特集/持続可能な地域づくりを受け継ぐ地域ぐるみ環境ISO研究会のこれから

2016年11月15日グローバルネット2016年11月号

三菱電機株式会社 中津川製作所飯田工場環境推進課 岩田 良美(いわた よしみ)

 

多摩川精機株式会社 総務部環境エネルギー管理課 藤原 由里絵(ふじわら ゆりえ)

 

飯田市役所 環境モデル都市推進課 牧内 伸浩(まきうち のぶひろ)

現在は、地球温暖化に対する危機感が高まってきたことで、国・各自治体の施策が環境分野にも重きを置くようになり、また企業、市民の環境意識も高まり、多くの企業が環境問題に取り組むようになってきている。再生可能エネルギー固定価格買取制度などの経済的インセンティブにより、環境関連産業も成長し、環境に関する情報も増えている。

翻って、「地域ぐるみ環境ISO研究会(ぐるみ研)」設立当時の20年前は、どうだったろうか。各事業所の環境改善活動への取り組みは、顧客からのISO 14001の規格認証の要求に応えるために、必要に迫られて始めるという場合も多かったかと思う。現在でも、積極的に環境改善活動を実施していく、実施してもらうことの難しさを感じるのは、環境改善活動は目に見える成果にはなりづらく、費用や手間がかかるものというイメージが強いせいかもしれない。

ぐるみ研は、そのような状況の中で、この地域の6事業所が協力して環境改善活動を進め、ISO 14001の認証取得を目指すことから始まった。この6事業所に所属する者として、今までの活動を振り返り、今後の展開について述べてみたい。

行政が参加していた強み

発足当時は6事業所から始まったが、地域自治体である飯田市が一事業所として仲間に入っていたのがユニークであった。行政が行う事業は、ややもすると一方通行的になりがちである。また、環境問題は一事業所内で完結するものではなく、地域全体で取り組むべきものであり、業種や規模、考え方も違う事業所が加入するぐるみ研に自治体が一事業所として参加することは行政にとってメリットは大きく、実際、ぐるみ研の活動に支えられている部分もある。

一方で飯田市も、企業だけでは成り立たない部分を補い、その活動を支えている。地域内のそれぞれに特徴ある事業所が「環境」というキーワードの下に集まり、相互に補完し合うというぐるみ研の骨組みがしっかりしていたからこそ、現在も多くの企業が参加する研究会となったのかもしれない。

小規模事業者を支える独自の環境マネジメントシステム

地域独自の環境マネジメントシステムである「南信州いいむす21」を作り、地域内の小規模・個人事業所の環境改善活動への取り組みのハードルを下げたことも功績の一つだ。さらに、ぐるみ研参加事業所の中から参加メンバーを募り、温室効果ガス削減のための「いいこすいいだプロジェクト」を立ち上げ、ぐるみ研所属事業所の省エネ診断を実施し、受診事業所に省エネの提案をしてきた。その提案の内容などは「省エネ事例集」としてまとめられ、各事業所の省エネ活動の参考にされている。

これらのぐるみ研の活動が、民間企業にとってはボランタリーな活動であることを思うとき、各事業所の代表者、実務者の環境に対する強い思いに感動するとともに、その思いがぐるみ研の活動を支えてきたのだと思う。そのことは、新たに実務者になり、実際に「南信州いいむす21」や「いいこすいいだプロジェクト」などの活動に参加してみると、強く実感する。

今後のぐるみ研の発展に向けて

今年迎える研究会設立20周年は一つの大きな区切りになる。奇しくも、ぐるみ研設立の一つのきっかけでもあったISO 14001の2015年版改訂の時期とも重なった。また、ぐるみ研代表の交代も予定されている。さて、これからのぐるみ研にはどんなことが求められており、どう発展させていくべきであろうか?

かつての環境問題は、公害との戦いという身近で生死に直結する部分の意味合いが強かったが、現在は地球温暖化防止、生物多様性の保全といった、地球規模での環境保護の意味合いが強く、一企業には取り組みのイメージが湧きにくくなっている。「次へ」進めるために振り返ってみたとき、環境を取り巻く状況に変わりはあれど、再び初心に戻って、ぐるみ研の活動理念である「地域の自然を残し、持続可能な地域づくりのため、新しい環境改善の地域文化を創造する」団体を目指し、高い理想を追い求めることが必要であると思う。

今後の具体的な展開は、2015年版の環境マネジメントシステムISO 14001へのスムーズな移行など直近に迫る課題や、省エネ活動などの環境への取り組みを見聞を広めながら情報共有し、まだ参加していない地域の多くの企業を巻き込んでいくことが必要である。個々の企業や個人ではなかなか成果として表れない場合もあるが、地域という広い範囲で、新規企業の参加で新たな空気を入れながら、継続して発展できればと思う。 一方で、今後の活動の拡大を考えると、設立時の高い志とぐるみ研の活動へ関わってきた先輩方の情熱に支えられたボランタリーな形での活動には限界も感じる。これらの課題を解決して、南信州広域連合との連携を深め、南信州地域への普及拡大、町村への広がりからそこに所在する企業をも巻き込み、南信州の環境ブランドを発信、浸透することができればと思う。 現在に合った「環境」の取り組みを、一企業ができるところまで落とし込んで、みんなで取り組めるようにする。そして、事業所内の環境改善活動を通じて、従業員・職員意識を市民意識にまで高める。そんな活動ができたらと感じる。ぐるみ研は、これまでの20年の経験を生かし、これからも、この地域の環境改善活動を引っ張っていく立場でありたい。 また、ぐるみ研の各活動を進める実務者としての負担は少なくはないが、これまでの活動を引き継ぎ、発展させることができるよう後継者として関わり続けていきたいというのが共通する思いである。