環境条約シリーズ 307公海における生物多様性の保全と利用

2017年10月16日グローバルネット2017年10月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

公海における生物多様性の保全と利用

生物多様性条約において、生物資源の保全管理に関する規定の適用範囲には公海は含まれていない。そのため、開発途上国は、公海における生物多様性(BBNJ)の保全と利用に関する法制度の確立を求めている。それを受けて、2015年に採択された国連総会決議に基づいて、法的拘束力を持つ新しい文書を国連海洋法条約の下に作成することを目指して、2016年からBBNJ準備委員会が作業を行っていた。

2017年7月10日から21日に、BBNJ準備委員会の最後となる第4回会合が開かれた。そこでは、公海とその海底に存在する生物資源について、開発途上国は人類の共同遺産原則(国際公共物、国際管理)を主張したが、先進国は公海自由原則(無主物、能力主義、先着主義)を主張し、基本認識が大きく分かれた。その他、海洋生態系の保護、環境影響評価、資金・技術の提供などを含む基本枠組みと、それに関わる多くの検討項目は提示されたものの、それらのほとんどについても見解に大きな隔たりがあった。BBNJ準備委員会の結果は国連総会に報告され、条約交渉のための政府間会議が2018年中には招集される予定である。

この対立の背景には、南北問題(先進国と開発途上国との間の経済・社会的な格差)がある。その解決のためには資金が不可欠であるとされ、その財源として1950年代から、経済援助、貿易制度の改革、各種資源の輸出価格の引き上げなどが求められた。天然資源に対する恒久主権、人類の共同遺産、新国際経済秩序などに関する国連総会決議も採択された。その後も、技術移転の促進、多国籍企業の規制、各種の国際課税、遠洋漁業国からの入漁料、地球環境基金や気候変動基金への拠出などが相次いで求められた。

しかしながら、根本的な問題解決には至っておらず、持続可能な開発目標(SDGs)も依然として南北問題の解決を掲げている(本誌2015年9月)。近年、遺伝資源の利用からの利益配分が関心を集めているが、財源としてはそれほど期待できないとの指摘もあり、BBNJが次の財源として注目されているのである。

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