特集／海を汚染するマイクロプラスチックの脅威～海洋ごみの現状と対策～海洋のプラスチックごみ汚染～現状と生態系への影響

東京農工大学 教授
高田 秀重（たかだ　ひでしげ）

海を漂うマイクロプラスチック　さまざまな製品が汚染源に

最近、海や湖にマイクロプラスチックと呼ばれる、小さなプラスチックの破片が漂っていることがわかってきた。マイクロプラスチックは、もともとは、レジ袋、コンビニの弁当箱、ペットボトルのふた、お菓子のパッケージなどのプラスチックごみ（プラごみ）である。ポイ捨てされたプラごみや、ゴミ箱からあふれたり、風で飛ばされ、地面に落ちているプラごみは、雨が降ると洗い流され、川を流れて、最後は海に流れ着く。リサイクルされるプラスチック製品も多いが、100％リサイクルされているわけではないので、たくさん使えば、リサイクルされないものも増え、その一部が海に出ていってしまう。

海を漂っているプラスチックが紫外線や波の力でだんだんにぼろぼろになり、5mm以下に小さくなったものがマイクロプラスチックと呼ばれる。マイクロプラスチックは海流などで流されて世界中の海に漂っており、その数は5兆個にも上ると推定されている。これらのマイクロプラスチックの大半は、プラスチックの製品の破片であるが、他にもマイクロプラスチックの発生源がある。例えば、化粧品や洗顔剤に配合されているマイクロビーズである。大きさが数十～数百マイクロメートル（μm）の球状のプラスチックの粒が一部の化粧品や洗顔剤にスクラブ（研磨剤を使用した洗顔料や洗浄剤、角質除去剤のこと）として配合されている。それらは洗顔後に下水道を流れて、下水処理場へ運ばれ、通常は95％以上取り除かれる。しかし、東京や大阪など古くから下水道が普及している都市では、雨が降ると雨水と下水が、下水処理場に運ばれずに、川や海へ未処理のまま放流される。雨天時越流という現象で、いろいろな汚染の原因となっており、マイクロビースも雨天時越流により、川や海に運ばれる。実際に東京湾では海水中からマイクロビーズが見つかっている。

また、ポリエステルなどの化学繊維の衣服を洗濯すると、化学繊維の糸くずが排水に混じり、これも下水道を通って、川や海へ流れてしまう。さらに、削れて汚れを落とすタイプのメラミン製のスポンジもマイクロプラスチックの負荷源になっている。その他にも、レジンペレットと呼ばれるプラスチック製品の中間材料も海のマイクロプラスチックの汚染源になっている。

海洋生物によるプラスチックの摂食　懸念される生態系への影響

海を漂うプラスチックの一番の問題は、海の生物が餌と間違えて、あるいは餌と区別ができずに、摂食してしまうことである。海鳥やウミガメなど大きな海洋生物によるプラスチックの摂食は1970年代から報告されてきた。より小さなプラスチックは、小さな生物に摂食される。マイクロプラスチックは、魚や貝が餌とするプランクトンと混ざって海の中を漂っていることから、二枚貝、カニ、小魚などに取り込まれ、現在では世界中の多くの魚貝類からマイクロプラスチックの検出が報告されている。われわれも、東京湾でカタクチイワシを釣って、その胃腸の中を調べたところ、1mm前後のマイクロプラスチックが検出された。64尾のイワシを調べた結果、そのうち49尾、すなわち8割程度の魚から、マイクロプラスチックが検出された。マイクロビーズも検出されたが、魚の胃腸から検出されるプラスチックの大部分はプラスチック破片であった（図）。

出典： Kosuke Tanaka and Hideshige Takada“. Microplastic fragments and microbeads in digestive tracts of planktivorous fish from urban coastal Waters.”
Scientific reports 6 (2016): 34351.

化粧品へのマイクロビーズの配合については、日本でも自主規制する方向に動き始めた。しかし、マイクロビーズは海水や魚貝類中のマイクロプラスチックの1割程度で、大部分はプラスチックの破片なので、プラスチック破片の海への流入の削減、プラゴミの削減、使い捨てのプラスチックの使用の削減を行っていかないと、マイクロプラスチック問題の根本的な解決にはならない。

魚の内臓にマイクロプラスチックが含まれるということは、それらの魚の内臓を取り除かずに人間が食べれば、人間もマイクロプラスチックを食べてしまうことを意味する。ただ、これらのプラスチックは排せつされてしまうので、マイクロプラスチックが検出されたからといって、魚を食べることを避ける必要はまったくない。

しかし、これからマイクロプラスチックの量が増えると、影響が懸念される。マイクロプラスチックにもともとプラスチック製品に加えられた添加剤であったり、プラスチックが周りの水の中から吸着してきた化学物質など有害な化学物質が含まれるので、それらによる影響も懸念される。魚がマイクロプラスチックを取り込んで、マイクロプラスチックは排せつされても、有害化学物質の一部は魚の脂肪にたまる。室内実験では、プラスチックやそこに含まれる有害化学物質による、魚の肝機能低下・腫瘍、生殖能力の低下も報告されている。ただし、これはあくまで室内実験の話であり、それらの実験で魚貝類に与えているプラスチックの量は、実際に環境中で見つかるプラスチックの量よりもはるかに多く、現在の環境中でマイクロプラスチックに含まれる化学物質が原因となる異常は観測されていない。しかし、今後、海へ流入するマイクロプラスチックの量が増えると、実際に影響が出てくる可能性が懸念される。汚染の歴史的傾向を知ることは大事である。

長期間残留するプラスチック　国際的に講じられ始めた対策

実際に、海底の泥（地層）の中のマイクロプラスチック量は、プラスチックの消費量の増加と対応し、増加していることが、世界的に明らかになってきている。さらに、世界の海へのプラスチックの流入量は何も手を打たなければ、今後20年で10倍になるという予測もある。プラスチックは大変分解されにくいため、いったん海に流入すると数十年以上残留する。

さらに、マイクロプラスチックは小さいため回収することも不可能であり、影響がわかってから海への流入を止めても手遅れになる可能性があるため、諸外国では予防的な立場から対策が講じられ始めている。減らせるプラスチックはできるだけ減らそうというのが国際的な流れである。国連では、レジ袋への規制やマイクロプラスチック国際条約を制定する可能性まで議論され始めた。

個人や行政、企業に求められる　プラスチックの使用削減

海洋へのプラスチックの流入を減らすためには、陸上でのプラスチック廃棄物の管理を徹底することが何より必要である。3R、すなわちリデュース（削減）、リユース（再使用）、リサイクルの促進がカギであると考えられている。世界的には、三つのRの中でも初めのR「削減」、使い捨てプラスチック削減の方向で対策が進んでおり、アメリカの一部の州やEU諸国では、レジ袋の禁止や有料化が進められている。2016年9月にはフランスでプラスチック製使い捨て容器や食器を禁止する法律が成立した。

マイバッグを持ち歩きレジ袋を断る、マイボトルを持ち歩きペットボトルの飲みものを買わない、プラスチック包装の多い商品よりも少ない商品を選ぶ、インスタント食品に頼らず食堂で食べる、など個人個人が使い捨てプラスチックを使わないように自分の生活を見直すことが大事である。マイボトル用の給水器の設置など使い捨てプラスチックの発生を抑える行政的な取り組みも必要である。さらに、そもそもの過剰なプラスチック包装を減らしていく生産・流通の仕組みも必要である。