INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第40回/生態環境保護 第13次5ヵ年計画

2017年02月15日グローバルネット2017年2月号

地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

「生態」環境保護とした理由

昨年12月5日、国務院(日本の内閣に相当)から生態環境保護第13次5ヵ年計画が公表された(実際に制定通知された日付は11月24日)。この計画の上位計画になるのは、昨年3月に全国人民代表大会(日本の国会に相当)で承認された国民経済と社会発展第13次5ヵ年計画(2016~2020年)(以下、「十三五計画」)だ。中国では、この十三五計画で定められた内容を基本にして、各地域別や分野別の5ヵ年計画が策定される仕組みになっている。私の記憶によれば、中央政府が現在のような環境分野の5ヵ年計画を策定したのは第10次5ヵ年計画(2001~2005年)以降である。

「生態環境保護」のタイトルを見て「おやっ」と思われる読者も多いと思うので、最初に少し解説しておきたい。この「生態環境」は、私たちが通常イメージするいわゆる自然環境や生態系・エコシステムを取り囲む環境とは直接関係しないと思ってよい。ざっくりと言えば、中国共産党が創作した政治思想に近い特別な表現の一つである。2012年11月に開催された中国共産党第18回全国代表大会で「生態文明の建設」を党規約に盛り込んで以降、「生態」という言葉が各所で多用されるようになった(本連載2012年12月号『「十八大」が示した生態文明建設』参照)。多少失礼な言い方をさせてもらえば、「生態」という枕ことばを使うことは中国共産党および習近平党総書記への忠誠心を示すことだ。約4万7,000字から成る計画本文中に「生態環境」の文字は134回使用され、「生態」だけでは431回も登場する。

したがって、この計画を読むときに、生態環境保護はこれまでどおりの環境保護の意味に解せばおおむね間違いはない。

計画の主要な目標

計画の中で最も注目すべきは、主要な目標である(下表)。以下のように紹介されている。

「2020年までに生態環境質を全般的に改善する。生産方式と生活様式のグリーン化、低炭素化レベルを向上させ、主要汚染物質の排出総量を大幅に減らし、環境リスクを有効に制御し、生物多様性低下の勢いを基本的に押しとどめ、生態系の安定性を著しく強化し、生態系安全障壁をほぼ作り上げ、生態環境領域の国家管理体系と管理能力の現代化を大幅に進捗させ、生態文明建設レベルと小康社会完全実現目標を互いに適応させる」(注:下線部は十三五計画と同じ表現)。

そして、具体的に12項目の拘束性(義務)目標と14項目の予測性(努力)目標を掲げている。このうち、拘束性の目標とは、法律と同等の効力を持たせるもので、政府として責任を持って達成に努め、達成できなかった場合には政府が、すなわち、しかるべき指導者が責任を取ることを意味するものである。これらの具体的な目標値は表のとおりである。

この表中の各種目標のうち、10の拘束性目標は十三五計画で主要な拘束性目標として掲げられたものとまったく同じである(表中、「性質」の欄に○印)。土壌環境質に係る二つの拘束性目標は、昨年5月にようやく制定された土壌汚染防止行動計画で定めた主要目標と同じである。同行動計画の策定作業は、十三五計画決定までに間に合わなかった。

一方、表中で△印を付けた予測性目標は十三五計画の本文中に書かれている数値目標と同じだ。十三五計画では目標の種類を明確にしていないが、この計画では予測性目標に格付けされている。▲を付けた重点地区全窒素の削減目標値10%はこの計画で初めて登場した。

環境基準と技術政策体系改善のロードマップを示す

主要な目標のほか、この計画の中で注目すべきところとしては、環境基準と技術政策体系改善のロードマップを示している点だ。具体的に引用すると次のとおりである。

①環境ベンチマークを研究・制定し、②土壤環境基準を改正し、③揮発性有機化合物排出基準体系を改善し、④汚染物質排出基準を厳格に執行する。

⑤自動車と非道路移動発生源の汚染物質排出基準、燃油製品品質基準の制定・改正と実施を加速する。

⑥船舶発動機排ガスの汚染物質排出規制値および測定方法(中国第一、二段階)、⑦小型自動車と大型自動車の汚染物質排出規制値および測定方法(中国第六段階)、⑧オートバイと原付自転車汚染物質排出規制値および測定方法(中国第四段階)、⑨畜産汚染物質排出基準を公布・実施する。

⑩使用中自動車の排出基準を改正し、⑪非道路移動機械の国Ⅳ排出基準を実施するよう努力する。⑫環境保護技術政策を改善し、生態系保護レッドライン監督管理技術規範を作成する。⑬鉄鋼、セメント、化学工業などの重点業種でクリーナー・プロダクション評価指標体系を整備する。⑭電力、冶金、非鉄金属などの重点業種および都市と村落のゴミ処理、自動車・発動機船と非道路移動機械の汚染防止、農業面源汚染防止などの重点領域技術政策の制定・改善を加速する。⑮危険廃棄物の利用処分無害化管理基準と技術体系を構築する。

以上、計画のほんの一部だけを紹介したが、詳しく知りたい方はIGESホームページhttp://www.iges.or.jp/jp/china-city/pdf/trend_pdf/20161124.pdfをご覧いただきたい。本計画の全文仮訳を掲載している。

表 生態環境保護第13次5ヵ年計画の主要な目標
目標 2015年 2020年 [累計]1 性質
生活環境質
1.大気質 地区級以上都市2 の大気質優良天気日数比率(%) 76.7 >80 ○拘束性
微小粒子状物質がまだ基準に達していない地区級以上都市の濃度低下(%) 〔18〕 ○拘束性
地区級以上都市の重度以上の汚染天気日数比率の低下(%) 〔25〕 △予測性
2.水環境質 地表水水質3 がⅢ類もしくはそれより良い水域の比率(%) 66 >70 ○拘束性
地表水水質劣Ⅴ類水域比率(%) 9.7 <5 -  ○拘束性
重要河川湖沼水機能区水質基準達成率(%) 70.8 >80 △予測性
地下水質劣悪比率(%) 15.74 15前後 -  予測性
沿岸海域水質優良(一、二類)比率(%) 70.5 70前後 予測性
3.土壤環境質 被汚染耕地安全利用率(%) 70.6 90前後 拘束性
汚染土地安全利用率(%) 90以上 -  拘束性
4.生態系の状況 森林被覆率(%) 21.66 23.04 〔1.38〕 ○拘束性
森林蓄積量(億m3 151 165 〔14〕 ○拘束性
湿地保有量(億ムー) ≧8 △予測性
草原総合植被率(%) 54 56   △予測性
重点生態機能区の属する県域の生態環境状况指数 60.4 >60.4 -  予測性
汚染物質の排出総量
5. 主要汚染物質の排出総量減少(%) 化学的酸素要求量 〔10〕 ○拘束性
アンモニア態窒素 〔10〕 ○拘束性
二酸化硫黄 〔15〕 ○拘束性
窒素酸化物 〔15〕  ○拘束性
6. 区域的汚染物質の排出総量減少(%) 重点地区重点業種揮発性有機化合物5 〔10〕 △予測性
重点地区全窒素6 〔10〕 ▲予測性
重点地区全リン7 〔10〕 予測性
生態系保護修復
7.国家重点保護野生動植物保護率(%) >95 予測性
8.全国自然ウォーターフロント保有率(%) ≧35 △予測性
9.新規砂漠化土地対策実施面積(万㎞2 〔10〕 予測性
10.新規土壌流失対策実施面積(万㎞2 〔27〕 △予測性
注:
1.〔 〕内は五年累計数。
2.大気質評価は全国338 都市をカバーする(地区、州、盟政府所在地および一部の省轄県級市を含み、三沙と?州を含まない)。
3.水環境質評価は全国地表水国設監視断面をカバーし、断面数量は「第12 次5 カ年計画」期間の972 ヵ所から1940 ヵ所に増やす。
4.2013 年のデータ。
5.重点地区と重点業種で揮発性有機化合物総量規制を推進し、全国排出総量は10%以上低下する。
6.沿海56 都市および29 ヵ所の富栄養化湖と貯水池に対し全窒素総量規制を実施する。
7.全リン基準超過のコントロールユニットと上流関係地区で全リン総量規制を実施する。

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