環境研究最前線~つくば・国環研からのレポート第28回 地域におけるリサイクルシステムの構築
2017年06月15日グローバルネット2017年6月号
地球・人間環境フォーラム
島野 富士雄(しまの ふじお)・湯本 康盛(ゆもと こうせい)
昨晩の夕飯作りで出た生ごみ、当たり前のように「燃えるごみ」に出していませんか? 日本の市町村の中には、ペットボトルや空き缶だけでなく、生ごみなどの生物が元になった「バイオマス」系の廃棄物についてもリサイクルを行うところが出てきています。しかしながら、明らかに有価物といえないモノをリサイクルする際には細心の注意が必要です。例えば、生ごみのリサイクルを個人的に行うことを考えた場合、コンポスターで生ごみから堆肥を作ることができるのですが、自宅の家庭菜園で使える量は多くなく、せっかくリサイクルをしても余ってしまいます。
国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室の田崎智宏室長と稲葉陸太主任研究員は、地域でのバイオマスのリサイクルを進めるための研究をしています。
地域の特性に合わせた実践的なガイドの必要性
両氏は、2011~2015年度の研究プロジェクト「地域特性を活かした資源循環システムの構築」の成果の一つとして、これからバイオマス利用に取り組もうとする人に向けて、「物語で理解するバイオマス活用の進め方」というガイドを作成しています(写真)。この作成背景について、田崎氏は「日本は、いろいろなリサイクルシステムを作ってきて、いろいろな関連研究もされてきましたが、リサイクルシステムを作り上げるプロセスにおける知見が十分に共有されておらず、失敗や経験が活かされていません。また、各地でリサイクルシステムを構築するプロセスにも多様性があります。そこで、このプロセスに着目した研究を行ったのです」と説明してくれました。続けて、稲葉氏が「地域のリサイクルシステムという点では、国もわれわれと同じように動いてきたところがあります。例えば環境省は『地域循環圏』(※注:地域で循環可能な資源はなるべく地域で循環させ、それが困難なものについては物質が循環する環を広域化させていき、重層的な地域循環を構築していこうという考え方)という言葉を使って取り組みを進めており、地域循環圏のガイドラインも作って、その計画と実施を促しています。しかし、実践的な部分についての情報が充実していませんでした。そこで、私たちはそれを補完するような形でこのガイドを作成したのです」と補足してくれました。
七つの事例調査が物語ること
ガイドは、担い手になる自治体担当職員はもちろん、住民グループや民間企業などリサイクルの取り組みに関わるすべての人に役立つような実践的なものにしたかったそうです。そのため、いろいろな実例を調べようとしたとのことです。
「私たちは優良とされる、いわば成功事例を選んで検討しました」と田崎氏。「今考えると成功・失敗とは単純に言えず、成功事例の中にもたくさんの失敗の部分もあり、失敗事例と思うものでも、ある意味的確に判断して事業をやめたものもあります」と稲葉氏は調査を振り返ります。さらに、稲葉氏は、調査から得られた具体的な知見を次のように述べました。「最初の段階では、関係者に事業目的を知ってもらうためのシンポジウム、メディアなどの広報活動や普及活動が重要です。また、関係する自治体担当者、事業者、農家、市民団体などを巻き込んで、中核となって事業を推進するチームを作り上げることが必要だとわかりました。先行事例を見学に行くこともかなり有効です。百聞は一見に如かずということで、文面では出てこない苦労話などを現場の担当者から聞くことができます。また、大学や研究機関と連携して、例えば堆肥の効果を検証して、学術的なお墨付きがもらえると、農家の方々も信頼して協力してくれます」
成功に必要な「チーム作り」と「プル型リサイクル」
田崎氏は「リサイクルは、単独で実施するものではなく、複数の関係者が取り組みに関わってリサイクルの輪を作ることが必要です。つまり、ごみを出す―分別する―収集する―リサイクルする―リサイクルから得られた物を使う、この一連のプロセスが全部機能しないとリサイクルは成功しません。そしてこの全体が見えている人がチームの中心にいないと、その取り組みは失敗しやすくなります」と関係者間で連携することと、チームプレイの重要性を指摘します。さらに、「あまりなじみのない言葉ですが、私は『プッシュ型リサイクル』『プル型リサイクル』という言葉でリサイクルを区別することがあります。廃棄物を処理する側から廃棄物をどうリサイクルするかと考えていくアプローチをプッシュ型リサイクルといいます。このやり方ではリサイクル品の買い手や使い手が見つからないことが起きやすいのです。一方、どんなリサイクル品であれば使えるかと需要側から考えるのがプル型リサイクルです。われわれが調査した成功事例では、例えば、需要側の農家がどのような堆肥あるいは液肥を使いたいか、という視点を重視していました」と補足してくれました。
計画偏重からの脱却、信頼の大切さ
稲葉氏は「地域におけるリサイクルシステムの構築では、計画だけではなく交渉、組織、実践も重要です」と指摘します。「実践と交渉を組み合わせた先進的な事例では、ある廃棄物処理業者が農地を購入して、自ら率先してリサイクル堆肥を使って作物を栽培していました。リサイクル堆肥に切り替えても作物の出来に問題がないことを業者自ら確認することによって、農家の信頼と安心を得て、他の農家もリサイクル堆肥を使うようになりました。単にリサイクル品を使ってくださいと交渉するだけよりも、効果的と考えられます」と教えてくれました。関係者の信頼に裏打ちされたチームプレイが成功のカギといえるでしょう。
「誰が何をどのような活動にしたかに注目して、その活動を四つ(計画、交渉、組織、実践)に分類し分析したところがわれわれの研究の新しい着眼点」と稲葉氏から聞き、改めてこのガイドの斬新さに驚かされました。
システムの発展に関わる問題点
ガイドでは、事業の発展の過程を「仕組みを考える」「仕組みを動かす」「仕組みを発展させる」の三つのステージに分けています。「仕組みを発展させる」とは、文字通り、変化する社会情勢に柔軟に対応していくことを意味しています。
「最後の発展段階というところは簡単ではないと思っています。事業環境は時と共に変化するので、それに対応するためには、ある程度の世代交代が必要です。また、今の活動をベースに発展させるとしても、視野を広げていく必要があります。例としては、リサイクル事業を教育に使う取り組みがありました。生ごみをリサイクルした堆肥で作った作物を学校給食で使い、子供たちに食べてもらって、それ自体を教育材料にします。これにより、地域循環を理解する担い手や賛同者を増やしていきます」と田崎氏は指摘します。
ここまで考慮されたガイドは、地球温暖化防止や地域の活性化など他の社会問題解決のためにも活かすことができるのではないかと思えてきます。最後に、このガイドの利用法について尋ねました。田崎氏は「環境問題は、時に押し付けがましくなることがあります。一番重要なのは、このガイドの物語を楽しんでもらい、仲間と共有することです。そうすれば、実際の取り組みを進める視野がより広がるのではないでしょうか」と言います。稲葉氏は「ガイドの第2部で、事業の担い手となる自治体、住民団体、民間企業別に事業の進め方を具体的な物語として面白く書いています」と紹介してくれました。リサイクル分野以外でも楽しめる物語、興味深い内容なので多くの方に読んでもらいたいです。(ガイドは、こちらからダウンロード可能)