NSCニュース No.101/2016年5月日本企業はESGをどう認識しているか?(上)
2016年05月15日グローバルネット2016年5月号
ニッセイ基礎研究所 NSC幹事
川村 雅彦(かわむら まさひこ)
持続可能なグローバル事業のためには、財務的要素に加え環境・社会・ガバナンス(ESG)に代表される非財務要素も考慮する必要がある。今後の経営戦略は「QCD(品質、費用、納期)+ESG」が基本となるが、日本企業はESG課題をどのように考えているのであろうか。
■日本企業の半数が海外事業
日本企業の半数近くが、生産・販売や調達など海外で展開している。地域別に見ると、中国を中心に多くはアジアである。次いで、米国や欧州、ロシアも少なくない。すべての業種において半数を超える企業が中国に進出しているが、とくに製造業の繊維・衣服、化学、一般・精密機械、電気機械で約8割、非製造業の卸売で7割以上となっている。
■ 海外事業の経営課題は“経営資源”の確保、“競争力”の強化、“ESG”への対応
海外事業における重要な経営課題は、「現地の人材確保」、「海外・現地企業との競合」、「品質管理」、「原材料や部品の調達」、そして「法令遵守を含む企業統治」、「労働問題」である。これらは“経営資源”、“競争力”、“ESG”に分けて整理することができる(図参照)。
ESGについては、全体には必ずしも多くはないが、リスクマネジメントとして位置付けられているようだ。具体的には、法令順守や企業統治、労働問題をはじめ、環境規制(汚染や廃棄物)、消費者課題、事業撤退や工場閉鎖、人権問題(人権意識や差別撤廃)などがある。
海外事業における重要な経営課題を製造業と非製造業で見ると、人材確保、企業統治、労働問題での差異は少ない。特徴的な業種は、輸送用機械の人材確保や労働問題、電気機械の企業間競合、食品の資材調達、鉱業・石油や運輸の企業統治などである。
企業規模別に見ても、海外事業における経営課題の全体傾向は変わらないが、大企業では企業間競合と企業統治がより重要な経営課題と認識されている。なお、品質管理については、企業規模が小さいほど課題意識が強い。