INSIDE CHINA現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第36回 石炭火力発電対策の飛躍的進展
2016年02月15日グローバルネット2016年2月号
地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明
パリ協定における中国の目標
昨年末にフランス・パリで開かれた国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では京都議定書に代わる新しい合意文書「パリ協定」が採択され、京都議定書の枠組みに参加していなかった世界第1位、2位の二酸化炭素(CO2)排出国である中国も米国も参加することになった。拘束性が緩い枠組みだが、インドも含む世界の主要排出国が足並みをそろえたことの意義は大きい。このパリ協定では各国が条約事務局に提出した任意の目標を自主的に達成することとしている。中国は昨年6月末に①2030年前後にCO2の排出量をピークアウト②2030年の単位GDP当たりのCO2排出量を2005年比で60~65%削減③非化石エネルギーの一次エネルギー消費量に占める割合を20%前後に引き上げ④森林蓄積量を2005年比で約45億m3増やすなどの目標を条約事務局に提出していた。
中国の掲げた目標はCOP21に合わせて突然出てきたわけではない。国内ですでに制定している各種目標を基礎にして調整したものだ。例えば、CO2排出と密接な関係があるエネルギー戦略については2014年6月に国務院(日本の内閣に相当)が「エネルギー発展戦略行動計画(2014~2020年)」を制定通知している。この中で、2020年までに一次エネルギー消費総量を石炭換算約48億tに抑制し、石炭消費総量を約42億tに抑制する、非化石エネルギーの一次エネルギー消費に占める割合を15%にし、天然ガス割合を10%以上にし、石炭消費割合を62%以内に抑えるなどの目標を掲げている。
中国でCO2排出と最も密接に関係するのは主要エネルギー源である石炭の消費であり、その大半を消費する石炭火力発電所における対策である。上述のように非化石エネルギーの一次エネルギー消費量に占める割合を高めるとともに、主要エネルギーを石炭から脱却することができない運命の下では、石炭火力発電所の効率を高めていくことが重要だ。エネルギー発展戦略行動計画の中でも「石炭火力発電をクリーン・高効率に発展させる。石炭使用方式を転換し、集中高効率型の石炭発電の割合の向上に努める。石炭火力発電機の市場参入基準を引き上げ、新規石炭火力発電機の石炭消費原単位を300g/kWh未満にし、汚染排出を天然ガス発電の排出水準に近づける」ことを明確にした。
中国の発電政策は量から質へ
1980~90年代、高度経済成長が続く中で中国の電力供給は絶対的に不足していた。とくに発展著しい東部沿海地域では頻繁に停電が発生し工業生産に影響した。このため各地で中小規模の石炭火力発電所が競って建設されたほか、21世紀に入ると「西部大開発」政策の主要施策の一つとして「西電東送」(中西部地域で発電した電力を東部地域に送る施策)を推進した。また、一定の電力量が確保されるようになると2006年以降は「節能減排」(省エネ・排出削減)政策の下で石炭火力発電所の構造調整を開始した。「上大圧小」(大規模発電所を新設、小規模発電所を廃止)施策を実施し、半ば強制的に小規模発電所を淘汰した。
地域によっては、まるで公開処刑を実施するがごとく破壊の様子をテレビ中継した。写真は私が先月訪問した河南省新郷市にある河南孟電発電所で紹介された爆破の瞬間である。2007年10月26日、8基の小型発電ユニット(発電能力合計17.5万kW)を一挙に爆破撤去した。同発電所グループは全国で最初に小規模火力発電所の爆破を実施した民間企業である。補償らしい補償もなかったようで直接損失は10.3億元であったと公表している。この年は全国で1,000万kWの小規模火力発電所を閉鎖する目標が掲げられ実行された。
その後上述のように大規模発電所についてもクリーン・高効率に発展させる目標が示され、2014年9月には国家発展改革委員会、環境保護部、国家エネルギー局が合同で「石炭火力発電の省エネ排出削減の高度化と改良行動計画(2014~2020年)」(改良行動計画)を制定通知した。この計画では次のような行動目標が示された。
- 全国の新設石炭火力発電ユニットの平均電力供給石炭消費量が300g/kWhを下回り
- 東部地域の新設石炭火力発電ユニットの大気汚染物質排出濃度が基本的にガスタービン発電機の排出規制値に達し
- 中部地域の新設ユニットは原則的にガスタービン発電機の排出規制値に接近あるいは到達し
- 西部地域の新設発電ユニットはガスタービン発電機の排出規制値に接近あるいは到達するよう奨励する
- 2020年までに、現役の石炭火力発電ユニットの改良後の平均電力供給石炭消費量が310g/kWhを下回り、そのうち現役の60万kW以上のユニット(空冷ユニットを除く)の改良後の平均電力供給石炭消費量が300g/kWhを下回る
- 東部地域の現役の30万kW以上の公共石炭火力発電ユニット、10万kW以上の自家用石炭火力発電ユニットおよびその他の条件を備えた石炭火力発電ユニットは、改良後の大気汚染物質排出濃度が基本的にガスタービンユニットの排出規制値に達する
- さらに厳格なエネルギー効率環境保護基準を実施する前提の下で2020年までに石炭の一次エネルギー消費における比率を62%以内に引き下げ⑧発電用石炭の石炭消費における比率を60%以上に引き上げるよう努める。
これらの目標でとくに注目すべき点は二つある。ガスタービン発電機並みの排出規制値を達成することと発電用石炭の石炭消費における比率を60%以上に引き上げることだ。石炭の消費総量を抑えていく中で監督管理しやすい発電事業に石炭消費を集中していく。
石炭火力をガスタービン並みに変える超低濃度排出
石炭火力ユニットからの排出ガス濃度をガスタービンユニット並みに低下させることを指して「超低排放」(超低濃度排出)と呼ばれている。ばいじん、二酸化硫黄、窒素酸化物の排出濃度規制値をそれぞれ1m3当たり10、35、50㎎に設定した。上述の改良行動計画では現役の石炭火力ユニットも2020年までにこの排出濃度規制値を達成させることとした。この規制値は日本の規制値と比べても非常に厳しいもので、日本でもこのガスタービン並みの排出レベルを達成している現役の石炭火力発電所は神奈川県にある磯子火力発電所などわずかしかない。
現役の石炭火力ユニットの早期改造を奨励するため補助金を出している省もあるが、多くは企業に全額負担させている。写真で紹介した河南孟電発電所も8基の小規模発電ユニット破壊後に26億元を投じて30万kWのユニット2基を新設することとし、2011年末にようやく完成させたが、改良行動計画を受けて2014年10月にさらに9,000万元余りを投資して既存の脱硫・脱硝・集塵装置のグレードアップ改造を行った。
そして昨年12月、改良行動計画の実施をさらに加速させるため国家発展改革委員会など3部局は合同で「石炭火力発電所の超低濃度排出と省エネルギー改造事業の全面実施計画」を制定通知した。改良行動計画の目標達成期限を東部地域で3年前倒し、中部地域で2年前倒しすることなどを主な内容としている。
以上のような最近の動きを見ると、石炭火力政策に関して中国の方が日本よりも一歩も二歩も進んでいると言える。現在の日本ではスクラップ・アンド・ビルドの際にしか対策強化が行われないが、中国では淘汰するか対策を講じるかの二つの選択肢しかない。このような政策が続けば、パリ協定の目標達成も現実味を帯びてくる。