特集/セミナー報告 SDGsとサステナブルな暮らし~消費を通してより良い世界を築くためにおいしいだけじゃない!アイスクリームで楽しく社会を変える
2017年10月16日グローバルネット2017年10月号
今月号では、2017年7 月28 日に東京国際フォーラムで開催されたSDGs ビジネスセミナー「SDGs とサステナブルな暮らし~実践と普及に向けて~」(主催:(一社)環境パートナーシップ会議(EPC))より、持続可能な生産と消費に関する企業とNGO の取り組みを紹介します。
ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社
ベン&ジェリーズ アシスタントブランドマネージャー
溝越 えりか(みぞごし えりか)さん
ベン&ジェリーズ(以下、B&J)は、1978年にアメリカで設立されたスーパープレミアムアイスクリームブランドです。日本には2012年に進出しています。
B&Jのアイスクリームはフェアトレードの原料を使った、「なかに、いいこと」が詰まったアイスクリームです。最大の特徴は濃厚なアイスクリームと、チャンク(チョコレートやナッツなどの具)がたくさん入っていることです。
B&Jは、カナダとの国境近くにある、アメリカ・バーモント州の小さな町(バーリントン)にあったガソリンスタンドの跡地で、ベンとジェリーという二人の青年が立ち上げた小さな店舗からスタートしました。それが今や世界37ヵ国で展開する大きなブランドになっています。
ベンとジェリーは中学生のときに出会い、いろいろな挫折を繰り返しながらビジネスを始めました。もともとアイスクリームにとくにこだわっていたわけではありませんでしたが、チャンク入りの新しい食感のアイスクリームはコミュニティを大切にしながら少しずつ拡大していきました。ブランドの成長とともに、ベンとジェリーは企業が果たすべき社会的責任について考え始めます。
ユニリーバが買収
2000年にB&Jは世界有数の消費財メーカーであるユニリーバの傘下に入りました。ユニリーバがなぜB&Jと手を組んだのか、疑問を持たれる方も多いと思います。もともとユニリーバという会社自体はせっけんの会社から始まっています。リーバという人が、英国の多くの子供たちが不衛生が原因で命を落としているという現実に直面し、何か自分にできないかと考え、せっけんのビジネスを始め、それが今や大きなブランドを所有するグローバル企業になったのです。
一方、B&Jはもう少し地域に根付いて、草の根的な形で社会的ミッションを持って活動しているブランドです。そのような草の根的なブランドと、社会に大きな影響を与えることのできるグローバル企業が手を組むことによって、相乗効果を得られるよう、買収に合意しました。
ユニリーバは環境問題や健康問題、女性問題など、さまざまな問題に取り組みながら、ビジネスを行っています。また、B&Jはフェアトレードや気候変動問題、LGBT(性的少数者)の問題にも積極的に取り組んでいます。このように、ユニリーバとB&Jは、融合的なビジネスで、ともに社会に貢献していくことを目指しています。
B&Jの企業理念
私たちのビジネスには、①製品における使命②経済的使命③社会的使命の三つのミッション(Statement of Mission)があります(図)。三つのミッションは同じように重要で、それらを達成するにあたっては、組織の内外関係者一人ひとりが尊重され、それぞれが属するコミュニティをサポートすることが私たちのビジネスの核となる企業理念です。
B&Jは「アイスクリームのビジネスを通して世界をより良く変える」と言い切っています。これは大きな目標ですが、例えば酪農方法やフェアトレードの原料の由来など、製造過程すべてにおいて皆さんを幸せにできるよう社会的ミッションを持って取り組むことを約束しています。
社会的使命とは、寄付などの金銭的な支援とは少し考え方が違います。私たちのビジネスでは「売り上げの何%をこのように使います」という約束をするのではありません。何が社会に必要なのか、私たちが下すあらゆる決断が本当に社会に対して良いことなのかが問われる、ということを重視し、ビジネス・ディシジョン(経営判断)のタイミングにおいては必ずこれについて考えます。また、社会に存在するさまざまな問題に対して、一見アイスクリームとは関係ないことでも、声を上げることも積極的に行っています。
とは言え、B&Jはアイスクリームブランドなので、私たちはアイスクリームという楽しい商品を提供し、皆さんと一緒に楽しみながら社会に良いことをしていきたいのです。創業者のベンとジェリーは、二人ともまったく異なる性格で、ベンは「ビジネスには、得たものを社会に還元する責任がある!」と社会的使命に関する話をよくします。一方、ジェリーがよく言う「楽しくなければやる意味ある!?」に彼の価値観が表現されています。ですから、楽しく社会的な責任を果たしますが、その上で、真面目なことをただ真面目に伝えず、真面目なことを実践しながら、ユニークに楽しく皆さんに伝えていくことを大切にしています。
コミュニティをつなぐ共存共栄コンセプト
さらに、私たちは「コミュニティをつなぐ共存共栄のコンセプト」というのを大事にし、アイスクリームを作るところからお客様の手に渡るまで、ビジネスが大きく育つにつれてともに成長していくことを目標としています。
B&Jのミニカップ(120ml)は、日本では初めてフェアトレード認証を受けたアイスクリームです。主原料は牛乳と砂糖と卵ですが、牛乳に関しては「ハッピーな牛のミルク」と呼ぶ、なるべく牛に負荷をかけないよう自由に動ける体制の牧場で、酪農方法についても酪農家の人たちと環境負荷が少ないプログラムを考えながら作るミルクを使っています。卵を産む鶏についても放し飼いの鶏を使っており、私たちのビジネスに関わる動物たちにも幸せになってもらうよう努めています。
また、砂糖、バニラ、ココア、バナナ、コーヒーなど、可能な限り原材料はフェアトレードのものを使っています。合成の着色料や香料、保存料も使いません。
少しずつ変わってきている社会
今後フェアトレードというのは、消費者の皆さんが商品を選ぶ時の基準になると思っています。というのも、最近、大学などに講演に行く機会が多いのですが、大学生や高校生の「フェアトレード」や「サステイナビリティ」に対する意識は大きく変わってきていると感じています。「フェアトレードの商品を扱う会社で働きたい」「フェアトレードのビジネスに携わってみたい」と思う若者も増えており、フェアトレードはこれからますます社会に浸透していくものだと実感しています。
最近では、話を聞いた方の中で、スーパーの店内に「フェアトレード棚」というものを設置し、B&Jの商品を真ん中に置いてくださる小売業者もいらっしゃいます。そのように、小売りの場面でも少しずつ変わってきているということを知り、私たちは強い手応えを感じているのです。
楽しく社会を変える 日本でも独自のキャンペーン
B&Jのアイスクリームにはいろいろな原材料が含まれていますが、毎年、どのような原材料にどのくらいフェアトレードのものが使われているか、WEBサイトで報告しています。
また、「楽しく社会を変える」という観点から、日本でも独自のキャンペーンを展開しています。2013年から、「選挙に行ってアイスをもらおう」キャンペーンを実施しています(写真)。これは、投票へ行くことを宣言した人に、B&Jの店舗でアイスクリームをプレゼントするキャンペーンです。日本で大きな選挙が行われるタイミングで不定期に実施し、これまでに2016年の参議院選挙や東京都知事選挙の時も実施しました。店のアイスクリームがなくなってしまうのではないのかと心配してしまうほど、多くの皆さんに参加してもらいました。
また、2015年から気候変動についてグローバルなキャンペーンを展開していますが、日本では昨年、東京・表参道の店舗で、再生可能エネルギー100%の電気「ベン&ジェリーズでんき」でスマートフォンに充電できるサービスを実施し、大変好評を得ました。
企業がこのような取り組みを実現するのは難しいという方もいらっしゃいますが、企業同士で情報交換をし、ともに変わることが大事ではないでしょうか。そしてお客様とともに、ハッピーな社会を築いていければと思います。