ホットレポート2再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)におけるパーム油発電の問題
2017年12月15日グローバルネット2017年12月号
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事長
泊 みゆき(とまり みゆき)
バイオマス発電で駆け込み申請が集中
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)のバイオマス発電において、今、大きな問題が生じている。2017 年3 月の1 ヵ月間で、バイオマス発電の認定容量は、600 万kW 以上増加した(図)。さらに、9月末時点でバイオマス全体の認定量は1,373 万kW、そのうちの9 割以上が輸入バイオマスを主な燃料とする一般木質バイオマス発電で、さらにその4 割弱、約460 万kW がパーム油発電である。
パーム油は、農園開発がボルネオ、スマトラなど熱帯林減少の主要因となっており、生物多様性を損失し、土地を巡る紛争が多発し、労働問題などの深刻な人権問題が生じるなど、最も多くの問題を抱える作物である。とくに、再生可能エネルギーとして致命的なのは、泥炭林開発によって大量の二酸化炭素(CO2)が発生するため、パーム油全体のCO2 排出係数は石炭より高く、温暖化をむしろ促進することである。
一般木質バイオマス発電の認定が急増した背景には、2017 年10 月から2 万kW 以上の一般木質バイオマス発電の電力買取価格が24 円/kWh から21 円に引き下げられるため、駆け込み申請が殺到したことがある。さらにパーム油発電に集中したのは、パーム油は国際的に大量に流通する商品であり入手しやすいこと、すでに成熟した技術であるディーゼル発電機で発電でき、木質バイオマス発電よりはるかに設置が簡単なことなどが理由に挙げられよう。
再生可能エネルギー電力を高く買い取るFIT 制度は、電力使用者が負担する賦課金に支えられている。現在、FIT 賦課金は、標準家庭で年間8,232 円に上り、さらに上がる見込みである。
そうした中で、バイオマス発電のFIT 認定のうち、エネルギー自給にならず、地域経済への貢献や温暖化対策効果も限られている、輸入バイオマスが9 割を占めている。ましてや、温暖化対策効果が期待できず(むしろ温暖化を促進する恐れもある)、持続可能性の問題があるパーム油発電が多数に上る状況は、明らかに政策目的に合致しない。
そもそもFIT 制度において、パーム油のように食料と競合する農産物そのものが入っていること自体が不適切だと考えられる。11 月5 日、バイオマス産業社会ネットワークは、パーム油の問題を含め、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)バイオマス発電に関する提言を発表した(提言全文は、こちらを参照)。
経済産業省の動向
経済産業省にとってもこうした事態は想定外であり、対策に乗り出した。2017 年11 月21 日に開催された、FIT 制度の調達価格などについて議論する調達価格等算定委員会で、事務局(資源エネルギー庁)から以下のような提案がなされた。
①パーム油発電は、バイオディーゼル発電であり、固体燃料を燃やす蒸気タービン発電とは発電方式が異なる②現在の一般木材などバイオマス発電と比べて、資本費が低く、燃料費が高いというコスト構造に大きな違いがある③従って、パーム油などを利用したバイオマス発電の取り扱いについて、現在の一般木材などバイオマス発電の区分とは別の区分を設定すべきではないか④パーム油の持続可能性(合法性)についても持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)などの第三者認証によって確認することとしてはどうか。既認定案件も含めて確認を行う必要があるのではないか。その際、持続可能性(合法性)の確認については、認証の取得に一定程度の時間を要することから、一定の経過措置(例えば1年間)を設けるべきではないか。
これらの提案について、委員からは賛意が得られた。名古屋大学教授の高村ゆかり委員からは、既認定案件の経過措置については、資源をスポットで購入していること、2017 年3 月に事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)が策定されており、その中で持続可能な燃料の調達に努める旨定められていることから、ごく短期間でよいのではないか、という意見があった。
持続可能なバイオマス利用に向けて
2017 年4 月に改正FIT 法が施行され、まだ接続契約を締結していない認定案件は、12 月末までに契約を締結し、事業計画書を提出する必要がある。これによって、駆け込み申請が集中したバイオマス発電でも相当量の認定が振り落とされると考えられる。しかし、パーム油発電の認定量の1割が稼働したとしても、年間90 万t のパーム油が必要になる。現在の日本のパーム油輸入量64 万t よりも大きく、生産地の環境・社会へのインパクトが懸念される。
また、パーム油の認証には、トレーサビリティの点で信頼性が劣ると考えられるものもある。さらにRSPO 認証には、ライフサイクルの温室効果ガス排出は項目に入っておらず、RSPO 認証では温暖化対策効果は担保できない。そのためにも、エタノールや海外で導入されているようなバイオマス発電燃料の持続可能性基準の導入が求められよう。
持続可能性への普及啓発の必要性
短期間にこれほどパーム油発電の認定が集中した背景には、「ディーゼル発電なので設置が容易」「燃料調達も請け負う」「高い年間利回り(18.3%をうたう事業者もいる)が見込める」といった営業をかけられた自治体や企業が、持続可能性への十分な知識のないままにFIT 申請を行ったことがあると考えられる。
一方、パーム油発電を計画・検討してきたが、やめた発電事業者もある。レピューテーション(評判)リスクに加え、パーム油は市況が安定せず、価格が乱高下する商品であり、長期間にわたる安定した価格での調達が困難である。とくにRSPO 認証を取得したパーム油は全体の2 割程度と絶対量が限られる上、価格も高くなる。常識的に考えれば、パーム油発電は事業として成立困難になったといえよう。
FIT 制度において盲点のようにパーム油発電が認められてきたこともさることながら、パーム油発電に安易に飛び付く事業者がこれだけ存在するのは、日本において持続可能性についての知識がまだまだ普及していない証左ともいえる。われわれNPO やメディアの一層の努力が問われるところであろう。