環境条約シリーズ 3032017年8月20日に施行される名古屋議定書と国内措置のための指針について
2017年06月15日グローバルネット2017年6月号
前・上智大学教授
磯崎 博司
生物多様性条約第10回締約国会議で採択された名古屋議定書(本誌2010年12月)は、日本政府が2017年5月22日にその受諾書を寄託したことを受けて、その90日後の8月20日に日本に対して発効することとなった。それに備えて、国内措置のための指針は5月18日に公布され、上記と同じ8月20日に施行される。
名古屋議定書については、「ABS(遺伝資源などの取得と利益配分)の国際ルールが定められている」(正しくは、ABSルールは提供国の国内法令と当事者間の契約に基づく)、「利用国の利用者は、提供国法令の下に置かれ、提供国の利用許可を得なければならなくなった」などの誤解も多い。
実際は、名古屋議定書は、提供国内での法令遵守の確保に、利用国が協力するための制度を定めている。具体的には、利用国内において利用される遺伝資源など(関連する伝統的知識を含む)が提供国において取得された際に提供国法令に則していたことを確認できるような措置の整備を利用国に義務付けている。その対象となる提供国法令は遺伝資源などの取得規制に関する(事前許可またはその条件としての契約制限)規定であり、また、焦点が当てられているのは、関係者ではなく遺伝資源である。このように、名古屋議定書は、一般に企業に求められている原材料調達の健全化という責務の達成を促進する役割を担っている。
さて、国内措置のための指針の対象となる遺伝資源などからは、その施行日より前に提供国で取得されたものや植物遺伝資源条約が適用されるものは除外される。対象とされる遺伝資源などを取得して輸入した者は、それに関わる国際遵守証明書(取得許可書)がABS国際クリアリングハウスに掲載されてから6ヵ月以内に環境大臣に報告する必要がある。実は、提供国法令が遵守されていたことの確認や報告を誰が行うべきかについては、名古屋議定書は触れていない。この点について、議定書に対応するためのヨーロッパ連合規則は利用者に焦点を当てており、日本の国内措置は取得者・輸入者に焦点を当てている。