特集/セミナー報告世界は「脱使い捨て」に向かう!~水Do!フォーラム2017~特別講演:コンコードの歴史的な「使い捨てペットボトル入り飲料水」禁止条例
2017年06月15日グローバルネット2017年6月号
近年、世界の各地でプラスチック利用の削減や「脱使い捨て」に向けた取り組みが広がっています。ペットボトルなどの使い捨て容器に入った飲料の利用を減らし水の域産域消を推進している「水Do! ネットワーク」は、今年3 月16 日に「水Do! フォーラム2017」を東京国際フォーラムにて開催し、米国での取り組みをはじめ、「脱使い捨て」をいかに実践するかについて議論しました。本特集では、その内容を紹介します。
市民グループ「コンコード・オン・タップ」キャンペーン・マネジャー
ジル・アッペルさん
私が住んでいるマサチューセッツ州コンコードは、州都ボストンの郊外にある人口約1万5,000人の小さな町です。イギリスの13の植民地の一つとして1635年に開拓され、1775年4月19日にアメリカ独立戦争が始まった場所としても知られています。町の出身者には、アメリカの環境保護運動の先駆者、また『ウォールデン 森の生活』の著者としても知られるヘンリー・デイヴィッド・ソロー(1817~1862年)がいます。
コンコードは美しい街並みや多くの歴史的な建造物が残る町で、質の高いおいしい水も豊富です。水源は六つの井戸と一つの地表池で、厳しく管理されており、配水システムも整備されています。そして、アメリカ環境保護庁(EPA)の基準以上の厳しい検査が行われ、市民に対し、水質年次報告書が毎年公表されています。
一人の女性の提案から始まった運動
コンコードでは町民議会が年に一度、4月に開催され、町民は10人の署名が集められれば誰でも請願を出すことができます。
脱ペットボトル運動は、ジーン・ヒルという女性が提案した議案から始まりました。彼女は、太平洋ごみベルト(北太平洋上の海洋ごみが集まっている地域)でプラスチックなどのごみが大量に漂流しているという事実を孫から聞いてショックを受け、2010年、ペットボトル入り飲料水の販売禁止を求める請願書を町民議会に提出しました。その議案は町民議会では可決されましたが、内容に不備があったため、条例にすることは州の司法長官により却下されてしまいました。それがきっかけで私はマネジャーとして、ヒルさんとともに活動することになりました。
その翌年、町民議会に再び提出した議案は否決されましたが、2012年には採択され、最終的に必要な司法長官の承認も得て、2013年1月1日から、使い捨てのペットボトル入り飲料水の販売を禁止する全米初の条例が施行されることとなったのです。
代替案を示しながら住民に訴えた独自の戦略
ペットボトル入りの飲料水は多くの問題をはらんでいます。価格は水道水より高く、安全ともいえません。また、貴重な天然資源の無駄遣いであり、環境にも悪影響を与え、地域コミュニティを傷つけることにもなります。そのことを、多くの町民に理解してもらえるよう、私たちは独自の戦略を立てました。
まず、禁止する対象を「1リットル以下の使い捨てペットボトルに入った、味の付いていない非炭酸飲料水」に絞り込みました。そして、町民議会で票を投じる参加者と個人的で良好な関係を築くよう心掛けました。さらに、参加者のリストを入手して分析し、地域で環境活動を活発に行っている人やNGO、町の有力者などとも積極的に交流し、学生や学校の先生なども巻き込んで、活動を進めました。フェイスブックや地域のメディアなどでのコミュニケーションも重視しました。
また、カナダのバンクーバーで作られていた「水道水マップ」に倣って同様のマップを作成し、町の観光案内所などに置いてもらい、どこで水道水が飲めるかをわかりやすく示すようにしました。
地元の商工者たちは、当初提案に反対していましたが、再利用可能なボトルの販売など、彼らのビジネスにつながるような代替案を提示して、理解を求めていきました。
国全体の環境問題の解決につながる運動
コンコードの住民は環境問題に関心の高い人が多いです。私たちの運動が目指していることと、持続可能な社会の実現のために住民一人ひとりが個人的に取り組んでいることには一貫性がある、ということを説明しました。さらに、これは地域のためだけの運動ではなく、国全体の変化にもつながるということを強く訴え、人々の支持を得るよう努めました。
条例が施行されたことにより、多くの効果が得られています。水道水を使うことにより、子どもたちの世代に豊かな自然とおいしい水を残すことができ、「水道水は安全で健康的だ」というイメージが確立されました。そして、人々はお金を節約することができるようになり、町は路上のペットボトルごみが減り、そのお陰で河川の汚染も大きく改善しました。
今回東京に来て、水道水がとてもおいしいので、水飲み場がもっとたくさんあったらいいのにと思いました。2020年にオリンピック・パラリンピックが開催される東京で、私たちと同じような取り組みが進むことを期待します。
今年89歳になる、発案者のヒルさんからメッセージを預かって来ました。「日本でも、脱ペットボトルの社会が実現しますように」。