フォーラム随想増加する気象災害

2016年02月15日グローバルネット2016年2月号

自然環境研究センター理事長・元国立環境研究所理事長
大塚 柳太郎

昨年12月13日、フランスのパリ郊外で開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)は当初の予定を1日延長し、196の国と地域が参加する2020年以降の地球温暖化対策を定めたパリ協定を採択し閉幕した。議長を務めたフランスのファビウス外務・国際関係大臣の周到な準備や、会議直前まで粘り強く交渉を続けた「作業部会」のメンバーの努力が大きかったのはまちがいない。協定が採択されたことに、フランスはもちろん、日本を含む大多数の国が肯定的な評価を下している。

とはいえ、この協定の採択により温暖化への歯止めがかかったと感じるとすれば、大変危険と言わざるを得ない。各国が協定を順守するのはもちろんとしても、さらに強力な温暖化対策に向けたスタート台に立ったと言うべきであろう。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)をはじめ多くの研究機関や研究者が指摘するように、各国の現在の削減目標が達成されたとしても、気温上昇を1・5度どころか2度以内にも抑えられないのである。  

二酸化炭素(CO2)の排出削減が困難なのは、その必要性が声高に叫ばれてからも一向に進まないことからも明らかであろう。昨年、アメリカ海洋大気局(NOAA)が南半球を含む全球平均の大気中CO2濃度が400ppmを超えたと発表した。CO2濃度の観測は、ハワイ・マウナロアで1957年から、日本でも国立環境研究所により沖縄・波照間島で1992年から、北海道・落石岬で1994年から続けられてきた。すべての観測値は、季節変化を繰り返しながら一貫して右肩上がりに上昇しているのである。  

COP21の冒頭に行われた首脳会議で、オランド大統領が「テロと温暖化は二つの地球規模の課題だ」と述べたことは昨今の状況を象徴していた。イスラム国(IS)をはじめとするイスラム過激派によるテロが頻発し、COP21の直前にもパリで130人以上が犠牲になった同時多発テロが起きている。一方、地球温暖化に起因すると考えられる気象の極端現象が世界中で頻発し、テロと並んで無為な死を増加させているのである。  

世界大手のドイツのミュンヘン再保険会社が、1980年以降の35年間における世界の自然災害の発生件数・死者数などを公表している。この資料では、自然災害が「地震(津波を含む)・火山災害」と「気象災害」に二分され、気象災害は「(暴風などの)気象学的災害」、「(洪水などの)水文学的災害」、「(熱波などの)気候学的災害」に分けられている。  

35年間における自然災害の総数は2万1700件、死者数は174万人にのぼり、その中で「気象災害」は件数で88%を、死者数でも49%を占めている。5年前に2万人近くの犠牲者を出した東日本大震災、2004年に28万人もが犠牲になったスマトラ沖地震をテレビなどで見た私たちの脳裏に焼きついているのは、津波を伴う地震の恐ろしさであろう。ところが、「気象災害」も「地震・火山災害」とほぼ同数の死亡を引き起こしていたのである。  

自然災害のもう一つの特徴は経年変化にみられる。1980~89年、1990~99年、2000~09年、2010~14年の四期に分けると、「地震・火山災害」の1年当たりの発生件数は80件前後でほぼ一定である。対照的に、「気象災害」は「気象学的災害」「水文学的災害」「気候学的災害」のどれもが同じように増加し、1980~89年に320件だった総発生件数は2010~14年には810件になっている。実に、20年間に倍増するペースなのである。    

「気象災害」は「自然災害」とはいえ、近年急増していることからも「人為災害」の側面が強いといえよう。あらゆる「自然災害」への対処力を高める必要があることは論を待たないものの、CO2の排出削減をはじめとする温暖化対策への優先度が高いことを改めて確認しなければならない。

※2016年2月号より大井玄氏に代わり、大塚柳太郎氏が「フォーラム随想」の執筆者に加わりました。

タグ:,