つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す第7回 吹田市と能勢町の地域循環共生圏構築に向けた交流活動プロジェクト~街と里の経済性を伴った交流を目指して
2017年12月15日グローバルネット2017年12月号
特定非営利活動法人 大阪自然史センター 副理事長
道盛 正樹(みちもり まさき)
大都市近郊における街(都市)と里(農山村)のつながりの重要性
大阪府は、面積が約1,800km2で全国で2番目に規模が小さいものの、人口は約880万人で全国で3番目で、北、東、南の三方を山に囲まれています。また中央部から周辺の山地にかけて市街地が形成され、道路や鉄道などの交通インフラも整っています。こうした都市化が著しく進展した大阪府において、府域に残る森里川海は、防災や水源かん養、さらには良好な景観や憩いの場の提供など多面的な機能を有し、重要な自然ストックであるといえます。
しかしながら、全国的な課題でもある農山村地域での人口減少や高齢化の進展、加えて大都市近郊という立地性から、資源利用という観点よりも森林を土地資産として保持する傾向にあったことから、府域の自然資源については、適正な管理・利用が滞っているのが実情です。
そのため、農山村を抱える郊外の市町村では、スギ・ヒノキの人工林については、森林組合と連携し、間伐などの森林整備の補助事業を導入するなどして、維持管理を進めているところですが、全体としては、まだまだ十分に対応できていないのが現状です。
とりわけ里山と呼ばれる広葉樹が主体の森林では、市町村だけで管理していくことが困難なことに加え、保全活動を実施するボランティア団体が存在するにしても、活動者の不足や高齢化、活動資金面での脆弱さなどの問題を抱えていることが多く、適正に保全管理するのが難しい状況にあります。
このため、府内の街と里の市町村が相互に連携し、人と人との交流、森里川海の魅力や資源を都市住民により一層身近に体感してもらう機会・場を創出する取り組みを進展させることで、人と自然との結び付きを再認識し、多くの府民に府域にありながらこれまで気付くことの少なかった里山の現状とともに、食や良好な景観の提供など都市住民の暮らしに恵みをもたらす生物多様性資源としての理解を促進させていこうと考えています。
そして、こうした里山への理解が深まることで、都市住民の行動変容を促進しつつ、農山村では地域資源である自然環境とその恵みを育むことで地域経済の振興や定住促進につなげ、環境と経済、街(都市部)と里(農山村地域)のコベネフィット(相乗便益)を構築する必要があると考えます。
街と里がつながるモデル地域の選定
2016年度の環境省の地域循環共生圏構築の実証モデル地域に採択されることとなった地域について紹介します。モデル地域として選んだのは、吹田市(街)と能勢町(里)です(図)。
吹田市は、人口約37万人の大阪の代表的な衛星都市で、1970年の大阪万国博覧会の後、千里ニュータウンの開発などにより市域全体が市街化区域となっています。また、府内市町村では大阪市に次いで2番目に大学が多く、5校の大学の学生数約4万4,000人は、大阪市を抜いてトップとなっています。一方で、市域に残された自然地は少ないにもかかわらず、都市公園内の樹林地の維持管理のほか、希少な生き物の調査や保全に関わる団体も多く、府内市町村と比較しても活発に活動が展開されています。
能勢町は、大阪府の最北部に位置し、府内で3番目に人口が少ない約1万人で、宅地も町全体の約5%となっています。また、府域では数少ない鉄道が通っていない市町村で、公共交通としては、民営のバスのみとなっています。一方で、「丹波栗」のルーツである「銀寄(ぎんよせ)」と呼ばれるクリの生産地であるほか、500年に及ぶ歴史のある、千利休も愛した最高級木炭「池田炭(能勢菊炭)」の生産が行われています。さらに、クヌギやコナラ、クリの樹林地が主体となった里山が町全域に広がり、多様な生き物も生息・生育していることなどから、2016年に民間のシンクタンクが発表した都市部で緑が豊かで生物多様性が保たれている自治体ランキングで全国1位にもなっています。
このような大阪の街と里を代表するといっても過言ではない吹田市と能勢町ですが、2005年に市民・町民の友好交流を目的としたフレンドシップ交流協定が締結されていました。この協定をベースに、行政や大学、研究機関に加え、吹田市内の自然環境保全団体や能勢町で農林業の振興に関わる団体はもとより、府内で広く森づくりや生き物の調査・保全に関する活動を展開する団体などにも参画してもらい、多様な主体が連携・協働して、行政界を越えて、里の資源の維持管理や資源利用などを進める仕組みづくりに取り組むこととしました。
さまざまな知恵と力で里山の資源を輝かせるために
吹田市と能勢町の連携活動では、まず吹田市民に能勢町の生物多様性の豊かさをわかりやすく発信していくことが必要であり、さらに、この両自治体間での人、モノ、お金の交流を持続化していくためには、吹田市民と能勢町民に、「自立のための経済的な仕組みづくり」とそれを支える「人材育成」の取り組みを進める意義についてもわかりやすく伝え、理解してもらうことが何よりも重要となります。
そのため、歴史性や伝統ある産物、そして「食」という都市住民にとっても身近なところを入り口として、能勢町を知り、理解してもらう活動に着手しています。その一つとして、吹田市の大学生や都市部で活動されている自然環境の保全活動団体の方々に対し、多様な生き物が見られる能勢町のクリ林での自然観察や食を中心に里の恵みが感じられる物産施設を見学するバスツアーを実施しています。
また、能勢町の町民、農林業関係者などに、地元で生活、就業していても気付いていない、能勢の豊かな生物多様性についての啓発活動にも注力していくこととし、クリ栽培により管理されたクリ林があることで、希少な昆虫を含め、さまざまな生き物の生息・生育環境が維持保全されてきていることなどを紹介するリーフレットの作成にも取り組んでいるところです。加えて、管理放棄されたクリ園を企業や自然環境保全活動団体などに仲介し、クリ林を再生していくための活動にも取り組んでいるところです。
そして、こうした取り組みをより加速化させることができる世界農業遺産への登録に向けた検討にも着手しています。
この他、クリ林だけでなく、クヌギ・コナラ林も含め、能勢町内の森林資源を活用し、効果的な木質バイオマス利用を探るため、町役場で里山利用研究会を発足してもらい、在阪の民間コンサルタントにもアドバイザーとなってもらい、調査・研究を進めることとしています。
今後、今年度中に、吹田市にも参画してもらい、街と里の連携を基軸とし、経済性を伴った持続的な地域づくりを進めていくための地域プラットホーム、「能勢の里山活力創造推進協議会」を発足する計画で、大都市近郊において、さまざまな知恵と力で里山資源を輝かせていくためのモデルとなるよう、取り組みを進めていきます。