環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ電力自由化スタート、CO2削減・反原発の“一票”を

2016年04月15日グローバルネット2016年4月号

エネルギー業界紙元記者 滝川 徹

電力小売り全面自由化が4月1日に始まり、「お得な料金プラン」「セットで割引」などとCMも多く流れている。家計も大事だが、原発や温暖化問題など日本のエネルギー政策に影響を与えるとの視点から、電力会社を選んで“一票”を投じてほしい。

戦後、電力会社は全国10電力に分割され、それぞれの電力会社が発電・送電施設を独占し、東京に住んでいたら東京電力、大阪に転勤したら関西電力と契約するしかなかった。それが審査機関の基準をパスした全国279社(4月7日現在)から選択して契約できることになった。

日本の電力自由化は1995年の発電部門の自由化でスタートし、2000年には新電力による企業向け電力販売が解禁された。家庭向けへの拡大には電力会社が強く抵抗していたが、11年3月の東京電力福島第一原発事故をきっかけに、小売り全面自由化が13年に閣議決定された。新電力は託送料金を払って大手電力の配電網を利用するが、20年4月には発送電分離によって大手も新電力も送配電網を同様に利用するようになる。さらには、17年4月からは都市ガスの小売り自由化も始まる。

電力の二酸化炭素(CO2)排出量は日本全体の排出量の約4割を占める。国は昨年決定した30年のエネルギーミックス(電源構成)で再生可能エネルギー(再生エネ)22~24%、原子力20~22%、石炭火力26%などと想定。原発推進とCO2排出量の多い石炭火力保持を図っている。こうした国のエネルギー政策に国民が直接、意思表示する機会はこれまでなかった。各種審査会を傍聴してきたが、事務局の経済産業省の筋書き通りに審議が進められ、温暖化防止や反原発の考えは少数意見として事実上無視されてきた。官庁が委員を人選する以上、「出来レース」になってしまう。そうした審議会の少数良識派委員の辰巳菊子・消費生活アドバイザーは「(今回の電力自由化は)消費者にとって国のエネルギー政策に関われる大変なチャンス。情報を集めてベストではなくてもベターな会社に“投票”してほしい。無関心(棄権)は大手電力を安心させるだけ」と語る。

選択のポイントとして発電の際のCO2排出量と原発の電気かどうかに注目してほしい。

欧米や中国などは石炭火力廃止の方向に動いているが、環境省は今年2月に条件付きながら石炭火力新設容認に転じてしまった。国際公約の「30年までの温室効果ガスの26%削減(13年比)」、長期目標の「50年までの80%削減」を真摯に達成しようとしているのか疑問だ。運転時にCO2を排出しない太陽光、風力、水力などの再生エネを応援したい。

一方、福島原発事故の教訓を踏まえた新規制基準の施行で原発の安全性がアップしたのは事実だろう。それでも、原子力規制委員会の田中俊一委員長の「(合格は)新規制基準に適合しただけで安全とは言っていない」との発言は何度も聞いた。もともと100%の安全などあり得ない。電力会社や経産省は「重大事故の可能性はあっても、電力会社の経営や立地している地域経済のために再稼働します」と正直に言うべきだし、そのこと自体は否定しない。ただ、政府は「規制委の合格=安全」とすり替えて住民の避難計画などに真剣に取り組んでおらず、電力会社は活断層上の原発再稼働や「原則40年運転」のなし崩し延長を図っている。核のごみ問題は解決に程遠いだけでなく、破綻が明らかな核燃料サイクルにしがみつく。例えば、20年以上稼働していない高速増殖原型炉「もんじゅ」は常温で固化するナトリウムの液化などに毎日5,000万円も浪費されている。福島原発事故の賠償も含め「原発が割安」というのは架空の数字としか思えない。

現状は、契約切り替えを申し込んだのは約53万2,600件(4月1日現在)と全世帯の0.8%に過ぎない。さらに電力小売り営業ルールで電源表示は「望ましい行為」とされたが、義務付けられはしなかった。また、再生エネ100%の会社を選ぼうにも供給力や立地面から大都市圏居住者には手が届かない。それでも「原発や石炭火力に執着する電力会社にはサヨナラ」との“一票”が積み重なれば経営にダメージを与え、いずれ見直しに追い込まれるのではないか。それを期待したい。

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