日本環境ジャーナリストの会からのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページCOP22の北風と太陽
2016年12月15日グローバルネット2016年12月号
水口 哲
『持続可能な都市への理論と実践』※(Springer 社)シリーズ・エディター
※原題:Theory and Practice of Urban Sustainability Transitions
爆風トランプ、会場を直撃
「大変なことになりましたね」。気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)3日目の11月9日朝、久野華代・毎日新聞記者が声を掛けてきた。そう、気候変動問題はでっち上げだという不動産王トランプがまさかの当選を遂げたのだ。
会場の雰囲気は一変した。朝一番の記者会見で、環境NGOの気候行動ネットワークは、「何事があろうと、歴史の弓は正義に向かって曲がる」と、キング牧師の言葉を引用し、第一声を振り絞った。科学者のNGO・憂慮する科学者同盟は、「トランプといえど、気候変動対策を進める世界の、慣性の法則を変えることはできない」と続けた。
この「何事も何人も、気候変動対策を進める世界の流れは変えられない」という表現は、その後の本会議や記者会見で繰り返された。パーシング米気候変動問題担当特使(16日)、ケリー米国務長官(同日)、解振華・中国国家発展改革委員会特別代表(17日)、ミゲル・アリアス・カニェテ気候行動・エネルギー担当欧州委員(17日)、18日最終日のメズアールCOP22議長等々枚挙にいとまがない。
4年に1度、COPと米大統領選は交錯する。8年前のオバマ誕生は追い風で、2000年のジョージ・ブッシュ当選はハリケーンだった。
北風に負けない三つの“太陽”
ブッシュの米国は京都議定書から脱落し、程なく日本も追随した。今回も米国はパリ協定から離脱するとも指摘されている。日本も含め潮目は変わるのだろうか。取材した範囲内では、米大統領選の影響は限定的だとする見方も少なくない。北風に負けない“太陽”が輝きを増したことを理由に挙げる。
太陽の一つは、国際社会の勢いである。パリ協定は、採択から1年を経ずして今年10月5日、発効条件を満たした。翌6日には、国際線航空機の温暖化ガス排出を規制する国際的枠組みも国連専門機関のICAOで合意された。15日には、温暖化効果が高い代替フロンの規制が、モントリオール議定書の締約国会議で採択された。10日間で、気候変動対策を進める三つの国際条約が成立している。『気候変動の経済学』のスターン卿(英国)ら、長く交渉を見てきた人々はこれを指摘する。
二つ目の太陽は、再生可能エネルギー(再エネ)の躍進である。COP開催の前月に国際エネルギー機関(IEA)は、「2015年に世界で新設された電力設備の半分以上を再エネが占めた。15年は転換点」と発表し、再エネの成長予想を上方修正した。「7年前のコペンハーゲン会議と昨年のパリ会議との違いは、技術革新と規模拡大の効果で、再エネが儲かるようになったことだ。中国が緑の成長エンジンになった」と語るのは、金融を専門とする非営利シンクタンク、カーボントラッカーのアンソニー・ホブレイ所長である。会議期間中には、独、仏、西、葡の4ヵ国とモロッコ政府との間で、電力貿易を促進する共同宣言も発表された。イベリア半島とモロッコをつなぐ送電網が改善され、太陽光で発電したモロッコの電力が欧州で売れるようになる。これはCOP14(08年)で構想が発表された欧州、北アフリカ、中東をつなぐ再エネ共同体計画の手始めといえる。
COP15前後に欧米で進んだ制度設計
COP15(09年)ではオバマ(米)、メルケル(独)、サルコジ(仏)、ブラウン(英)ら各国首脳が、自らペンを執ってコペンハーゲン合意を起草するほど、欧米で気候変動政策の優先順位が上がった。この年、米国や欧州連合(EU)は気候変動・エネルギー包括法を採択し、再エネを本格導入する制度設計が一気に進んだ。複数の国で、環境省が環境・エネルギー省となった。金融・財政部門を巻き込んで、英国政府やスウェーデンの自治体で炭素予算制が動き出した。中央集権国家のフランスでも、自治体が主役となって、温暖化対策とエネルギー、ごみ処理、住宅、交通、都市計画を統合的に実施できる環境法が制定された。炭素税、排出量取引、気候債の格付け制度は、世界に広がった。
翻って日本。法的・市場的な道具立てが貧弱な状態が続いている。