特集:シンポジウム報告 サステナビリティをレガシーに!~2020東京大会とSDGs 講演2 2012年ロンドン五輪のレガシーと持続可能な調達、東京2020への示唆
2018年02月16日グローバルネット2018年2月号
世界のアスリートが東京に集う2020 東京大会まであと2 年余り。しかし、持続可能性や環境への配慮が大事なテーマであることは、市民や運営主体の間で十分に共有されていません。2020年を契機に、「サステナビリティ」を日本社会の真のレガシーにするためにはどうすればいいのか。1月14日に東京で開催されたシンポジウム「サステナビリティをレガシーに! ~ 2020スポーツの祭典とSDGs ~」(主催:日本環境ジャーナリストの会/立教大学ESD 研究所)での議論の概要をご紹介します。(2018 年1 月14 日東京都内にて)
CSOネットワーク リサーチフェロー
高木 晶弘(たかぎ あきひろ)さん
私はCSOネットワークで持続可能な公共調達に関する調査事業に取り組んでおり、昨年実施された調査ツアー「ロンドンにおけるメガスポーツの祭典のレガシーとCSR調達基準」に参加しました。近年開催された五輪の中でサステナビリティへの取り組みが最も活発であったとされるロンドン五輪の調達業務に携わった専門家やCSR関係者から伺ってきたお話を報告します。
人権課題への対応、準備はできているのか?
トリプルボトム・ラインを提唱したヴォランズ社ジョン・エルキントン代表取締役会長からは、土壌汚染されたロンドン東部貧困地区の再開発が目的の一つだったと伺いました(写真)。また、イベントが終わった後に何の役にも立たない建築物が残る、いわゆる「ホワイト・エレファント」を避けるにはどうするかが重要視されていたということです。多額の国のお金をこんな短期間のイベントに使ってどうするのだという五輪開催そのものを疑問視する声が、始まる前は強かったというのが正直なところと話されました。しかし終わってみると、非常にポジティブな影響があったと評価されたそうです。その理由の一つは、開会式がイギリスの歴史や価値観、多様性が感じられる内容で、イギリス人が強くアイデンティティを意識するものだったことが挙げられました。
次に、人権課題のコンサルタントとして活動されているトゥエンティ・フィフティ社コンサルティング・ディレクターのアメリア・ノットさん。人権課題は国際NGOやメディアからも非常に関心が高いテーマだが、2019年のラグビーワールドカップや2020年東京五輪開催を控えている日本は大丈夫かと心配されていました。「スポーティングチャンス・イニシアティブ」という、スポーツイベントにおける人権配慮についての取り組みを紹介いただきました。
2020年はサーキュラーな大会を目指せ!
環境問題についてはサステナブル・グローバル・リソース社のマービン・ジョーンズさん(元WRAP共同参画部長)からお話を伺いました。東京大会が直面する課題として、1,500万食の食事、1,000万人の観衆、330万t相当のCO2排出、7万人のボランテイア、4万人の大会関係者、1万5,000人の選手、1万tの廃棄物を発生させることになる。これにどう対応するのかについて、誰が、どこで、何を、なぜという視点で検討しなければいけないとの指摘がありました。重要な原則として「アウトプットはインプットの結果である」、つまり最初からサステナビリティを考えてデザインしていくことの重要性を強調されました。
ロンドン大会は「廃棄物ゼロ」を達成したが、完全にサーキュラー(循環型)な大会にはならなかったので、東京ではぜひサーキュラーな大会を目指して欲しいと提起されました。そのためには、再利用やリサイクルが可能かどうかを条件とする「サーキュラーな調達」が大事なアプローチになります。
持続可能な公共調達の主流化を
ディビッド・スタブスさんはロンドン大会組織委員会のサステナビリティの責任者でした。そもそもこれだけ大きなイベントをやるということ自体が持続可能ではないということを理解し、そういう認識をどれだけ共有できるのかが重要だと強調されました。また、メガイベントは人々の行動パターンを変えるチャンスになる。ロンドン大会期間中に自転車の使用率が期間中に30%に上がり、オリンピックが終わった後もそのまま推移しているとのことです。人々の行動に影響があることも一つのレガシーだと教えてもらいました。
さらにサプライチェーンの問題、例えばユニホームやスポーツシューズを作る工場での労働条件や児童労働がないかなど、持続可能な調達には非常に苦労したそうです。東京大会ではすでにNGOから木材の問題が指摘されていることをスタブスさんも承知されており、「調達コードがあればいい」という対応ではなく、問題がないかどうかよく確認するデューデリジェンスが必要だと強調されました。
東京大会への期待として、調達、入札の段階からサステナブルなコミットメントを守ること、ロンドン大会以上の信頼できるサステナビリティプログラムを実現することを挙げられました。また、あとに続くオリンピックにも影響があるので、東京大会ではサステナビリティの水準を下げないような取り組みを期待されていました。
東京大会をきっかけに、人権課題への対応も含め、持続可能な公共調達が日本で主流化することを私は期待しています。