環境条約シリーズ 309国際海運による温室効果ガスの削減
2017年12月15日グローバルネット2017年12月号
前・上智大学教授 磯崎 博司(いそざき ひろじ)
世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、国際海運の占める割合は約3%であり、それは鉄道(約0.5%)と国際航空(約2%)の合計を上回る。また、開発途上国による国際海運への参加が見られるため、CO2 排出量の増加も見込まれる。
そのため、国際海事機関(IMO)の第62 回海洋環境保護委員会は、2011 年7 月に、海洋汚染防止条約(MARPOL 条約)の附属書VI(船舶からの大気汚染防止のための規則)に、新しい第4 章(船舶のエネルギー効率に関する規則)を追加した。それは、京都議定書の後、世界で初めて採択された法的拘束力のある温室効果ガス削減規則である。それは、新造船に義務付けられるエネルギー効率設計指標(EEDI)(貨物1 t を1 カイリ運ぶ際のCO2 排出量に相当)とすべての船に義務付けられる船舶エネルギー効率管理計画(SEEMP)とから成り、2013 年から施行された。
EEDI は技術面に関わり、2013 年以降に建造される400 総t 以上の新造船はEEDI を表示しなければならない。各船舶のEEDI は、船種ごとに設定されたEEDI 基準値(過去10 年間に建造された既存船のCO2 排出量の平均値)よりも特定の割合で下回らなければならず、その割合は5 年間の段階ごとに引き上げられる。具体的には、2015 年からの第1 段階は10%、2020 年からの第2 段階は20%、2025 年からの第3 段階は30%とされている。他方、SEEMP は省エネ運航管理計画であり、400 総t 以上の既存船を含むすべての船舶にSEEMP の作成と所持を義務付けた。
しかしながら、EEDI 規制には既存船は含まれないため、その効果が現れるまでには10 から20 年かかると想定されている。しかも、2015 年までのゼロ段階では、新造の大型船でも既存船のEEDI の平均値を満たしていればよかった。そのため、第1段階終了時点での削減が1%程度にとどまる一方で、国際海運からのCO2 排出量は倍増するとの懸念も指摘されている。
国際海運におけるEEDI の確実な実施とともに、前倒し的な削減努力が期待される。