環境条約シリーズ 306近年、経済・社会・文化的機能が着目される生物圏保存地域

2017年09月19日グローバルネット2017年9月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

ユネスコの生物圏保存地域には、日本から、志賀高原、白山、大台ヶ原・大峰山・大杉谷および屋久島が1980年に登録され、2012年に綾、2014年に只見および南アルプスが追加された(本誌2014年8月)。また、生物圏保存地域の目的に「経済と社会の発展」が追加されたことを受け、初期に登録された4地域は、移行地域を含むよう2014年と2016年に拡張された。

その後、2016年8月に、日本ユネスコ国内委員会は、祖母・傾・大崩(大分県、宮崎県)、および、みなかみ(群馬県、新潟県)の登録の推薦を決めた。2017年6月に開かれたユネスコ第26回MAB(人間と生物圏)計画国際調整理事会における審議の結果、上記2件の登録は承認された。その時点で、世界全体の生物圏保存地域は、120ヵ国、669地域、日本においては9地域となった。

祖母・傾・大崩は、急峻な山岳地形と渓谷から成る複雑な地形・地質に特徴があり、多様な動植物が生息している。その自然資源が地元住民に利用されることにより、各種の二次的自然が形作られている。また、祖母山信仰や神楽のような固有の民俗文化も、各地に残っている。その核心地域と緩衝地域は、祖母傾国定公園や祖母山・傾山・大崩山周辺森林生態系保護地域に指定されている。

他方、みなかみは、気候条件の移行帯にあたり、積雪量が極めて多く、独特の植生・生態系が見られる。周辺には里地・里山が広がり、農村文化とともに歴史や伝統が息づいている。また、温泉にも恵まれており、上述の自然や文化とともに観光資源として活用されている。その核心地域と緩衝地域は、上信越高原国立公園、利根川源流部自然環境保全地域、利根川源流部・燧ヶ岳周辺森林生態系保護地域、緑の回廊三国線などに指定されている。

上記のように、近年は経済・社会・文化的機能が着目され、観光の側面に期待が集まっているが、移行地域においても持続可能性の確保が大前提であることに留意する必要がある。

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