USA発 サステナブル社会への道 ~NYからみたアメリカ最新事情第8回/米国の食品廃棄物削減に関する取り組み

2016年11月15日グローバルネット2016年11月号

FBCサステナブルソリューションズ代表
田中 めぐみ(たなか めぐみ)

近年、米国では企業による食品廃棄物削減に関する取り組みが増えている。その要因として、世界的にも米国内でも食品ロスによる環境・社会問題に注目が集まっていること、カリフォルニア州やシアトル市、ニューヨーク市など多くの州や自治体が事業系食品廃棄物の埋め立て・焼却を禁止し、堆肥やエネルギーへの再生利用を義務化し始めていること、また、米国環境保護庁と農務省が昨年、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に準ずる形で2030年までに食品ロスを半減する目標を設定し、企業や組織に参画を促していることなどが挙げられる。

農務省によると、2010年時点の米国内の食品ロスは1,330億パウンド(6,033万t)と、小売・消費者向け食品供給量の31%を占めており、小売価格に換算すると1,616億ドルに上るという。政府の規制や施策も重要だが、食品ロスの削減がコスト削減につながるという認識が企業の対策実装の大きな原動力になっていると見られる。

食品ロス削減の経済効果

今年1月のダボス会議で設立された非営利団体ビジネス・サステナブル開発協議会(Business and Sustainable Development Commission:BSDC)は、先日発表した報告書で、食品関連のSDGsを実装することによる民間事業機会は2030年までに年23兆ドルに上ると試算し、そのために必要な投資額は3,200億ドルで、7倍のリターンが期待できるとしている。報告書では、14の事業機会例を挙げているが、最も経済効果が見込めるのはバリューチェーンでの食品廃棄物削減で1,550億~4,050億ドル、家庭系食品廃棄物の削減は1,750億~2,200億ドルと試算している。

食品大手のコナグラ・フーズ社は、傘下の製造工場に対して「持続可能な開発賞」と題したコンペを毎年開催し、持続可能で革新的、かつ業績改善が期待できる取り組みを工場間で競争しながら行う仕掛けを提供している。2015年には82工場がこの取り組みに参加し、総計で廃棄物58,700 t、容器原料1,500万パウンド(6,800 t)、水9,700万ガロン(3億7,000万L)、温室効果ガス1万1,500 tを削減した上、7,000万ドルのコスト削減を実現したという。“固形廃棄物削減賞”を受賞したアイダホ州のジャガイモ加工工場では、冷凍技術を改良することで、品質を落とすことなく1,000 t分のジャガイモの廃棄を回避した。“優秀賞”を受賞したアイオワ州の工場では、製造しているパック入りデザートの味付けを変える際、これまで廃棄していた古い製品を新しい製品に混ぜて使うようにしたことで、食品廃棄物を1,000 t削減できたという。

食堂運営や給食などの食品サービスを行うアラマーク社は、以前から大学に対し食堂での食品廃棄物削減を働き掛けているが、その一つにトレイを排除する試みがある。トレイがあると必要以上に皿やコップを乗せる傾向があり、過食や食品廃棄物の排出を誘発する。トレイがなければ、手で持てる分しかテーブルに運べず、たくさん取りたければ何度も往復せざるを得ず不便なため、必然的に過食や食べ残しを抑制できる。さらに、トレイを洗う際の環境負荷を削減できる上、洗剤や水、廃棄物処理などにかかるコストも削減できる。同社の調査によると、トレイを排除した大学では、25~30%の食品廃棄物を削減でき、財務効果は年7万~8万ドルに上ったという。

社会貢献としての削減対策

経済効果を狙うのではなく、社会貢献活動の一つとして食品ロス削減対策を行う企業も多い。

米国には古くから、農家や食品関連企業から余剰食品の寄付を募り低所得者に提供する「フードバンク」と呼ばれる非営利団体や、フードバンクから譲り受けた食品を調理して低所得者に提供する「スープキッチン」と呼ばれる仕組みがあり、食品廃棄物の削減と貧困対策に貢献してきた歴史がある。しかし、企業の寄付が体系的な仕組みとして確立しているわけではなく、寄付した製品が不適切に取り扱われることを懸念して寄付を躊躇する企業も少なくない。食品を寄付する側とされる側を共に保護する連邦法はあるが、それでもこうした懸念を一掃できない。

この問題に対処すべく、キャンベルスープ社はニュージャージー州のフードバンクと提携して面白い試みを行っている。フードバンクが地元の桃農家から規格外品や熟し過ぎた桃を安価で買い取り、それを使用してキャンベルスープが無償で桃風味の瓶詰ソースを製造し、フードバンクブランドの製品として地元小売店に販売する。収益の全額がフードバンクの飢餓対策プログラムに寄付されるという仕組みである。地元農家にとってはこれまで廃棄されていた作物を買い取ってもらえるメリットがあり、フードバンクにとっては収益を得られる。地域全体としても地元産の桃が流通し経済が活性化する上、廃棄物削減にもつながる。キャンベルスープは企業イメージの向上を期待できるほか、同製品の梱包作業を従業員のボランティア活動の一環として行っているため、エンゲージメントの向上が見込める。単に売れ残りを寄付するのではなく、こうしたプロジェクトを立ち上げて企業が積極的に関与することで、リスクを削減でき、全利害関係者にとって便益を生み出せることを証明した良い例といえる。

ベンチャーの取り組み

食品ロス削減をミッションに掲げたベンチャービジネスも増えている。

ボトル入り野菜・フルーツジュースブランドのミスフィット社は、原料の70~80%に規格外作物や野菜の皮など通常廃棄されている食品を使用している。大学生の二人組が立ち上げたベンチャーだが、コンセプトが受け入れられ、地元ワシントンDCやニューヨーク市の人気小売・飲食店で販売されている。同社は、地元の非営利団体から規格外品を、カット野菜を扱う食品卸業者から野菜くずを買い取るスキームを確立しているが、通常のルートで出回らないこうした“原料”の調達は難しい。

フード・カウボーイ社は、この問題を解決すべく、規格外作物の需給マッチングアプリを提供している。共同創業者の一人はトラック運転手であり、卸業者に農作物を配送する際、野菜の形や色、熟成度により配送先から受け取りを拒否されることが頻繁にあるという。拒否された作物は多くの場合廃棄されるが、ミスフィットのようなソーシャル企業やフードバンクなど規格外品を求める組織は少なくない。単に情報が行き届いていないことが問題であり、両者をつなぐツールがあれば解決できると考え、事業化した。現在までに、寄付する組織200社、寄付を受ける組織400社ほどが同社のアプリに登録しているという。

インパーフェクト社は、規格外の野菜や果物に限定した宅配サービスを行うベンチャーである。農家から直接作物を買い取り、顧客の自宅に毎週か隔週で配達する。見た目は悪いが規格品より40~50%安いため人気が高く、現在顧客数は2,300、月に7万パウンド(31.8 t)以上を宅配しているという。昨今は一般のスーパーでも規格外品を取り扱うようになり、インパーフェクト社と提携する企業もあるという。

米最大の小売企業ウォルマートも、今夏から一部店舗で規格外の野菜や果物の取り扱いを開始した。これまでも規格外品を加工食品向けに使用するなどの対策を行ってきたが、あえて規格外品であることを明示して販売することで問題認識を高める狙いがある。大手が本格的に参入すれば膨大な量の在庫が動き、非営利団体やソーシャル企業分が不足する可能性もあるが、もしそうなれば、食品ロス問題の一つが解決したことになる。ただし、一過性のキャンペーンではなく、永続的な取り組みにする必要があるだろう。

米国内で現在食糧不足に直面している人は数百万人に上るといわれている。農務省によると、食品ロスを15%削減すれば、年間2,500万人に十分な食料を提供できるという。同省の目標通り2030年にロスを半減できれば、国内はもとより、世界全体での食品需給バランスの改善に大きく貢献することになる。そのためには、企業のさらなる関与と貢献が不可欠だろう。

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