環境条約シリーズ292水俣条約に即して作成された日本の水銀排出基準

2016年07月15日グローバルネット2016年7月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

水銀に関する水俣条約(本誌2013年2月)は、国会承認を経て、2016年2月2日に日本政府によって受諾された。それに先だって2015年には、水俣条約の国内実施に対応するため、水銀による環境の汚染の防止に関する法律、および、大気汚染防止法の一部を改正する法律が制定された。

水俣条約は、水銀の排出源の分類ごとに、新規施設からの排出基準には、利用可能な最良の技術および環境のための最良の慣行(BAT/BEP)の採用を義務付けている。また、既存施設からの排出基準には、排出削減目標、排出限度値、BAT/BEP、水銀の排出規制に効果的な複数汚染物質規制戦略、または、代替的措置を定めるよう義務付けている。それを受けて、上記の改正大気汚染防止法の下の水銀の排出濃度の基準案が検討され、2016年6月に公表された。それに基づいて、大気汚染防止法施行令が改正される予定である。

その案によると、石炭燃焼ボイラー(発電所を含む)のうち、新規施設の排出基準は、ノルマル(0℃、1気圧に換算した排ガス量で)1m3あたり8マイクログラム(μg)、ただし、小型石炭混焼ボイラーは10μgと定められた。同様に既存施設については10μg、小型ボイラーは15μgとされた。

次に、非鉄金属(銅、鉛、亜鉛および工業金)の製造に用いられる精錬および焙焼の工程のうち、一次施設(主として鉱石を用いる施設)の排出基準について、新規施設は、対象金属または規模に応じて、15μgまたは30μg、同様に既存施設は30μgまたは50μgと定められた。二次施設(リサイクル原料などを用いる施設)についても同様に、新規施設は30μgまたは100μg、既存施設は50μgまたは400μgとされた。

廃棄物焼却炉の排出基準については、新規施設は30μg、ただし、水銀回収に関わる施設の場合は50μgと定められた。その既存施設は50μg、水銀回収に関わる場合は100μgとされた。他方、セメント焼成施設の排出基準については、新規施設は50μg、既存施設は80μgと定められた。

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