ホットレポート気候変動問題をより身近に~「COY11Tokyo」に参加して
2016年01月15日グローバルネット2016年1月号
地球・人間環境フォーラム インターン
奥村 瑞貴(おくむら みずき)
私は2015年11月より約2ヵ月間、地球・人間環境フォーラムにインターンとして、京都大学大学院から来ています。今回、同世代である若者のための気候変動に関するイベントをリポートする機会を得ました。今回取材を行ったのは、COY(Conference Of Youth) 11 Tokyoという気候変動に関する諸問題を18~30歳の若者が議論し合うイベントで、2005年より開催され今回が11回目となります。 気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の開催地はフランス・パリでしたが、COYもCOP開催国の若者によるNGO団体が主催し、フランスに加えて世界中の8拠点(ブラジル、カナダ、マダガスカル、モロッコ、ベナン、ニューカレドニア、インド、日本)で「Local COY」と呼ばれるイベントが11月26~28日の3日間にかけて開催されました。
Local COY 東アジア代表拠点には東京が選ばれ、国立オリンピック記念青少年総合センターで催されました。私は日本、韓国、中国、台湾、マカオ、マレーシア、フランスなどからの約40人の若者との出会いに期待しながら初日の取材を迎えました。
世界各地で若者が集まり、交流や絆が生まれる
私が気候変動の影響を切実に感じるのは、台風や洪水といった異常気象が日本で発生した時です。今年9月に茨城県常総市を中心に豪雨に見舞われ、鬼怒川の決壊で深刻な水害が発生したニュースを見たときには、日本にもついに気候変動の脅威が迫ってきたかと実感しました。
気候変動が原因で沈み行く島嶼国の現状が報告されても、その物理的距離の遠さに「どうしたらいいんだろう」と戸惑います。その一方で、日本国内で1年間に何ヵ所も豪雨や洪水に見舞われるニュースを見ると、距離の近さ故に「何かがおかしいぞ」という恐怖が襲ってきます。私は遠いところの問題は、自分に関係があると実感を持てませんが、自分の身の回りに影響があると、その重大さに改めて気付くという「距離感」を抱えています。
今回は9拠点同時に世界各地で集まって議論することで、若者に気候変動問題をなるべく身近に感じさせ、各拠点でのコネクションを作ることにイベントの焦点が置かれていました。若者の意見を大人が仕切るCOPの議場に届けることがCOYの本来の目的ですが、今回はLocal COYを開催することで、同世代の若者に対して気候変動問題の普及啓発を行ったと言えるでしょう。なぜならば、インターネットの普及は私たち若者にたくさんの機会や情報を与えてくれますが、実際に交流や絆が生まれるのは面と向かって話し合いをすることに他ならないからです。
東京での会議は東アジア特有の気候変動問題と諸要因、そして対策を率直に議論する場となりました。現在アジアには、海面上昇で沈む恐れのある島はなく、熱波で道路が溶ける国もありません。一方で巨大台風や集中豪雨の被害は頻発し、温室効果ガスの最大の排出国としてその動向が注目されている中国はPM2.5や大気汚染問題に直面しています。周辺国と共通の気候変動問題について情報共有や連携ができることは、気候変動問題をいっそう身近で深刻な問題として認識できる機会となります。
東アジアのエネルギー問題は世界の気候変動と直結
さらに東アジアは気候変動対策に絡んで、エネルギー問題も抱えています。今回、東アジアのエネルギー事情について東京工業大学工学部社会工学科修士課程の針谷秀夫氏が講演し、東アジア3ヵ国(日本、韓国、中国)を合わせたエネルギー使用量は年々増加の一途をたどっていることが報告されました。東アジアのエネルギー問題は世界の気候変動と密接につながっているということを、エネルギー政策の決定の上で深刻に受け止めなければならないのです。
クリーンなエネルギーに移行していこうという気運がある一方、2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故は、世界各国のエネルギー政策に衝撃を与えました。国際環境NGO FoE Japanの吉田明子氏が担った「再生可能エネルギーセッション」では、福島第一原発事故への日本の対応や、エネルギー政策などが紹介されました。中国も韓国も原発保有国であり、原発の是非は若者の間でも議論し続けられると思います。
ツバルの海面上昇を身近に意識する大切さ
今回ツバルからゲストスピーカーとして一般市民であるタレシ・シンキアン氏が講演しました(写真②)。ツバルは海面上昇の影響で島が沈む危機にひんしていることで有名になった国として記憶に新しいと思います。まさに気候変動問題の遠近感によっていかに危機感に差が生じるか、各国の若者に問いかけるプログラムでした。
シンキアン氏は非常に美しいツバルの環境や生活習慣と海面上昇による被害の様子を比較しながら解説してくれました。私は美しいツバルの景色に心を打たれましたが、相変わらずツバルは遠い国だと感じました。しかし、ツバルの景色や水害の被害を日本に重ねてみると、過去の異常気象による大きな土砂災害や洪水被害を思い起こすことで距離は縮まり、ツバルの現状を受け止めることができました。
東アジアの将来を担う若者として、私たちは気候変動問題に関わっていかなければなりません。そして共に連携して地球温暖化を阻止し、生活を守らなければなりません。私たち若者にその問題意識は十分にあるでしょうか。あまりに距離の遠い環境問題を聞かされてうんざりしていないでしょうか。その一方で距離の近い気候変動問題にも気付かず、疑問も持たず、原因も探らずにいるなんてことはないでしょうか。
東アジアには東アジアの、日本には日本の、ツバルにはツバルの気候変動問題があります。遠い問題を理解できなくても、まず身近な問題に対処しようと思えば良いと思います。環境問題と私たちの距離を近づけ、そこから視野を広げることができれば、私たちが環境をもっと身近に意識し、行動に移すことが出来るのではないでしょうか。
一度きりでなく今後も継続を
COY 11 Tokyo実行委員会は、「Get connected, Change your future(つながり合い、未来を変えよう)」というスローガンを掲げ、各国の若者がCOY 11 Tokyoを通して新しいつながりを形成することに尽力し、その目標は十分達成されました。
海外だけでなく日本国内に気候変動問題の意識や行動を広めることは、一度きりのイベントで完結するものではなく、時間を要することは間違いないと考えています。つながり合いが作られた今回のイベントが、今後も継続していくよう私は期待しています。