特集/海を汚染するマイクロプラスチックの脅威~海洋ごみの現状と対策~日本の海洋ごみ問題の解決に向けたNGO/NPOの取り組み

2017年08月17日グローバルネット2017年8月号

世界の海で漂流するプラスチックの微細なごみ「マイクロプラスチック」への懸念が国際的に高まっています。この問題については、2015年のG7で「世界的な課題」として、対策の強化が呼び掛けられて以降、世界レベルで調査や対策の推進が進められ、今年6月に開催されたG7環境相会合の声明には、海洋ごみに関して独立した章が設けられ、「特にプラスチックごみ及びマイクロプラスチックが海洋生態系にとって脅威である」と明記されました。本特集では、国内外の海洋ごみの現状やマイクロプラスチックが引き起こす環境への影響、マイクロプラスチック問題に対する海外の国や企業の動き、さらに海洋ごみ削減のために進められている市民による取り組みを紹介し、日本政府や企業に今後求められる対策などについて考えます。

一般社団法人 JEAN 代表理事/特定非営利活動法人パートナーシップオフィス理事
金子 博(かねこ ひろし)

プラスチックごみによる海洋環境への影響を懸念し、1986年、米国の環境NGOが調査型のクリーンアップ活動であるICC(International Coastal Cleanup)をスタートさせた。その後、ICCは世界各国、地域で展開されている。日本では、1990年、女性3人で立ち上げたJEAN/クリーンアップ全国事務局(現、一般社団法人JEAN)が中心となって、ICCに参加することになった。今では、JEANが毎年呼び掛けるICCを含めた春と秋のクリーンアップキャンペーンには、海や川の約300会場において、約3万人が参加している。

問題の社会化に向けて ~海ごみサミットの開催

1990年代に入るころから、沖縄県、長崎県や日本海沿岸の地域では、海岸漂着ごみによる被害が、とくに離島において顕在化していった。この状況を捉え、2002年、JEANの呼び掛けで日本および韓国のNGO/NPO、研究者らを長崎県対馬市に招き、小規模な会合を開催した。会合の成果などを踏まえ、翌年5月、山形県酒田市の離島、飛島において「離島ゴミサミット・とびしま会議」を特定非営利活動法人パートナーシップオフィスが主催した。第2回目以降はJEANが主催、自治体と共催するなどの態勢に移行し、会議名称も「海ごみサミット」と改めていくことになる。

2016年までの全14回の開催について、発展段階的に区分してみた。

①第1期:現状の共有
 第1回2003年とびしま会議、第2回2004年つしま会議、第3回2005年おき会議(島根県)、第4回2006年知床・らうす会議(北海道)

②第2期:対応策を探る
 第5回2007年佐渡会議(新潟県)、第6回2008年鳥羽会議(三重県)、第7回2009年下関・長門会議(山口県)、第8回2010年東京会議、第9回2011年愛媛会議

③第3期:河川流域との連携
 第10回2012年亀岡保津川会議(京都府)、第11回2013年東京会議、第12回2014年山形・庄内会議

④第4期:新たな展開へ
 第13回2015年長崎・五島会議、第14回2016年三重会議

2015年の「G7 エルマウ・サミット」の首脳宣言で初めて、海洋ごみ、とくにプラスチックごみが世界的課題となっていると認識され、附属書に「海洋ごみ問題に対処するための行動計画」が盛り込まれた。翌2016年のG7伊勢志摩首脳宣言でもその認識が再確認された。海ごみサミット2016年三重会議(写真①)では、これらの動向を踏まえて、①生物多様性と海洋ごみ②プラスチックごみの海洋への流出防止と削減③北太平洋地域の連携に向けて、の三つのテーマについて、韓国、中国、台湾、米国、カナダおよび欧州連合(EU)より、NGO/NPO関係者や研究者を招き、討議を重ねたところである。

写真① 2016 年三重会議

なお、2011年の東日本大震災に伴い発生した洋上漂流物の米国やカナダの西海岸への漂着問題にも対応した。とくにICCネットワークの信頼関係を基に、民間レベルでの対話や調査活動に取り組んだ。3年ほどにわたる一連の活動では、米国およびカナダの西海岸において漂流物の回収や対応に取り組んでいたNGO/NPOや行政関係者との連携を図るため各地を訪問した。逆に、NGO/NPO関係者を宮城県の被災地に招き、住民、支援者との対話を通じた相互理解を深めてもらった。漂着物の持ち主への返還などを仲介したり、海洋ごみ問題への社会的関心を高めることにつながった。

写真② 山形県遊佐町の海岸に堆積するプラスチックごみ

対策法の制定と見直しの動き

パートナーシップオフィスおよびJEANでは、離島での漂着ごみ問題に着目していた公益財団法人日本離島センターと連携しながら、2006年より国会議員への働き掛けを重ね、2009年の「海岸漂着物処理推進法」(略称)制定に至った。その後、毎年約30億円の対策予算が投じられ、民間団体や都道府県が海岸でのごみ回収や普及啓発に取り組んでいる。

法律の制定後、とくにマイクロプラスチックによる海洋汚染問題が世界規模で深刻化していることが明らかになり、日本の近海でも、世界平均の27倍の浮遊密度となっていることがわかった。このような状況の変化を踏まえ、2016年末より、政府与党(自民党および公明党)に対策委員会などが新たに設置され、現行法の改正に向けた議論が始まっている。

JEAN、パートナーシップオフィスからは、海ごみサミット三重会議での討議を踏まえ、現行法の見直しの論点を整理し、国会議員や関係省庁などへ提示しているところである。具体的には、国としての基本(行動)計画の策定や国際的な協力基金の設置など、現行の規定を補完することによる対策の強化を求めている。

なお、海岸漂着物処理推進法は規制法ではないことから、とくにワンウェイ(使い捨て)のプラスチック製品類の使用削減に向けては、関連法の改正などが不可欠である。

減プラスチック社会の構築に向けて

JEANでは、活動の開始当初より、海洋ごみの主な発生源であるプラスチックの大量生産、大量消費、大量廃棄の社会的構造上の問題について言及してきている。海岸などにおけるごみの回収は欠かせない行動ではあるが、根本的な解決にはつながらない。今年度、JEANでは地球環境基金の助成を得て、3R推進、生態系保全、水環境保全、および生活協同組合などの関連団体に呼び掛けたワークショップを開催するなど、プラスチックによる海洋汚染問題解決のため、連携の強化に向けた取り組みを行う。は、JEANやパートナーシップオフィスに限らず、日本のNGO/NPOが取り組むべき方向性を筆者の私見として示したものである。北太平洋に多くのプラスチックごみを流出している中国などのNGO/NPOとの連携も含め、国際的な協働態勢が構築されていくことを期待したい。

図 今後の取組

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