フォーラム随想良い気、悪い気
2016年04月15日グローバルネット2016年4月号
地球・人間環境フォーラム 理事長
炭谷 茂(すみたに しげる)
親しくしている中国人W氏は、在日20年を超える気功師である。気功についての本にも紹介されている達人である。多くの日本人の治療を行い、かなりの実績がある。以前、私は、素直には気功の効果を信じていなかったが、最近は気の存在を真剣に考えるようになった。
日本語には「気が入る」、「気を落とす」、「病は気から」など気を使った言葉遣いは、沢山ある。日本人は、昔から気の存在を信じてきた。古い神社を参拝すると、身が引き締まると感じるのは、私だけではないだろう。鬱蒼とした森に囲まれた神社からは、気が伝わってくるようだ。
環境省を退官した直後の平成18年秋の某日、講演を終えた帰路に大分県の宇佐神宮を参拝した。宇佐神宮は、古代史で大和朝廷誕生に決定的な役割を果たしたと考えていたから、一度現地を確認したかった。広大な敷地を歩くと、古代の息吹が木々の間から伝わってくるとともに、気が充満しているのではと感じた。私の人生の新たな出発に当たって、たっぷりとエネルギーを注入できた。
河川沿い、森の中なども良い気を感じる。登山をする人は、もっと良い気を得ているのだろう。
北海道新得町で障害者、ひきこもりの若者、刑務所出所者など問題を有する人たちが共同で暮らす農業生産法人「共働学舎」を経営する宮嶋望氏は、自然界に存在する気を活用して、日本でトップクラスのチーズを生産する。方位、月の満ち欠けなどに留意して製造に当たっている。人為的な動力を使用せず、地形の高低による自然の力で牛乳を作業所に流す。人工的なエネルギーを原料に加えないためだという。
最初のうちは、私は、「オカルト的だ」と軽口を叩いたが、最近は真理があるのではと思うようになった。
月の満ち欠けと交通事故発生件数の相関関係を調べた結果を本で読んだことがある。記憶が正しければ、満月の時に重大な交通事故が多いらしい。月からの引力が人の精神に影響を与えているという説明だった。爾来「今日は旧暦ではどんな日か」と旧暦を気にするようになった。
一般の人も気功師と同様に気を発しているのではないか。良い気を出す人もいれば、悪い気を出す人もいる。良い気を出している人に接して元気になりたい。悪い気を出している人からは遠ざかりたい。
利己的な人は、悪い気を出している。現在、地球全体を市場原理が席捲し、企業も個人も自分の利益を求めて汗を流している。他人を蹴落としてでも自分の利益を増やそうとする。
現在アダム・スミスの「国富論」を読み返している。学生時代は、知識を得るためだけに読んでいたが、今は現在の経済・社会状況と比較しながら読んでいる。
アダム・スミスは、人間の利己を追求する行為が自由市場でなされれば、経済は、自ずと発展し、望ましい状況になると説く。
しかし、自由競争の結果、ほんの一握りの人間に富が集中する一方、膨大な貧困層を生んでいるのが現在の世界各国の共通した現象である。利益のためには環境被害や犯罪も厭わない企業も出る。
日本社会も同様である。このため今日では上から下まで悪い気が覆っているように感じる。
個別の人間関係では、いつの世も自分の利益になることだけを強引に要求する人が必ずいるものだ。
こんな人が上司や先輩にいると大きな被害を受ける。健康に害を受ける。こんな人は、最悪の気を流しているのだろう。
逆に人のために尽くそうとする人からは、最良の気を感じる。私は、休日には障害者、被差別部落、ホームレス、刑務所出所者、中国残留孤児などの難題に一緒に立ち向かっている人と会う。このような人たちから良い気が放出されている。私は、いつも週末には良い気に晒され、元気を回復する。