環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ求められる仮説構想力と現場力―環境ジャーナリスト講座より―

2017年12月15日グローバルネット2017年12月号

クリエイトブックス、JFEJ理事
岡山 泰士(おかやまやすし)

求められる仮説構想力と現場力 ―環境ジャーナリスト講座より―

先日、本年度5回目の「環境ジャーナリスト講座」が、ジャーナリストの森健さんにお越しいただき開催された。森健さんは2012年に『「つなみ」の子どもたち』(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞、続く『小倉昌男祈りと経営』(小学館)で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞、小学館ノンフィクション大賞、ビジネス書大賞審査員特別賞をトリプル受賞するなど、今乗りに乗っているジャーナリストだ。

記事執筆までの流れとテーマ選び

森さんの主な活動メディアは雑誌で、新聞と比べて文字数が多い。雑誌で10ページは約8,000字、時にはその倍になることもある。そのため相応の素材が必要で、当然、他で書かれていることを書いても誰にも読まれない。

そのため、まずは雑誌、新聞、書籍、テレビのアーカイブなどを十分に調べ、それまで書かれたことをすべて洗いざらいピックアップすることが必須の作業となる。その上で「テーマ設定」を行うが、扱うのは発生もの(事件・事故)ではなく、今ある問題を掘り下げ、背景を解き明かし、もっと深く知るべきではないかと思えるものを取材することになる。

たとえば、人口が減り地方が存続できなくなる「地方消滅」問題(増田レポート)が提言されて数年経つが、住宅を若年世帯に安価で供給して若い人が戻ってきた村が注目されていた。ところが国勢調査の数字を調べてみると、その村の人口は減っていた。「どういうことか?」と思い取材したところ、賃貸住宅に入居した世帯が、その後に家族が増え、家を購入する段になると村内に十分な宅地がないために、他へ引っ越してしまい、結局は1,000人も住人が減っていることがわかった。つまり、伝わっていた成功談とは違い、実際には住宅政策に失敗していたのだ。

「こう言われているけど、本当はどうなのか?」その疑問は取材してみないとわからないという。

取材の実際

新聞などの報道は紙面も限られ、表面的な内容に終わることも多い。取材では新聞では書き切れないところを集中的に掘る作業となるが、いよいよ取材という段になると、現場では予想外のことが度々起こる。

尖閣諸島問題で上陸した香港の活動家に取材したところ、明確な思想に基づいての活動ではなく、気の良い一旗揚げたい活動家だったり、ワーキングプア問題で40人を取材したが、雇用制度とは異なる、教育やメンタルなど別の問題があったため、まったく記事にはならなかったこともある。

不発に終わった取材もある中で、「何が本当か、何を伝えるか、その選別が難しい」と森健さん。もちろん、書けないこともいっぱいある。その中で、人に話を聞き「根っこを探す」姿勢がジャーナリズムには常に求められているという。

新刊のご案内

『鳥さんぽをはじめよう』♪鳥くん(永井真人)著 定価:本体1400 円+税 128 頁・主婦の友社刊

最後に、昨年度の環境ジャーナリスト講座の講師、♪鳥くんこと永井真人さんの新刊『鳥さんぽをはじめよう』をご紹介します(上写真)。特別な場所に出掛けたり、特別な道具を使わなくても、日頃の散歩や買い物、通勤や通学の合間に、鳥たちの姿や声を楽しめる「鳥さんぽ」という楽しみ方を提案。季節ごと、場所ごとに、鳥たちと出会うこつをガイドし、魅力的な鳥の姿も写真で多数掲載されています。「身の回りに、こんなにいろいろな鳥がいる!」と感動するはずです。

タグ: