INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第45回 「十九大」政治活動報告の注目点
2017年12月15日グローバルネット2017年12月号
地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)
国家百年の大計を示す
前回(本連載第44 回2017 年10 月号)で少し紹介したが、10 月18 日から24 日まで北京で中国共産党第19 回全国代表大会(「十九大」)が開催された。初日に行われた習近平総書記(国家主席)の政治活動報告(写真)は3 時間半の長時間に及んだ。この報告は前回の第18 回全国代表大会(「十八大」)以降5 年間の活動を総括するとともに、今後5 年間およびさらに中長期の活動方針などについて明らかにしたものである。毎年3 月の全国人民代表大会で国務院総理が発表する政府活動報告よりさらに重い。
この膨大な政治活動報告の中で、私は次の3 点に注目した。最初に注目したのは今世紀中葉(2050 年)までの社会主義現代化国家の全面的な建設に向けての目標、タイムテーブルおよびロードマップを明確にしたことである。今世紀中葉は中華人民共和国成立(1949年)から数えてちょうど百年になる。
具体的には、まず現在から2020 年までは小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的完成を目指し、次に2020 年からは二つの段階に分けて計画することを提案した。第一段階の2020 年から2035 年までは小康社会の全面的完成を土台に、さらに15 年間奮闘して社会主義現代化を基本的に実現することとし、第二段階の2035 年から今世紀中葉までは現代化の基本的実現を土台に、さらに15 年間奮闘して富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国に築き上げることを提案した。
この目標設定の背景について少し補足すると、鄧小平が進めた改革開放(1978 年)後、社会主義現代化建設について「三歩走(三段階に分けて進める)」と呼ばれる戦略目標が打ち出された。具体的には、①人民の衣食の問題を解決する②人民の生活を全般的に小康水準に到達させる③小康社会を完成させる――の三段階で、当初の予定より早く①は1990 年までに、②は2000 年までに達成された。そして2002 年の中国共産党第16 回全国代表大会において、③は2020 年までに達成させることとされた。今回の報告では、③を2020 年までに確実に達成させることを見据えて、さらにその先の建国百周年に当たる今世紀中葉までの具体的な目標とロードマップを示したものである。
高速成長から質の高い発展への転換
2 番目の注目点は経済発展の質の転換について具体的に言及した点である。これまでの「三歩走」目標では10 年間でGDP2 倍増、20 年間で4 倍増など具体的な数値目標を挙げてきたが、今回は質の転換を強調し数値目標は示さなかった。具体的には次のように述べている。
「経済はすでに高速成長の段階から質の高い発展を目指す段階へと切り替わっている。発展パターンの転換などにより、『品質第一、効率優先』の方針を堅持し、供給側構造改革を主軸として経済発展の質・効率・原動力の変革を促すなどにより中国経済の革新力と競争力を不断に高めていかなければならない。(中略)供給側構造改革を深化させ、供給体系の質的向上に主力を傾け、中国経済の質優位性を著しく高めなければならない。製造強国づくりを加速させ、先進的製造業の発展を加速させ、インターネット、ビッグデータ、人工知能(AI)と実体経済との高度な融合を促し、ミドル・ハイエンドの消費、グリーン・低炭素、シェアリングエコノミーなどの分野において新たな成長ポイントを育成し、新たな原動力を形成する。在来産業の最適化・高度化を支援し、現代サービス業の発展を速め、国際基準までのレベルアップをはかる」などと述べている。製造分野では量の供給だけでなく、質においても先進国に追いつくことを宣言したものともいえる。
生態文明体制改革の加速
3 番目の注目点は5 年前の「十八大」で注目された生態文明建設の発展である。報告では「十八大」以降生態文明建設が顕著な効果を上げたこと、および引き続き生態文明体制改革を加速することを述べている。
具体的な成果については「十八大」以降①生態環境保護をおろそかにする状況が目に見えて改善されたこと②生態文明の制度体系づくりが加速し、主体機能区制度が次第に整い、国立公園制の試行が積極的に進められたこと③資源の全面的節約が効果的に推進され単位GDP 当たりのエネルギー・資源消費量が大幅に減少したこと④重要生態系保護・修復プロジェクトが順調に進展し森林率が持続的に上昇したこと⑤生態環境対策が目に見えて強化され環境状況が改善されたこと⑥気候変動対策の国際協力をリードし、地球規模の生態文明建設の重要な参与者・貢献者・先導者となったことなどを挙げている。
また、今後についてはきれいな水や空気などの優れた「生態製品」を提供することによって日増しに増大する人民の素晴らしい生態環境への需要も満たすべきであるとした上で、節約優先・保護優先・自然回復を旨とする方針を堅持し、資源節約と環境保護を目指す空間構造、産業構造、生産様式、生活様式を作り出し、静かで調和した、美しい自然を回復させるようにしなければならないとしている。具体的には、①グリーン発展を推進する②際立った環境問題の解決に力を入れる③生態系の保全に力を入れる④生態環境監督管理体制の改革に取り組むことを挙げている。①のグリーン発展の推進では、具体的にグリーン生産・消費に関する法律制度や政策の早期確立、グリーン型・低炭素型・循環型の発展の経済体系の確立と充実などの例を挙げている。
後日談になるが、大会終了後の25 日に行われた記者会見で李干傑環境保護部長(環境大臣)は、2020年までに生態環境保護第13 次5 ヵ年計画の目標を必ず実現した上で、同時に2035 年に生態環境を根本的に改善するという目標のための計画を立案する必要があると述べている。そして2035 年に生態環境が根本的に好転するという目標については、現在何を根本的に好転させるのかについて検討しているところだとも述べている。
品質面でも日中の立ち位置が変わるか?
2 番目の注目点として紹介した「品質第一、効率優先」への本格的な舵かじ切りが行われると、日本にとっては大きな脅威になる。本連載第42 回(2017 年6 月号)で、環境対策技術および環境産業の分野において「(中国では)質はまあまあだがとりあえず規制をクリアでき、相対的に安価なサービスが提供されており、(質で上回る)日本の技術や製品が中国で競争力を持てなくなっている」と紹介したが、近い将来中国が品質第一、効率優先への本格的な舵切りで日本の技術や製品と品質の面でも肩を並べるようになったらますます日本の競争力が失われることになる。
翻って日本国内を見るとどうだろう。神戸製鋼、三菱マテリアル、日産自動車など日本を代表する企業が何十年も前から品質データの改ざんや品質管理の手抜き・法令違反を行っていたことが最近明らかになり、日本の製品管理と質に対する信頼性が大きく揺らいでいる。とりわけ品質データ改ざんは信頼を裏切る絶対に許されない行為である。とくに神戸製鋼は、11 年前にもばい煙測定データの改ざんを発表しているから再犯だ。
中国の供給体系の質的向上を待つことなく、このように日本が自ら地盤沈下していくようであれば、5 年待たずして日中の立ち位置が変わっていることになるかも知れない。