になってしまうと危惧する。こうした経験も、国際社会に日本の知見を発信できる人材を育成することの重要性を意識するきっかけになった。
一方で、6歳の息子と3歳の娘を育てる母親の顔ものぞかせる。「本当は(AR6の)執筆者推薦もちゅうちょした」と話す。それまで避けていた国際会議などへの出張が増えるからだ。「幸い家族の協力を得ながら、何とかやっています」と明るく笑う。
仕事と家庭のバランスをとるためのストレス解消法を聞くと、「研究が大好き。研究が趣味なのでストレスは感じないですね」と予想外の答えだった。 (智)