特集/セミナー報告 世界は「脱使い捨て」に向かう! ~水Do!フォーラム2017パネルディスカッション
「水Do!社会に向けた合意形成」

2017年06月15日グローバルネット2017年6月号

近年、世界の各地でプラスチック利用の削減や「脱使い捨て」に向けた取り組みが広がっています。ペットボトルなどの使い捨て容器に入った飲料の利用を減らし水の域産域消を推進している「水Do! ネットワーク」は、今年3 月16 日に「水Do! フォーラム2017」を東京国際フォーラムにて開催し、米国での取り組みをはじめ、「脱使い捨て」をいかに実践するかについて議論しました。本特集では、その内容を紹介します。

<モデレーター>
水ジャーナリスト 橋本 淳司(はしもと じゅんじ)さん

<パネリスト>
コンコード・オン・タップ キャンペーン・マネジャー ジル・アッペルさん
袋布向春園本店、Nextea 主宰 井上 典子(いのうえ のりこ)さん
大阪産業大学講師 花嶋 温子(はなしま あつこ)さん
水Do!ネットワーク事務局長 瀬口 亮子(せぐち りょうこ)さん

「給茶スポット」から茶葉の良さを再確認

井上 私は日本茶専門店の袋布向春園で販売を担当しています。ペットボトル入りのお茶が普及して、茶葉から飲まれるお茶の消費が低迷する中、抹茶やほうじ茶を使ったスイーツを開発したり、カフェを併設したりするなど、できるだけ多くの人に気軽に店に来てもらえるような取り組みを試行錯誤しました。

10年くらい前、大手の魔法瓶の製造会社が喫茶店などを対象に紅茶やコーヒーを持ち帰る「給茶スポット」という取り組みを展開していることを知り、担当者に問い合わせました。担当者によると、緑茶は「水筒に入れるのは当たり前」として、給茶スポットでの持ち帰りの対象から外れていたそうですが、私の問い合わせをきっかけに、緑茶の持ち帰りを始めることになり、当店が日本茶を水筒に給茶する「給茶スポット」の第一号店となりました。その後、緑茶を持ち帰りできるのは、日本茶専門店、カフェなども含めて全国145店舗まで増えています。

当店は約20種類のお茶を用意し、料金は130円からと手頃です。お茶を入れている間、お客様からマイボトルのエピソードを聞いたり、お茶の入れ方や茶葉の説明をしたり、ユニークな水筒を持って来て下さると記念撮影してブログで紹介したりするなど、お客様とのコミュニケーションを図っています。30分くらいお話をする年配の男性もとても多く、コミュニケーションの場としてお茶屋の役割は大事だと私は思っています。

低料金で人手を使ってお茶を入れて、もうからないのでは、という声も多くあるのですが、ペットボトルとは違う、お茶の本当の味と香りを知ってもらい、敷居が高くて入りづらいお茶屋のイメージを変える、という当店の目的は達成できています。仕事の合間に寄ってくれる方、マイボトルを手に一人でやって来る小学生もいます。また、「自宅で夕食の時に飲みます」「友だちの家に行くので持って行きます」という年配の方が多いのは意外な結果でした。

活動を広げていくために楽しめる工夫を

橋本 活動の原点となった問題意識や、どうすればそれを人々に効果的に伝えられるか、お話しいただけますか。

アッペル ヒルさんが太平洋ゴミベルトの状況に対する怒りを訴えた町民議会では、「ヒルさんは頭がおかしいのではないか」と思う人もいました。実際はその訴えは合理的で説得力があったので、私たちはその内容を皆に正しく理解してもらうよう努めました。

橋本 井上さん、ペットボトル慣れして急須も見たことがないような若い人たちにお茶の味の違いを知ってもらうために、どんなことをしましたか。

井上 ペットボトルのお茶と急須で茶葉から入れたお茶を飲み比べる機会を持ち、お茶の味の違いがわかってもらえるようにしました。マイボトルに入れたお茶を飲んでおいしいと感じると、次は茶葉を買った方が安いと計算して、茶葉を買って自分で入れるようになる人もいるようです。

橋本 次に花嶋さん、自治体や国の会議などでペットボトルが並んでいる光景を目にしますが、あれを変えるためにどんな提案をすればいいのでしょうか。

花嶋 自治体はどこも財政難なので、すぐにお茶出しはやめようという話になりそうですが、単純にやめてしまうという選択ではなく、どうしたら良いか、悩んでもらいたいと思います。また、日本の社会に今でも女性の仕事として残る「お茶くみ」も含めて、お茶を出すこと自体の意味も考えると良いと思います。

橋本 瀬口さん、活動を広げていくためのポイントは何ですか。

瀬口 私はアッペルさんの戦略を見ていて考え方が似ていると思いました。多くの人が、ペットボトルを買っても、リサイクルしているから環境に良い、またはプラスマイナスゼロと思っていますし、飲料メーカーも薄く、軽く改良したボトルなどを上手に宣伝しています。そこで、私たちは2010年にペットボトル飲料水と水道水のライフサイクルの環境負荷の比較データで提示したところ、多くの人が驚きました。また「こんな水飲み場があったら、もっと魅力的な町になる」など共感してもらえるような代替案をいろいろ提供していきたいと思っています。

橋本 裏付けのあるデータと、誰もがわくわくして楽しめるような代替案を示すことが必要ですね。

アッペル それはマーケティングだと思うのです。良い行動だと説得し、皆がやっていることだと人々に行動を促すことなのです。

橋本 いろいろな環境活動では、反対している人にいかに理解を得て仲間になってもらえるかが重要だと感じているので、アッペルさんの「マーケティング」という言葉には驚きました。

では、使い捨て型の商品の製造・販売に携わっているために反対している人に対してはどんな説得方法があるのでしょうか。

アッペル 私たちの場合は、住民集会で投票権のあるコンコード住民を説得することに注力しました。

飲料メーカーやスーパーの経営者はコンコードの住民ではありません。それでも、対象を1リットル以下の非炭酸水にするなど、合意を得やすいものにしましたし、それでその企業が私たちの支援者になってくれればいいと思ったのです。

井上 企業に働き掛けるというのはなかなか難しいのですが、企業が支援して給茶スポットを展開してくれることで、私たちのような小さなお茶屋でもいろいろな発信をして、さらに若い人などへアピールすることができています。

合意のポイントをどこに置くか

橋本 ゴールをどのように定めるかというのはとても重要なことだと思っています。アッペルさんたちの販売禁止の対象を1リットル以下の非炭酸水に限定する、という戦略はどのような効果を上げましたか。

アッペル ヒルさんが町民議会で最初に訴えたのは、あらゆる種類の全サイズのペットボトル入り飲料の廃止でしたが、少し行き過ぎだと思いました。何か新しいことを試みる際は、合理的な必要性が求められます。ですから、対象を限定し、緊急時の対応や飲料メーカーから訴えられたときの懸念など住民からの声にも耳を傾け、可決可能な条例を目指したのです。

花嶋 自治体の会議についても、必ずしもすべてをやめなければいけないというのではなく、まずは大容量のペットボトルから個別のカップに分けるというのでもいいかと思います。ごみの削減に関する会議なのにペットボトルが並ぶというような矛盾が起きないようにしてほしいと思います。

瀬口 日本と欧米の仕組みづくりを比較すると、物事の決め方が違うと感じます。日本では、とくに、国レベルの審議会などでは、市民の代表も何名かはいますが、製造、小売など、さまざまな関連事業者が多く出席し、果たしてこのようなところで合意形成ができるのか、そもそもすべきなのかと思ってしまいます。

「売る権利」があるかもしれませんが、権利にはレベルの違いがあり、人々の健康を守るなど人権に関わる権利が最も優先されるべきであって、それを判断して制度を作っていくべきだ、と考える人が欧米には多く、公共の福祉に対する姿勢が違うと思います。ひるがえって、現在の日本の状況は、まず「リサイクルしているからいい」と多くの人が思っている状況から「ペットボトルは減らすべきものなんだ」との理解を広げることが第一段階。その後、目標設定、制度づくりと段階を踏んでいくしかないのではないかと思っています。

橋本 瀬口さんは、高い目標を掲げつつ、小さな目標も設定して小さな一歩を重ねていくやり方が良いのでは、とおっしゃっています。アッペルさんのお話に「小さな目標」という言葉が出てきましたね。

アッペル 減らすこととリサイクルをすることは違ったコンセプトだということをまず理解する必要があると思います。

コンコードではヒルさんが提案した条例が通った時、町は、ペットボトルの飲料水を買うのをやめたのです。自治体は税金でペットボトルの飲料水を購入すべきではありません。

企業の数も余り多くなく、小さな町だから始められたというのも大きな要因だと思います。ただサンフランシスコ市は大都市ですが、始め方としては特定のイベントなどでまず禁止をし小さく始めました。政府レベルの変化を促していきたい時は、小さく始めることが必要だと思います。

橋本 日本の場合は大きな理想と教育活動に頼ってしまうことが多い気がしているのですが、小さく始めるというのが大きなヒントになると思いました。

ここで会場から寄せられた質問ですが、まずアッペルさんに、条例を作ることによってペットボトルの販売が減る以外にどんな良い効果がありましたか、という質問です。

アッペル 他に良いこととしては水道水はより安全だということが認識されたことがあります。ペットボトル飲料水の場合は水質が検査されていない場合もあり、水道水の方が安全で、消費者もより健康的になれるということです。それから水道水を飲むのは経済的です。また、路上に捨てられるごみなども減りました。

魅力的なオルタナティブとは

橋本 今日の皆さんのお話のキーワードは、「オルタナティブ」(代替案)でした。最後に、「魅力的なオルタナティブ」とは何か、お話しください。

井上 給茶スポットという小さな活動を通じて、お客様と一緒に環境と健康について考え、急須や湯飲みなどのお茶に関わる道具など、日本の伝統や文化を楽しく伝えていきたいと思っています。

花嶋 関西のある自治体では、全庁的に会議でのペットボトルの使用をやめて、リユースびん入りのお茶、あるいは急須、湯飲みと茶葉のセットを売店で貸し出すことを検討しています。

瀬口 海外には使いやくて、犬用の蛇口もあるような水飲み場があり、こんなのがうちの町にも欲しいと感じることはありました。2020年の真夏に開催される東京オリンピックには海外から日本の暑さに慣れていないお客様が来日されるので、それまでに間に合うように日本らしく恰好の良い、使い易い水飲み場、給水インフラを用意して日本の水道水で「おもてなし」をできることを目指したいと思っています。

アッペル その通りですね。東京にとってのオルタナティブは東京の水道水だと思うのです。地球のためになることができること、これこそが正に魅力的なオルタナティブだと思います。東京の水道水はおいしいですし、日本の他の自治体も水はおいしいはずです、これがオルタナティブとして挙げられると思いました。

橋本 今日はパネリストの皆さんにいろいろな事例やヒントをいただきました。小さな目標をいかに設定するか、どのように合意形成をしていくのか、仲間をどのように広げていくのかという視点はとても良いヒントになったのではないかと思います。

(2017年3月16日東京都内にて)

タグ: