特集/WISE FORUM 2015 報告 幸せな未来を創造する ~国産材とビジネス~「今来ている国産材」事例:国産材ビジネスの今と可能性 事例2 木造都市への挑戦 ~木造建築を通して、都市 に森をつくる
2015年12月15日グローバルネット2015年12月号
国産材を使った多面的な事業の現状と可能性について、基調講演と事例報告の概要を特集しました。
株式会社シェルター代表取締役
木村 一義(きむら かずよし)さん
株式会社シェルターは、日本初の先端木構造技術である接合金物工法「
在来工法は、ノミとノコギリで木材を加工し、大工や棟梁が勘と経験で建物を建ててきました。一方KES構法は、木造建築ではタブーであった、梁と柱など木と木の接合部分に金物を使うというものです。そして勘と経験で建設するのではなく、構造計算をします。
私はこの工法を42年前の1974年に開発し、当時カナダとアメリカと日本で特許を取りました。しかし実際この金物工法が普及するまでには、大変な時間がかかりました。
木造の「2時間耐火」構造部材の開発
耐火木構造部材「クールウッド(COOL WOOD)」を開発しました。建築基準が厳格な日本で生み出された、世界初の2時間の耐火建築部材です。核となる木材を石膏ボードで囲み、外側をさらに木材で覆った製品です。国内で2時間耐火試験に合格し、2014年11月に柱、梁、同年12月に壁の国土交通大臣認定を取得しました。
日本は世界で最も建築基準の厳しい国です。もともと木造建築が多く、関東大震災や阪神・淡路大震災、東日本大震災などでは大規模な火災が発生し、多くの木造建築が消失しました。そのため、建築物に対する防火・耐火基準について日本は非常に厳しいのです。
しかし現在、日本の住宅を含めた建築の大部分を「クールウッド」で建てることができます。この耐火技術により、法規上、防火地域の中でも従来の概念をはるかに超える木造14階建てまで建てることが可能になったからです。
今年9月から、 京都の二条城近くの防火地域に、4階建ての「京都木材会館」を建設しています。1階の柱にクールウッドを使い、構造材の100%は京都府産材を使っています。
また全国初・日本最大の木造耐火の文化ホールとして、山形県南陽市に今年10月、南陽市文化会館がオープンしました。南陽産のスギ材を利用し、大ホールは木造の音楽ホールとしては世界最大といわれています(写真)。
竣工式の際にこのホールで音楽会を開催したところ、音響機器を調節する必要がないと音響会社の人から驚かれました。また、演奏家からも音質が評価され、感激しました。
産業間をつなぐWin-Winのビジネスモデル
南陽市文化会館の建設は林野庁から補助金をもらい、私たちのビジネスの特徴である「Win-Win」のビジネスモデルに基づいて仕事を進めました。「Win-Win」は「皆に平等に利がある」ものです。一方、20世紀のビジネスは「勝者がいれば、誰かが敗者になる」スタイルで、これは古いビジネススタイルだと私は思います。
当社はWin-Winのビジネスモデルで構造体・建築材だけを提供し、1次産業から3次産業まで産業間をつなげ、林業の6次産業化の構築をサポートしています。産業間を連携させる役割を担うことで、画期的な新しい建物・木造建築が建ちます。このスタイルが当社のビジネスの一番の強みです。
欧州では木造建築を最優先に推進する「ウッドファースト」という考え方が流行しています。建物を建てるときに、最初に木造で建てられないか検討するというコンセプトであり、「環境」をキーワードに木造建築が見直されています。
日本でも、今後さらに木造建築が見直されることは確実であり、私たちも「Win-Win」のスタイルで事業を進めていきたいのです。
「木造都市」実現への挑戦
私は「木造都市」を日本から世界に発信したいと考えています。木造都市は地球環境、人びとの生活の両方にメリットがあります。なぜならば木は唯一の再生可能な資源であり、CO2を吸収して炭素として固定しながら成長します。地球環境と人間に優しい木造都市を日本から実現していきたいのです。
日本は本来、木造建築の文化の国でした。神社・仏閣を建てる伝統工法は世界の木造建築技術の中でも最高であり、今後もそうあり続けると思います。
一方、近代木造建築は西洋に50年ぐらい遅れて、技術が追いついている所もあればまだ到達していないところもあります。木造建築を伝統とする国が、他の国に負けてはいけません。私は近代木造建築においても日本を世界のナンバーワンにしたいと思っています。
日本の木造都市実現の突破口を開くことを目指していきます。