21世紀の新環境政策論 ~人間と地球のための持続可能な経済とは第22回/まちづくりはどのように変わっていくべきか

2017年05月15日グローバルネット2017年5月号

千葉大学教授 倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)

これまでの回では、人口減少下での豊かさを確保していくために、廃熱を徹底的に減らして、再生可能エネルギーを最大限導入する分散的エネルギー供給構造に変換するとともに、モノを売る経済からサービスを売る経済に移行することが必要であることを示しました。今回は、人口が減少していく中でのまちづくりの方向性を示すこととします。

人口減少によってもまちの範囲は狭まらない

人口が減少しても、人間の居住する範囲は自動的に狭くなるわけではありません。例えば、千葉県の館山市においては、1980年代から人口が減少していますが、水道管延長、ガス管延長、道路延長ともに増加傾向のままとなっています。まちは、いわば花火のように、広がったまま薄くなっていくのです。

対策を講じないまま、人口が減少していくと次のような問題が生じます。第一に、まちの維持管理のための1人当たりの負担が増加し、維持管理が困難になっていきます。第二に、適正に維持管理されない領域が発生し、まちの質が劣化していきます。第三に、適度な人口密度が保てなくなり、商業活動、人と人との助け合い、伝統文化の継承などに支障が発生します。

このため、人口の規模に応じて、まちの規模を適正に保ち、健全に再配置するための政策が必要となるのです。例えば、都市計画の立場から中山徹は「計画的な市街地の縮小を進めることができれば、従来と同じ生活を、同じ負担で送ることができます。さらに、空いた土地を使って自然環境を大規模に再生できれば、都市環境が向上します」として縮小型都市計画を勧めています(※1:中山徹(2010)『人口減少時代のまちづくり 21 世紀=縮小型都市計画のすすめ』自治体研究社)。

コンパクトシティに向けた政策とその限界

すでに、90年代後半から、人口が減少していくことを見据えて、中心市街地ににぎわいがある集約型の都市づくりを進めようという政策が実施されつつあります。1998年にはいわゆる「まちづくり三法」が制定されました(※2:中心市街地における市街地の整備改善および商業などの活性化の一体的推進に関する法律(中心市街地活性化法)、大規模小売店舗立地法(大店立地法)、都市計画法の一部改正法)。市街地の整備と商業振興を一体的に行い、中心市街地を活性化するとともに、大規模小売店舗の立地の際に周辺生活環境への配慮を求め、市町村の判断で大型店舗の郊外立地を規制できるように措置するものです。

2006年には、中心市街地活性化法を改正し、市街地の整備改善と商業振興に加えて、公共施設と居住施設の市街地への配置促進を進めることとしました。また、都市計画法も改正され、大規模集客施設については都市計画手続きを経ることを求めるとともに、公共公益施設についても開発許可を対象として市街地への誘導を図ることにするなどの措置が導入されました。

さらに、2012年には、都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)が制定されました。この法律に基づいて市町村が策定する「低炭素まちづくり計画」には、都市機能の集約のための拠点地域の整備その他都市機能の配置の適正化など、コンパクトシティに向けた計画内容が盛り込まれています。

しかしながら、これらの政策は、大規模施設の郊外立地を規制して都市の拡散を防止するとともに、可能な限り中心市街地を活性化しようとするという内容にとどまっており、人口規模に応じてまちをたたんで再配置するという領域にまで踏み込めていないのが実情です。

所有権の壁をいかに崩していくか

まちをたたんで再配置するためには、土地の所有権という壁を崩していくための法整備が不可欠です。日本は、とくに、所有権が強い法制度となっており、これがコンパクトシティ政策を阻んでいます。

ただ、所有権の壁を崩す法制度が徐々に現れつつあります。2014年に施行された「マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律」では、耐震性能が不十分な老朽マンションについて、5分の4以上の賛成があれば、取り壊して敷地を売却できる制度が設けられました。また、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」では、保安上、衛生上、景観上の問題が著しい空き家について、除却、修繕などの指導、勧告、命令ができるとともに、一定の手続きを経た案件について行政代執行ができることとしました。今後、建物レベルではなく、街区レベルでも、一定の手続きを経た場合には、まちをたためるように、合意形成プロセスを制度化していく必要があります。

所有権の壁に苦しんでいるのは、コンパクトシティ政策のみではありません。人口が減少していく中で発生する耕作放棄地や放置された人工林の適正管理という分野でも所有権が障壁となって施策が十分に進んでいない状況です。

昨年12月に農林水産省は国内農地の2割が相続時に登記上の名義人を変更せずに故人のままとなっている可能性が高いと発表しました(『日本経済新聞」2016年12月27日)。また、「平成28年度版森林・林業白書」によると国内の私有林の24%がその自治体に在住していない地主によって所有されています。農林水産省が2015年度に林業者のモニター121人に森林の境界の明確化が進まない理由を複数回答で聞いたところ「相続などにより森林は保有しているが、自分の山がどこかわからない人が多いから」という選択肢を選んだ人が最も多く64.5%となっていました(※3:農林水産省大臣官房統計部「平成27 年度 農林水産情報交流ネットワーク事業 全国調査 森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」2015 年10 月9 日公表)。相続などによって所有しているものの実質的には管理を放棄している所有者の存在が、耕作放棄地や人工林の管理を阻害している状況となっています。

このような状況で、所有権とは別に利用権・使用権を設定して有効活用を図るという法整備が始まっています。2013年には、農地中間管理機構関連2法(※4:農地中間管理事業の推進に関する法律、農業の構造改革を推進するための農業経営基盤強化促進法などの一部を改正するなどの法律)が成立しました。この法律では、農地の相続人の所在がわからないことなどによって所有者不明となっている耕作放棄地について公告を行った上、都道府県知事の裁定があれば、農地中間管理機構がその利用権を行使できるようになりました。

中心市街地を活性化しようとしても、商店だった場所で商店をやらずに住み続けている人がいれば、いわゆるシャッター街のままとなってしまいます。農地についても、隣の農地と一緒に耕作すれば効率的に耕作ができる場所であっても、所有者が耕作する気がなければ効率的な耕作が進みません。森林施業についても同様でしょう。今後、土地や建物については、その所有者に対して、場所に応じた利用形態で適切に利用する責務を設けて、適切な活用を促さなければならないと考えます。

所有権と使用権の二つを基本とした法体系への転換

以上見てきたように、所有しているものの使用していない結果、地域コミュニティ形成、生態系の管理といったさまざまな観点から問題を引き起こしている場合には、使用権を別途設定して、使用を促す法体系を形成していく必要があります。さらに、適切な使用をしている場合には、経済的なメリットが発生する仕組みも必要でしょう。

例えば、開発権取引という制度があります。これは、建築が抑制される場所で建築する権利を、建築が促進される場所に移転させることによって、建築が抑制される場所の土地所有者の資産価値を保全しようとする制度を指します。具体的には、建築が促進される場所での土地売買価格の一部を、建築が抑制される場所の土地所有者に移転させることになります。例えば、アメリカ・ニュージャージー州では、2004年にThe Highlands Water Protection and Planning Actという法律が成立し、開発権取引制度が導入されています。まちの規模を一定範囲に抑制していくためには開発権取引制度の導入も有効でしょう。

人口が減少していく社会では、所有権に基づく管理圧力が減少していき、土地の適正管理ができなくなってきます。このため場所に応じた土地の使用義務を課する法制度が必要となります。さらに広く考えれば、モノの有効利用を促すためにも、このような法体系への転換が求められていると考えます。まだ使えるモノを所有する所有者は、それを有効に活用しなければならないという義務を課す法制度を構想すべき時代になりつつあります。

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