特集:シンポジウム報告 サステナビリティをレガシーに!~2020東京大会とSDGs 講演1脱炭素ワーキンググループの進捗と持続可能性計画に関する私見

2018年02月16日グローバルネット2018年2月号

特集:シンポジウム報告 サステナビリティをレガシーに!~2020東京大会とSDGs
世界のアスリートが東京に集う2020 東京大会まであと2 年余り。しかし、持続可能性や環境への配慮が大事なテーマであることは、市民や運営主体の間で十分に共有されていません。2020年を契機に、「サステナビリティ」を日本社会の真のレガシーにするためにはどうすればいいのか。1月14日に東京で開催されたシンポジウム「サステナビリティをレガシーに! ~ 2020スポーツの祭典とSDGs ~」(主催:日本環境ジャーナリストの会/立教大学ESD 研究所)での議論の概要をご紹介します。(2018 年1 月14 日東京都内にて)

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
脱炭素ワーキンググループ座長
(地球環境戦略研究機関/国立環境研究所)

藤野 純一(ふじの じゅんいち)さん

持続可能性に関する計画と委員会

「持続可能性に配慮した運営計画」(計画)の策定は2015年6月から始まっていて、すでにけっこう年月が経っています。

計画第一版は昨年1月に公表しており、今、第二版の策定が始められています。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会には「街づくり・持続可能性委員会」があって、元東京大学総長の小宮山宏氏を委員長に、約20人のメンバーで構成されています。

オリンピック・パラリンピックを実施にあたっては、組織委員会はIOC(国際オリンピック委員会)に持続可能性計画を提出することが決められています。その宿題に取り組むために持続可能性委員会が作られ、その下に「持続可能性ディスカッショングループ」というものがあり、そこで2018年6月までに計画第二版を完成させることを目指して進めています。バブリックコメントを2回実施することになっていて、第二版の検討内容については、1月16日まで最初のパブコメを行っています。

私が所属する脱炭素ワーキンググループ(WG)は、最初は「低炭素WG」という名前だったのですが、「2度目標」を実現するために2100年までに世界全体の温室効果ガスの排出量をゼロまたはマイナスにしていく、という2015年12月のパリ協定の流れの中で、名前の「低炭素」を「脱炭素」に変えたのです。

WGでは、二酸化炭素(CO2)の排出量の算定や、ISO20121(イベントの持続可能性に関する国際規格)との整合をとりながらCO2削減体制のシステムなどを3人の民間委員と2人の東京都の委員、そしてオブザーバーの内閣官房、環境省、そして事務局と相談しながら作っています。これについては、現在パブコメ実施中で、情報はすべて組織委員会のWEBサイト上に掲載されています。

2020東京大会の位置付け

2020年の東京大会はどういう位置付けになるか、私なりに簡単にまとめてみました。「サステナビリティ」について、より本格的に取り組んだのは2012年のロンドン大会が最初だったのではないかと思います。2016年のリオ大会でも、CO2量を測り、スポンサーのダウ・ケミカルの取り組みで全量オフセットしたといわれています。

そして東京大会が開催される。2020年というのはパリ協定が発効し、まさに世界が脱炭素に向かって動き出す年です。そのため、われわれの脱炭素WGはCO2の排出量ゼロを念頭に、検討を進めています。

その後の2024年のパリ大会については、もうすでに準備が進められていてISO20121を取得し、「インクルーシブ(皆が関わる)」をキーワードに大会の準備はかなり進んでいると聞いています。

また、2028年はロサンゼルスでの大会になります。昨年11月にドイツのボンで行われた気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)の主役は、私から見たら、ブラウン・カルフォルニア州知事でした。ですので、ロス大会もかなりサステナビリティを体現するような大会に向かっていくことが予想されます。

そういう中で、東京大会はどのように位置付けられ、われわれはどういうことを見せていく必要があり、見せていくことができるのでしょうか。私も委員に選んでいただいてから、優先度を高めて会合に出席しています。ボランティアですが、知見は出し、良いオリンピック、パラリンピックになるように頑張っています。

CO2削減の5段階ステップ

CO2削減の5段階ステップは、①大会の運営自体の工夫②設計の工夫、施設運用の工夫③機器の高効率化④低・脱炭素エネルギーの利用⑤出てしまうCO2のオフセットという観点で考えています。しかし正直に言って、大会が実施される2020年7月、8月までのあと2年で、①と②はどこまでできるのか。③、④、⑤をどういうふうにやっていくのか、というのが実際の議論になっています。

ただ、残念ながらこの2020年大会をそのまま運営したらどれだけCO2が出るか、という計量的な数字はまだ公表できていません(編集部注:1月25日開催の第8回脱炭素WG資料にて、東京大会を対策なしで開催した場合のカーボンフットプリントは293万t-CO2と公表された())。非常に残念ながら、計画第二版の提出が当初の昨年末から、次に今年3月末になり今は6月末に、と延期に延期が重なる、というモードです。これは私も委員なので責任の一端はあるだろうと思いますが、忸怩たる思いがあります。

日本の良さをアピールしながらCO2排出ゼロでサステナブルな大会に

今の計画作りで、私が参加しながら困っているのは、具体的にどうするか、というときに、国や都、スポンサー企業などの人の寄せ集めである組織委員会が考える計画だけでできるだろうか、ということです。

しかし、関心がある人は当然いて、SUSPON(持続可能なスポーツイベントを実現するNGO/NPOネットワーク)など市民セクターが、今まで3回公開ブリーフィングという形で小池都知事をお呼びし、草の根でオリンピック・パラリンピックをサステナブルにしていこう、と取り組んでいます。

あと2年半という時間の中で、これまでやってきたことも活用しつつ、世界的には2015年のパリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)という地殻変動が起きる中で、東京大会をどういう位置付けで、ここに集まっている皆さんの力をうまく組み合わせながら、われわれがどのように参加していくのかが問われています。しかし残念ながら、組織委員会のカバナンスというのは、基本的には日本の意志決定プロセスのままやっている感じです。

世界にわれわれは追い付かないといけないと思う部分はあるし、日本で良いところがあればそれをアピールしていかないといけない。それらをどう紡ぎ出していくか。私の役割としては、計画の第二版にどのように反映させていくか。そこをもう一度皆さんと一緒に考えられたらと思います。

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