環境条約シリーズ 286農業における安全と健康の確保のための農業安全健康条約
2016年01月15日グローバルネット2016年1月号
前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)
日本の農業は、後継者不足、耕作放棄、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の影響など、さまざまな問題に直面している。そのため、農業の構造改革に向けて2009年に農地法が改正され、農地を借りたり、農業生産法人に出資したりして、農業に参入する企業が増えている。また、外国人の農業技能実習生の受け入れも進められている。このような、農業の企業化や外国人の参加との関係で、農業における安全と健康の確保が改めて問われている。
その点については、国際労働機関(ILO)(本誌1994年8月)の下で、2001年に農業安全健康条約(第184号)および同勧告(第192号)が採択されている。対象とされる農業活動は、企業による農・酪・林業活動であり、機械や設備の運転と保守、直接の加工・貯蔵・輸送も含まれるが、自給農業は対象とされない。
締約国には、農作業に関わる事故および健康に対する危険を防止するための施策の実施、権限ある機関の指定、使用者および労働者の権利・義務の特定、是正措置や制裁措置を含む紛争調整メカニズムの確立などが義務付けられている。また、使用者には、危険性を評価し、予防的・保護的措置を取る義務、具体的には、訓練・教育・指導・監督、緊急時の作業停止や避難指示などが定められている。他方、労働者には、通報受理・協議、代表者の選出、避難、危険通知などに関する権利とともに、安全措置の遵守や使用者との協力に関する義務が定められている。
とくに、化学物質については、関連情報の提供、包装・表示、輸入、散布・使用・貯蔵・輸送、回収・再使用、廃棄、設備や容器の維持・修理・洗浄・廃棄などに関する予防的・保護的措置が定められている。同様に、動物や家畜、家畜小屋についても、アレルギー、感染や中毒などを防止するための措置が定められている。また、年少者や妊婦の安全および健康に関する措置や福祉施設についても定められている。
なお、勧告(第192号)には、多国籍企業や自給農業に関する奨励措置が含まれている。