特集/次世代に向けた低炭素社会の構築を目指して~「低炭素杯2016」受賞団体の地域での取り組み環境大臣賞金賞/文部科学大臣賞の受賞事例の紹介米子工業高等専門学校 B&C研究同好会(鳥取県米子市)
2016年08月15日グローバルネット2016年8月号
環境大臣賞および文部科学大臣賞に選ばれた6団体のうち4団体の取り組みについて編集部がまとめた内容を紹介します。
グローバルネット編集部
環境大臣賞 金賞(地域部門)
食品廃棄物を活用した流通食品のロスを減らすための取り組み
米子工業高等専門学校 B&C研究同好会(鳥取県米子市)
ふつうは捨ててしまう卵殻膜(卵の殻の内皮)が持つ自然の機能に着目し、低炭素社会の実現に役立てようとする取り組み。
卵は殻が割れない限り、常温でも腐りにくい。その理由は、殻の中でも膜が空気を通し、卵の中身を病原菌から守る機能を持っているからだ(下図)。同好会では、その機能を添加物として応用できるのではないか、と着想した。
日本の卵の消費量は一人当たり年間329個で世界第3位※。消費量全体のうち卵殻膜の総重量は約1.7万tに上るが、そのリサイクル先は非常に限られている。
一方、国内で食品から排出される廃棄物は年間約1,700万t。このうち、500万~800万tが本来食べられるのに腐敗や変色などの理由で廃棄されていると推定され(平成22年度農林水産省推計)、これは国内のコメの収穫量に匹敵するほどの量だ。
そこで同好会では、食品を無駄に捨てないための技術について、卵の膜で解決するアプローチを思い付いた。
実証実験には、着色劣化(褐変)が早く、近年人気の食材であるアボガドを使用。果肉片を切り出し、卵殻膜で被覆したものと未処理のものの褐変傾向を比較した。その結果、処理を何もしなかったものは茶色に変色(褐変)したが、被覆したものには膜により色素成分が吸着し、着色が抑制されていることが確認された。
次に、これを実用化するため、卵の多層構造に着目。卵殻膜をそのままの状態で添加物として使用すると、対象物の色彩や食感に違和感を与えるため、膜を気泡から2層に分離、ふりかけのように粉末化し、見た目や食感を改善した。
また、アボカドだけでなくゴボウやリンゴなどの同様の褐変に対しても着色劣化を抑制する効果が確認できた。このことから、今後は色素沈着を防ぐ食品添加物として、さまざまな食品に幅広く応用し、加工食材の市場を拡大する可能性が期待できるだろう。
食品ロスの削減で変わる社会生活
食品廃棄物のうち、まだ食べられるのに廃棄されている量を焼却処分した場合に見込まれるCO2の排出量について、独自に計算してみたところ、国内で年間約1,600万tに上ることがわかった。これを体積で換算すると、東京ドーム(124万m3)の約7,300万個分に相当する。つまり、食品ロスを削減することは、CO2の大きな削減につながり、低炭素社会の実現に貢献することにもなる。
B &C研究同好会は、主に物質工学科の3、4年生の有志が中心となり、生物(Biology)と化学(Chemistry)に関するテーマを設定した自主研究を行うために結成されたグループ。彼ら高校生が発案・研究したこの技術によって実現される食品ロスの削減は、豊かで環境にやさしい社会生活の実現にもつながるだろう。