つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す第3回 金融の視点から見た地域循環プロジェクト
2017年08月17日グローバルネット2017年8月号
三井住友信託銀行株式会社 業務部兼経営企画部CSR推進室 審議役
石原 博(いしはら ひろし)
地域プロジェクトと金融
全国各地で地方創生、まちおこし、地域活性化などと銘打ってさまざまなプロジェクトが展開されている。中には成功事例として紹介されるケースもあるが、多くの地域が人口流出や高齢化問題などに苦しみ、地方消滅の危機から抜け出そうともがいているようにも見える。こうした地域プロジェクトの進行過程で、金融機関や金融の役割に対して期待が集まるケースが増えている。
主な理由は、プロジェクト推進に必要な資金不足である。補助金に頼っていたプロジェクトが、その縮小や中断により危機に直面することも多い。金融機関が参画すれば融資や出資などにより資金不足が解消されるのではないか、あるいは金融のプロが参画すれば資金集めに関する有効な仕組み(金融スキーム)が見つかるのではないか、といった期待もあるのだろうが、残念ながらこうした期待に対して、直ちに満足できる回答が提示できるケースは多くない。
なぜなら、金融というのは、あくまで経済の実態を支える補助的な役割を担うからである。産業と金融が車の両輪に例えられることもあるが、産業あっての金融であり、その逆は考えられない。
金融機関ないし資金の出し手としては、プロジェクトの行方がどうなるかわからない状況で融資や出資に応えることは難しい。資金集めに関するスキームについても、従来からの金融手法とは異なるクラウドファンディングや地域通貨、あるいはビットコインなどの仮想通貨によってプロジェクトのボトルネックが解消されるのであれば、もちろん活用すればよいが、その場合でも、プロジェクトの成功について説得力のある計画が練られていることが大前提である。
プロジェクトにおける資金の流れ
さて「金融」とは、平たく言えば資金の流れ、流通のことである。そこでこの定義に沿って地域プロジェクトにおける資金の流れを見てみよう(右図)。
プロジェクトを資金の流れから整理すると、A.資金の出し手→B.資金の受け皿(ビークル)→C.資金の受け手→D.地域循環プロジェクト、という流れになる。しかし、これで終わりではない。プロジェクトが順調に回るようになると、資金は逆方向にD→C→B→Aと流れるようになって循環する。Dのところで地域「循環」プロジェクトと記したのは、資金がうまく循環するようになってはじめて、プロジェクトが持続可能になることを表わしている。
ポイントは「D.地域循環プロジェクト」である。プロジェクトによって新たな需要が生まれ、あるいは潜在的な需要が顕在化し、その需要からモノやサービスの対価としてお金が受け取れ、その資金が循環のプロセスに乗るかどうかがプロジェクトの成否を決める。
かねてより筆者はこれを「出口戦略の重要性」と称してきた。A.資金の出し手からB.資金の受け皿に資金が供給されるまでをプロジェクトの「入口」とすれば、D.地域循環プロジェクトとそこで想定されるモノやサービスの需要者(消費者)はいわば「出口」であり、これをどのように具体化するかがプロジェクトの帰趨を制する、という意味である。まずは資金が自立して循環すること、すなわち経済的自立が先決であり、金融スキーム(入口)は後からついてくる。
出口戦略とは、いかにして需要を生み出し顕在化させるか、言い換えれば、モノやサービスの対価としてのお金を受け取るに足る魅力の発掘、洗練に知恵を絞ることである。これまで見過ごされてきたものを含めて地域が持つ資源を洗い直し、それを魅力にまで高めていく「地域の構想力」が問われることになる。
これまでの例を見ると、地域の魅力については多くの発見や発掘があるように思う。しかし、その魅力を誰に対して伝えるのか、誰に来てもらいたいのかという「ターゲット戦略」と、それを付加価値とするためにどのような物語やお膳立てが必要か、という「ストーリー戦略」についての検討が不徹底なまま、プロジェクトが走り出しているケースもあるようである。
金融機関の役割
資金の流れを順に見ていくと、A.資金の出し手としては、金融機関以外にも企業や個人、NPO法人などさまざまな候補が考えられ、それぞれに寄付や投資、出資、融資、助成等々の拠出形式がある。また、B.資金の受け皿(ビークル)については、財団法人、社団法人のほか信託を使うものなど多様である。
金融機関や金融のプロは、出口戦略を前提にして、資金の出し手、拠出形態、資金の受け皿(金融スキーム=入口戦略)について、さまざまな選択肢とそれぞれの特徴やメリット、デメリットなどの情報をプロジェクトの実施主体に示し、その判断を補助する役割を担う必要がある。
金融機関の中でも地方銀行や信用金庫などの地域金融機関は、地元企業をはじめ役所や学校、地元の各種団体などと日頃から密接なつながりがあるので、プロジェクトの推進力となり得る。地域金融機関は、取引関係を通じて資金力と企画力、実行力を有する地元企業の参画を募ることができるほか、企業や住民に対して事業の説明をする際に集客力を発揮し、金融機関が参画することによってプロジェクトに対する信用力を高める、といった機能を持つ。
また、金融機関自身にとっても、こうした地域プロジェクトに対する参画、貢献は、CSR推進の意義があるほか、地域活性化は地域金融機関の成長、発展と一体であることから、自身の事業目的や事業理念とも一致することが多い。金融機関の従業員にとっても、地元に貢献している実感が仕事に対するモチベーションとなるに違いない。
プラットフォームの必要性
地域循環プロジェクトの準備、推進に際しては、多様な主体(住民、企業、金融機関、大学、行政など)が一堂に会する横断的なプラットフォームを構築することが必須である。ただし、最初から大きな目標や厳格な加入基準を掲げると、順調に構築できないこともある。まずは緩やかな協議会からでもよいので、とにかくスタートを優先させるべきである。
悩みや課題を共有することにより人の輪が広がり、やがて賛同者を増やすことにつながる。プラットフォームがインキュベーター(ふ卵器)となってプロジェクトを担う人材が育つことも期待できる。プラットフォーム内で意見が対立するときは、対立軸を強調することなく「一緒に考える」姿勢で粘り強く話し合う、合意できるところから一歩一歩前に進める、というやり方が望ましい。
このプラットフォームにおいて大きな役割を果たすことができるのが地元金融機関である。さまざまな利害関係を持つ当事者が、互いに対立する関係ではなく調和する関係に立つためには、「地域のため」という共通目標を前面に押し出す必要がある。その役割を担うのは、個別セクターの利害を超えて声を上げることができる金融機関に他ならず、さまざまな利害関係者の紐帯(結び付け役)としての役割を発揮できる。その意味で、地元金融機関がなるべく早い段階からプラットフォームに参画することが望ましい。