特集/セミナー報告 SDGsとサステナブルな暮らし~消費を通してより良い世界を築くために持続可能な消費を促進するための生産者と消費者の役割

2017年10月16日グローバルネット2017年10月号

先月号でも特集した持続可能な開発目標(SDGs)。17 の目標のうちの一つに「持続可能な生産と消費」(目標12)があります。
今月号では、2017年7 月28 日に東京国際フォーラムで開催されたSDGs ビジネスセミナー「SDGs とサステナブルな暮らし~実践と普及に向けて~」(主催:(一社)環境パートナーシップ会議(EPC))より、持続可能な生産と消費に関する企業とNGO の取り組みを紹介します。

サステナビリティ消費者会議 代表、消費生活アドバイザー、博士(総合政策)
古谷 由紀子(ふるや ゆきこ)さん

消費者の実態を理解した持続可能な消費が求められる

SDGsと消費者関連の取り組みについては、1993年に国際消費者機構の政策文書に「持続可能な発展」「持続可能な消費の考え方」が盛り込まれ、1999年には国連消費者保護ガイドラインに「持続可能な消費」の項目が追加されました。

また、日本でも消費者教育推進法が2012年に成立し、翌年には消費者庁が作成した「消費者教育の体系イメージマップ」に「持続可能な消費」が登場しています。

このように消費者の役割がますます期待される中、消費者に対する基本的理解がないまま、つまり誤解されたまま、取り組みが進んでいることが問題ではないかと思っています。

持続可能な消費が注目されるにつれて、消費者の行動に期待する、消費者の役割・責任が強調され、消費者教育推進法でいう消費者市民教育が重要とされるようになってきています。しかし、消費者が役割を果たすためには消費者の実態を理解する必要があります。また「消費」の前提としての「生産」を一体として考慮することが必要になります。

つまり、消費と生産を消費者と生産者との関係で見ると、消費者は市場(生産者)から影響を受ける側面と影響を及ぼす側面があります。注目されているのは市場(生産者)に影響を及ぼす側面、消費者の選択が経済、環境、社会を変えていくという、消費者の役割です。しかし、消費者が市場(生産者)から影響を受ける側面というものを無視して良いのだろうか、というのが私の疑問です。

消費者が役割を果たすには条件が必要

持続可能な消費を促進しようとする人たちからは、消費者の権利は十分満たされているから、今度は消費者の責任、役割が必要と言われますが、そこに大きな勘違いがあるように思われます。実は消費者は企業と比べて情報を持っていない、力関係で企業との圧倒的な交渉力格差があるために、消費者が不利益、被害を受けるという実態が今なお存在します。むしろ、拡大しているといえるかもしれません。持続可能な社会というのは消費者の安全や、公正な取引、被害救済などを実現させることが必要であり、そのためには、消費者の権利もまた重要であることを認識する必要があります。

また、消費者が情報を持たないということは、消費者が役割を果たすための情報も十分ではないということになります。したがって、社会課題に関する情報が消費者に提供される必要があります。例えば、商品の生産過程に児童労働や環境破壊の実態があったとしてもその情報が知らされなければ行動はできません。行動のための情報として、例えば、フェアトレードなどの情報も必要です。さらにはその情報が虚偽ではないことなども求められます。これらは市場における消費者の役割だけを見ていては気付かない側面です。消費者の持つ二つの側面を理解して初めて消費者が適切な役割を果たすための条件に気付くことになります。

なお、SDGsを実現していくためには、企業と消費者がともに解決する「持続可能な生産消費」を起点にそれぞれが目標を見ることを提案しています()。詳しくは、最近出版した本をご覧いただければと思います。SDGsの17目標を、企業と消費者が互いにパートナーシップを組むことで、その他の課題も解決できることを見えるようにしたものです。

消費者庁・消費者団体の取り組み

消費者庁は「消費者教育の基本方針」(2013年)の中で、①被害に遭わない消費者②合理的に行動できる自立した消費者③より良い社会の形成に参画する消費者の三つの消費者像を紹介しています。SDGsも含めて持続可能性に関わる取り組みは、③の消費者像を目指しているのではないでしょうか。なお、SDGsに関連した取り組みとして、消費者庁は2015年に「倫理的消費」調査研究会を立ち上げ、報告書がすでに出ています。民間レベルでも、日本エシカル推進協議会、エシカル・ファッション・ジャパン、SDGs市民社会ネットワークという団体が立ち上がっています。

サステナビリティ消費者会議の取り組み

サステナビリティ消費者会議では、消費者による意見の発信の促進として、苦情や要望の発信を促進するための「コンプレインレター」(解決の申し出)の活動をしています。消費者市民社会あるいは公正で持続可能な消費社会を作る消費者という場合、まず消費者が自ら意見を発信していくことが必要なのではないのか、と考え、コンプレインレターのフォーマットを作りました。他には、「サステナブル消費論」という講座を開設し、自分の行動を振り返る消費者市民チェックリスト(食品編、宅配便編)を作成しました。

消費者団体の取り組みの課題については、多くが消費者の被害防止が優先順位になっており、SDGsについての啓発・教育は十分ではないことです。先ほども申し上げたように、消費者側には情報が少なく、課題などの情報を知る機会があるのはむしろ企業であり、企業の情報提供、消費者啓発教育が今後の課題ではないかと思います。もちろんSDGsにおける消費者の行動の広がりはまだ不十分で、例えばNPO・NGOがいろいろな問題認識をしている、あるいは活動をしているという情報がなかなか消費者側に届かない、あるいは消費者側、市民団体と企業や行政との具体的な対話、エンゲージメントが十分ではないということも課題といえるかもしれません。

消費者の意識と持続可能な消費

持続可能な消費の促進にあたって、よく「消費者の意識」が低いといわれます。あるいは「意識は高いが行動に結び付かない」ともいわれます。しかし、本当にそうなのでしょうか。企業、行政が公表すべき情報が十分ではないので判断できない、あるいは商品が無いので買えないなど、いろいろな原因もあって実は行動につながっていないとも考えられます。

消費者に持続可能な消費を促すためには、消費者の役割を強調するだけではその実現は難しいと思います。市場での消費者の実態、とくに生産側である企業との関係を考慮しながら、どのようにしたら消費者が役割を果たしていけるのか、という、消費者支援、つまり消費者をエンパワーメントするという考え方に立つことが求められるのではないでしょうか。

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