特集/セミナー報告世界は「脱使い捨て」に向かう!~水Do!フォーラム2017~報告:アメリカにおける脱ペットボトルと水道水の飲用推進

2017年06月15日グローバルネット2017年6月号

近年、世界の各地でプラスチック利用の削減や「脱使い捨て」に向けた取り組みが広がっています。ペットボトルなどの使い捨て容器に入った飲料の利用を減らし水の域産域消を推進している「水Do! ネットワーク」は、今年3 月16 日に「水Do! フォーラム2017」を東京国際フォーラムにて開催し、米国での取り組みをはじめ、「脱使い捨て」をいかに実践するかについて議論しました。本特集では、その内容を紹介します。

水Do!ネットワーク事務局長
瀬口 亮子(せぐち りょうこ)さん

私は2014年にアメリカ西海岸のサンフランシスコ(カリフォルニア州)とシアトル(ワシントン州)、2016年には東海岸のニューヨーク、ボストンとコンコード(マサチューセッツ州)に調査に行きました。東海岸では、行政、NGO、弁護士などを訪ねてヒアリングし、実際の水飲み場の設置状況や人々の利用状況なども調査しました。

自治体の取り組み

アメリカでは自治体の取り組みが活発です。2007年の全国の市町村の長が集まる「全米市長会議」で、水道水の大切さを重視していくことが決まり、2008年には、ペットボトル入り飲料水を公費で調達することを止めるよう全国的に働き掛けていくことが決議されました。2007年にはサンフランシスコ市やソルトレイクシティー市(ユタ州)などの都市が公費での調達を廃止し、その後2008年にはニューヨーク市などさらに多くの都市および州も廃止することにしました。

飲料水の調達禁止は、市内で発生する廃棄物とその処理量を減らし、税金の無駄遣いを減らし、安全でおいしい水道水を住民に供給するという自治体の役割と合致しているので進みました。サンフランシスコ市は実施1年目に約50万ドルの節約を実現しました。2013年には、一歩進んで民間も含め新設のビルに誰でも利用できる給水設備の設置を義務付けました。さらに、2014年の秋からは、市が所有する施設や敷地内でのペットボトル飲料水の販売を禁止する条例を採択し施行しました。これらはすごいことのように聞こえますが、市が自分の所有地についてルールを決めたというだけのことなので、何ら難しいことではなかったとヒアリングした市の職員は言っていました。

また、多くの自治体が水道水推進キャンペーンを展開しています。中でも2010年に始まったニューヨーク市のキャンペーンは有名です。ニューヨークの水道水の大半は、郊外のキャッツキルという所から良質の水が供給されています。しかし、多くの市民がペットボトル入りの水を買っていたため、市は夏の間、おいしい水道水を提供していることを市民に知ってもらうため町のあちらこちらに蛇口の付いた水飲みワゴンを出すキャンペーンを積極的に展開しました。

国立公園と大学でも

国立公園でもペットボトル飲料水の販売を禁止するという動きがあります。アリゾナ州の世界遺産グランドキャニオン国立公園では2012年に禁止され、話題となりました。今では、全国で約75の国立公園で禁止され、代わりに一部の公園では湧き水を使った水飲み場が設置されています。

多くの大学も構内でのペットボトル飲料水の販売を禁止し、給水機をたくさん設置しています。「フード・アンド・ウォーター・ウォッチ」というNGO団体が全国の学生キャンペーンをサポートしています。

また、街の水飲み場にもいろいろなタイプがあり、多くの市民が利用していました(写真)。ボトル給水用とじか飲み用の両方を備えたハイブリッドタイプや、ペットボトルの削減量を示すカウンター付きのタイプが設置されている大学もありました。

街で見つけたいろいろなタイプの水飲み場。ボトル給水用(瀬口さん撮影)

街で見つけたいろいろなタイプの水飲み場。
ボトル給水用とじか飲み用さらに犬用も備えたハイブリッドタイプ(瀬口さん撮影)

街で見つけたいろいろなタイプの水飲み場。古くからあるクラッシックデザイン(瀬口さん撮影)

街で見つけたいろいろなタイプの水飲み場。ユニークな形のじか飲み用(瀬口さん撮影)

水キャンペーンを支援するさまざまな団体

ボストンにある「コーポレート・アカウンタビリティ・インターナショナル」という団体を訪問しました。グローバルな大企業による人権侵害や健康・環境への影響に対し活動していますが、いくつかある活動テーマのうち、「水」は最も重要なテーマの一つです。安全な水を手に入れられない人が世界中に7億人もいるという現状や、ボトル飲料水が採水地に与える影響、水道事業の民営化など、市民に水をめぐるさまざまな問題に関心を持ってもらうため、「Think Outside the Bottle」というキャンペーンを2006年に始めました。キャンペーンでは、一般市民にボトル入り飲料水と水道水を飲み比べてもらう「利き水」を実施したりしました。また、全米市長会議や国立公園への働き掛けたも、彼らの戦略的な活動によるものでした。

アメリカ調査から見えたもの

ペットボトル入り飲料水をめぐるアメリカでの現状を見てきて、日本の私たちは何を学べるのか考えてみました。まず、自治体の率先的な行動がシグナル効果を発揮していることがわかりました。自治体の首長がリーダーシップを執れば、状況は早く動きます。「公共福祉を最優先する」という考えを持っている自治体の職員が多いことも印象に残りました。

また、水問題に取り組むNGOも、財政規模も会員数も日本とは比較にならないほど大きく、専門性を持って緻密な戦略を立てて活動しています。

一方でコンコードのような小さなコミュニティレベルでも、積極的に活動している地域があります。また大学でも、独自のルール作りが広がっています。

さらに、アメリカでは「水の公共性」ということに非常に問題意識を持って、そこから多様に取り組みを広げ、そして水飲み場が充実し、市民も日常生活の中で自然に使っていました。

アメリカの調査で刺激を受けた多くのことを生かして、今後も「水Do!キャンペーン」を発展させ、日本でも「脱ペットボトル」と水道水の飲用をさらに進めていきたいと思っています。

水Do !(スイドゥ)キャンペーンとは

 ペットボトルなどの使い捨て飲料容器の使用を減らし、水道水の飲用、「水の域産域消」を推進することにより、環境負荷の低減と地域の水資源保全、人にやさしく潤いのあるまちづくりを促進するキャンペーン。22 の賛同団体で構成する「水Do ! ネットワーク」が運営している。

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