特集/再生可能エネルギーの普及における固体バイオマスの持続可能性とは?持続可能な木質バイオマス発電に向けて

2016年10月15日グローバルネット2016年10月号

2012年に固定価格買取制度(FIT)が開始して以来、再生可能エネルギー電力が増加しています。バイオマス発電についても、木質バイオマスを中心に、認定・導入ともに急増し、輸入バイオマスの需要が増えるなど、さまざまな課題が浮上しています。そこで本特集では、固体バイオマスの利用の現状と課題を概観し、さらに9月12日に東京で開かれたシンポジウム「固体バイオマスの持続可能性確保へ向けて~英国の事例と日本の課題~」での講演内容を紹介します。

NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長
泊 みゆき

FITの問題点と輸入バイオマス

2012年に固定価格買取制度(FIT)が開始して以来、再生可能エネルギー電力が著しく増加している。バイオマスも木質バイオマスを中心に、認定、導入ともに急増しているが(表)、今もさまざまな制度的課題がある。

最大の課題は、とくに一般木質バイオマス発電において、発電規模別の買取価格が導入されていないことである。木質バイオマス発電の発電コストは5,000kW規模で算出されているにもかかわらず、100万kWを超える石炭火力発電混焼にも同じ買取価格が適用されている。大規模になるほど見かけ上の発電コストが低くなることから、大規模な木質バイオマス発電事業の認定が相次ぎ、合計300万kwに及んでいる。

 

メタン発酵

未利用木質 一般木材 リサイクル木材 廃棄物 合 計
2000kW未満 2000kW以上
稼働件数 74 4 25 12 2 50 167
認定件数 165 21 49 106 4 78 423
稼働容量kW 20,964 4,340 208,686 158,199 9,300 160,147 561,637
認定容量kW 56,622 26,405 398,073 2,965,853 34,960 238,136 3,720,049

300万kWの木質バイオマス発電で必要となる木材は、4,000万~6,000万m3程度と考えられる。これは、現在の日本の木材生産量は2,500万m3、世界の木材チップの貿易量は4,000万m3程度(欧州連合(EU)域内を除く)であり、輸送船舶や港湾施設の能力の点からも、数年で調達可能な量ではない。

輸入バイオマスについての課題

木材は、建材、合板、家具、紙、熱などさまざまな利用がされ、また地域や地球環境にとって重要な生態系である森林の主要な構成要素である。そのため、経済的・社会的・環境的な配慮に欠くと、森林破壊や土地利用をめぐる紛争、他用途との競合などを引き起こす可能性がある。

FIT認定された木質バイオマス発電所の原料予定量の半分以上は、輸入バイオマスである。輸入バイオマスの中では、比較的安価なPKS(アブラヤシ核殻)の利用を見込む事業者が多いが、新たに利用可能なPKSの量は世界で300万t程度と見込まれており、旺盛な日本のバイオマス発電需要を満たすには不十分であると考えられる。

NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)が2016年7~8月に実施したバイオマス発電事業者およびサプライヤーへのアンケート調査によると、一般木質バイオマス発電では、カナダの製材端材ペレット、米国・オーストラリアの製材端材・植林木・二次林のチップ、ベトナムの建設廃材ペレット、ベトナムのユーカリペレット、タイのアカシア植林ペレット、中国の製材端材ペレット、ロシアの製材端材ペレットなどが利用される見込みである。

輸入材に関して、FIT制度では林野庁の「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」※1により、「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」※2に基づく合法性の証明書が要件となっている。この合法性ガイドラインでは、①森林認証制度およびCoC認証制度を活用した証明方法②森林・林業・木材産業関係団体の認定を得て事業者が行う証明方法③個別企業などの独自の取り組みによる証明方法、の三つの方法が挙げられている。従来この「合法証明」では、デューデリジェンス(入念な確認、以下DD)の概念が必ずしも担保されておらず、実効性に欠けるケースがあるという批判があった。

この点については、DDの概念を含む、「合法木材の利用を促進する法律(クリーンウッド法)」が2016年5月に成立し、進展が期待される。ただ、同法の細目は未定であり、木質バイオマスの扱いもまだ定まっていない。ただし、従来からのグリーン購入法からの流れを考慮すれば、木質バイオマスの合法証明にDDの概念が採用される見込みは高いと考えられる。

一方、英国やオランダなど欧州では、温室効果ガスのライフサイクルアセスメントを含めた固体バイオマス持続可能性基準の導入が進んでいる(P.11参照)。

輸入バイオマス利用はGHG削減に寄与するか

京都議定書において、バイオマス利用はカーボンニュートラル(炭素中立)であり、温暖化の原因とならないと見なされた。しかし、ほとんどのバイオマスの生産・加工・輸送には化石燃料が使われ、メタンガスや亜酸化窒素などの温室効果ガスが発生する場合もある。例えば、木材を伐採、搬出するにあたって林業機械の燃料に石油が使われ、チップ工場やペレット工場でも電力や動力が使われる。遠距離の運搬をすれば、輸送にも石油が使われる。EUによる調査では、地域の材から作られたチップを熱利用に使えば、化石燃料に比べ90%以上の温室効果ガス削減効果があるが、遠距離を運ばれたペレット(工場の動力は天然ガス)による発電であれば、削減効果は10%にまで落ちるという結果となっている。

固体バイオマスの持続可能性確保へ向けて

バイオマス産業社会ネットワークおよび地球・人間環境フォーラム、国際環境NGO FoE Japan、NPO法人環境エネルギー政策研究所などは、2015年10月より「固体バイオマスの持続可能性確保に関する調査研究・啓発活動」を開始し、2016年1月、「日本におけるバイオマスの持続可能な利用促進のための原理・原則~適切なFITの設計のために~<改訂版>」を発表した※3。そこでは、三つの原理・原則として、①真の意味での温室効果ガス(GHG)削減への寄与。GHG削減量の適切な計測と、最低基準の設定②健全な生態系の保全。土地利用計画・森林計画などの中での生態系保全や他の生態系サービスと調和可能なゾーニングと透明性の高い計画策定プロセス③経済・社会面での配慮、合法性の確保、を挙げている。

日本でも、①ガソリン比のGHG削減が50%以上②食料との競合の回避③生態系への影響の回避を内容とする、液体バイオ燃料(エタノール)の持続可能性基準がすでに導入されている※4。さらに、日本も策定に加わった、世界バイオエネルギー・パートナーシップ(GBEP)の「バイオエネルギー持続可能性指標」にあるように、土地所有権や労働問題などを含めた社会への影響を含む固体バイオマス持続可能性基準の策定を図るべきであろう※5。

元来、FITの木質バイオマス発電で期待されたのは、世界でも最高水準の森林率を誇る日本の森林資源の利用であり、そのために国民負担が正当化されたと考えられる。しかし今、起こりつつあるのは、エネルギー自給や地域経済への貢献が低い、大量のバイオマスの輸入である。

いま一度、目的を再確認し、木質バイオマス利用は、熱利用やコジェネレーションに主眼を置いた政策へと誘導すべきであろう。輸入バイオマスは、持続可能性を確保した上で、補完的に位置付けるのが適切ではないだろうか。

そのために、発電規模別の買取価格の導入あるいは大規模発電のFITへの適用除外や、固体バイオマス持続可能性基準の導入などが有効であろう。

※1  http://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/hatudenriyou_guideline.html
※2  http://www.rinya.maff.go.jp/j/boutai/ihoubatu/pdf/gaido1.pdf
※3  http://www.npobin.net/Teigenkaiteiban0128.pdf
※4  http://www.enecho.meti.go.jp/notice/topics/017/pdf/topics_017_002.pdf
※5  例えば「国際バイオエネルギー・パート ナーシップ (GBEP)の持続可能性指標の背景と内容」参照。http://www.npobin.net/112thHayashi.pdf

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